脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

もやもや病

 

 

もやもや病について。

 

医師国家試験レベルだと、血管が細くなって代わりにもやもや血管ができる病気…ぐらいの理解でしょうか。

もう少し本質的なところから説明してみたいと思います。

医学生、研修医向けです。

個人的な理解に基づく内容も入っているのでご注意を。

 

 

もやもや病は、遺伝子疾患と考えられています。

RNF213という遺伝子に変異があると起こる病気です。(必ずしもそうとは言い切れなかったり、人種によって差があったり、健常人にもこの遺伝子の変異が数%あったりするのですが、それはとりあえず置いておきましょう)

 

この遺伝子変異が起こると、なぜか(もちろん原因遺伝子が推測されている以上機序も色々と考えられていますが、はっきりとは判明していません)、内頸動脈の終末部と後大脳動脈の末梢が進行性に狭窄していきます椎骨動脈や脳底動脈には狭窄はできません。(内頸動脈-後交通動脈-後大脳動脈(P2以遠)は発生の起源が同じことが関連しているようです。fetal typeを思い出しましょう)

 

ちなみに、狭窄の順番は内頸動脈が先で次に後大脳動脈です。

それから、原則として両側性に進行します。

 

 

根本的な病態はこれだけです。

画像的な所見や症状などはすべてここから考えればたどり着けます。

 

 

まず内頸動脈の終末部が狭窄してくると何が起こるかというと、当然前大脳動脈・中大脳動脈領域の血流が不足してきます。

 

それを補うために内頸動脈・前大脳動脈・中大脳動脈から分岐する穿通枝が発達します。そのため、普段MRAやDSA画像では普段視認できないそれらの血管がもやもやとした影として写ってきます(basal moyamoyaと呼ばれる血管群)。

そのうち前大脳動脈も中大脳動脈も全く映らなくなり、内頸動脈は先端部で途絶しもやもや血管のみが写るような形になります。

 

また、まだ狭窄して血流の落ちていない後方循環系から前方循環系にも、基本的にleptomeningeal anastomosisを介して血流が補われるようになります。(中大脳動脈系の狭窄が先に進行し、前大脳動脈系が残っている場合、前大脳動脈系から中大脳動脈系へのleptomeningeal anastomosisもよく見られます)

 

それでも血流が足りない場合は、前頭蓋底の硬膜から前頭葉に血管が生えます(眼動脈-篩骨動脈 ethmoidal moyamoya)。あるいは円蓋部にも硬膜(大脳鎌)から血管が入ってきます(外頸動脈-中硬膜動脈 vault moyamoya)。これらの硬膜を介する側副血行はtransdural anastomosisとも言います。

 

 

その後、後大脳動脈が狭窄してくると、先の外頸動脈を介した側副血行がメインとなり、ついには内頸動脈・後大脳動脈の主幹動脈はほとんど映らないようになってしまいます。

 

 

このように、各種側副血行の発達による、ダイナミックな血行動態の変化(内頸動脈系→後方循環系・外頸動脈系)がもやもや病の特徴です。

 

 

なので、一言でもやもや病と言っても、この血行動態変化のどの段階なのかを把握する必要があります。

有名な鈴木の分類があるのでご紹介しておきます。(難病情報センターより)

第1期:Carotid fork狭小期。内頚動脈終末部の狭窄。
第2期:もやもや初発期。内頚動脈終末部の狭窄にもやもや血管が見られ始め、中大脳動脈の皮質動脈が拡張して見える。
第3期:もやもや増勢期。もやもや血管が増勢し前大脳動脈、中大脳動脈群が脱落し始める。
第4期:もやもや細微期。もやもや血管は退縮し、前大脳動脈、中大脳動脈群がほとんど見えなくなる。後大脳動脈が脱落し始める。
第5期:もやもや縮小期。内頚動脈系主幹動脈がほとんど消失。
第6期:もやもや消失期。外頚動脈および椎骨動脈系よりのみ血流保全

 

 

人によってはこの側副血行による代償が上手くいき、無症状のまま成人を迎えるケースがあります。一方で、側副血行による代償が足りず(狭窄の進行の方が早い)、脳が虚血状態になってしまう人もいます。発症形式の違いはこの辺りから来ています。

 

側副血行による代償が不足 → 過換気で血中CO2濃度低下 → 脳血流低下 → 一過性脳虚血発作

というのが有名な虚血型もやもや病の発症形式です。子供の頃に熱いものをふーふーしたり、リコーダーを吹いたりして一過性の脱力やしびれが出るやつですね。

 

この際は鈴木分類で言うと第3期であることが多いです。(言い換えれば、第1-2期は無症候であることが多く、基本的に偶然でないと見つからない)

後大脳動脈に狭窄があると第4期になりますが、そこまで進行していることもあります。

 

 

 

先に書いた通り、ある程度代償が上手くはたらくと、虚血症状を出すことなく成人しますが、側副血行路は正常の還流ではないので脆いことがあり、出血を起こすことがあります。これが成人で出血発症が多い理由です。出血部位は基底核部だったり、脳室内だったりします。側副血行路に微小な動脈瘤が出来ていたりすることもあります。

 

 

後は脳血管造影検査を行えば脳のそれぞれの領域にどこから血流が来ているのかが分かりますし(もやもや病の方の脳血管造影検査は個人的に好きです 感動するというか、人体ってよく出来てるなと思います)、脳血流検査(15O-gas PET、Xe-CT、SPECT、MRI PWI、CT perfusion)を行えば虚血の程度が分かります。 

 

 

 

 簡単に治療についても一応触れておきます。

 

原則は血行再建術です。直接と間接がありますが、要は外科的に手を加えて脳血流を増やす(あるいは脳血流が増えていくような環境を作る)という治療です。それにより虚血が解除され梗塞が予防できたり、脆弱な側副血行へのストレスが減り再出血が予防できたりします。

 

 無症候性に見つかった場合は、各種検査(脳血管撮影、脳血流検査など)を行い、虚血の程度などを調べます。基本的には経過観察になることが多いかと思いますが、フォロー中に症候性になったり、画像上の狭窄が進行してきたり、虚血の程度が悪くなってきたりした場合は脳梗塞予防に血行再建術を行うこともあるかもしれません。

 

症候性に見つかった場合、

虚血発症TIA脳梗塞)であれば脳梗塞再発予防目的に、小児なら直接血行再建 or/and 間接血行再建、成人なら直接血行再建 (and 間接血行再建)を行います。

出血発症であれば、再出血予防目的に直接血行再建 (and 間接血行再建)を行います。(JAM trial)

 

特に後方循環系領域の出血例で効果が高いと言われています。

これはつまり、choroidal anastomosisという脳室周囲の吻合(脈絡叢動脈もしくは穿通枝と、髄質動脈(皮質動脈からの穿通枝)の脳室周囲の吻合。髄質動脈は通常とは逆行性に、血流が深部から表層方向に流れることになる。この吻合があると非常に出血しやすいと言われている)が関与している例で効果が高いということのようです。

その逆行する髄質動脈の先の皮質動脈を狙ってバイパスをするtarget bypassが有効という報告もあるようです。面白いですよね。

 

 

以上。