脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

STA-MCA bypassのコツ② 吻合編

 

 実際の手順を段階ごとに分けて、それぞれで気を付けるべき点、自分が気を付けている点を挙げてみます。注意点を網羅しきることは不可能ですし、人によって気にすべきことも違うと思いますし、流派による差もあるでしょう。その辺りは踏まえてもらった前提でいきます。

 

 

 STA parietal branchを利用したSTA-MCA single bypassを想定してみます。

 

① 皮膚切開、STA剥離

 顕微鏡下で行います。(マクロでやる流派もありますが、やはりマイクロ下の方が圧倒的に止血が確実で出血が少ないです。結局マイクロの方が所要時間も短いような気がします。)

 小円刃で真皮まで切開、フックで左右にテンションをかけバイポーラで止血しながら皮下組織をカッティングしSTAを露出させます。STAの側面から出る枝を焼き掃いつつSTA parietal branch直上を切開して左右に開き、きれいにSTAのみを剥き出しにしていきます。

 余計な組織はSTAに残さない方が、吻合時に楽です。ねじれなども把握しやすく、またなるべく組織を皮膚側に残すことは創傷治癒の観点からも望ましいです。本幹、frontal branch分岐部も確認しておきます。

 frontal branchも使うなら皮切の頭頂端を正中まで伸ばし皮弁の裏からこちらも剥離します(T字に切開してfrontal branchもcut downで剥離する流派もあります)。proximalから辿っていけば難しいことはありません。

 parietal branchの剥離は原則上側頭線を超えるあたりまで行います。これで開頭範囲内のどこにでも長さとしては繋げるはずです。

 一番遠位で切開し、ヘパリン生食で血管内を満たしてSTA parietal branch分岐部直後とdistal付近の2か所をclipでとめておきます。その後そのdonorは尾側に翻転し守っておきます。(直前まで血流温存派もいるかもしれませんが、開頭の邪魔なのと先にcutしておいてもきちんとヘパ生を通しておけば特に問題がないことからさっさとcutしています。)

 

② 開頭

 前述のlinear skin incisionで2 burr holeで開頭も可能ですし、上端から少し前に皮切を伸ばして開頭をもう少し大きくすることもできます。その辺はrecipientに応じて決めます。

 側頭筋は皮切に沿って切開し左右にsplitしたり、開頭の範囲が広いのであれば通常のpterional approachと同じように前方を骨から剥離して後方に引いたり。

 とにかくパーフォレーターやカッターでSTAを巻き込むことだけは避けるようにします。

 MMAを残す場合は骨内走行の有無を事前に確認し、sphenoid ridgeを残すような開頭にしてMMAの走行をしっかり見ながらridgeはdrillingします。

 

③ 硬膜切開

 STAが硬膜内に入っていくところは想定して切開します。

 もやもや病でEDASやらMMAを残さなければいけないような場合は色々話が変わってきますが、単なるsingle bypassではそんなに気にするところは多くありません。

 

④ recipientの同定

 ある程度術前検査でどこに繋ぐか検討しているはずですが、脳表をよく観察し、より条件の良いものを選択します。(target bypassは別)

 条件としては、動脈壁が厚そうなもの(真っ赤でなく、白みがかったピンク色をしているもの)、太めのもの、縫合しやすい向き(個人的には横よりも縦)のもの、小枝が少なくて吻合範囲が確保しやすいものなど。あと、開頭野の端よりは中心に近い方が繋ぎやすいですね。

 ICGを行うと血流遅延のある場所や、to and floとなっている場所が分かり繋ぐべき部分のヒントになったりします。状況次第ですが。

 

⑤ recipientの剥離

 くも膜切開、recipientを縫合する範囲を超えてfreeにし、裏からの枝などがあれば凝固切断します。あまりに太い枝が出ているのであればそこは避けるべきでしょう。小さく細いものはあまり焼いても問題になることはありません。枝にも別でclipをかけるという手もあります(ラバーを入れる邪魔にならない場合)。必要な長さが確保できたらゼルフォームなどを血管の下にいれ、持ち上げて少しでも浅くしておきます。グリーンラバーを敷き、針置きや針の持ち替えで使うゼルフォーム台を近くに置き、持続吸引チューブもセッティングしておきます。

 針置きは少なくとも手前には置いておくのが良いと思います。

 

⑥ donorの準備

 開頭野の上に置いたガーゼの上で行います。

 血管外膜に付着している結合織を極力除去します。吻合部から2cmぐらいは頑張った方がいいです。これを怠ると、糸が結合織にからみ結ぶ際にイライラすることになります。この辺の除去の仕方など、まさにうまい人を真似るべきポイントです。要領を得ないと無駄に時間がかかるポイントでもあります。

 fishmouthトリミングを行い、血管断端にピオクタニンを塗布して視認性を良くします。ここでピオクタニンを付けすぎてしまうのが良くあるミスですが、STAの水分を取って、ゼロピンの先端を使ってゼロピンを閉じたまま塗るといい感じになります。ここも上手い人の真似で。

 stay suture用の10-0ナイロンを2針かけておきます。通すポイントは血管の端から、血管の厚みの2倍の位置です。

 

⑦ recipientの準備

 先のガーゼを外しdonorを近くまで移動させた上で行います。この時点で術野の水分が持続吸引によってコントロールされており、また血が垂れ込んだりしていないことをしっかり確認します。(大事)

 donorの径に合わせてrecipientにもピオクタニンでマークします。この際、donor径よりほんの若干長めにマーキングするところがポイント。そうすることでstay sutureを置くとrecepientが長軸方向に少し寄せられ、内腔が開きやすい状態になります。

 donorとそこに通っている針を良い位置に置いたらrecipientの両端をclipして血流遮断します。この際、clipはできれば吻合面に平行に(ねじれないように)、逆「ハ」の字になるように入れた方がいいです。前者はstay sutureの針が通しやすくなったり、後者はclip headが吻合の邪魔になりにくくなるので。clipと吻合部の距離に余裕があればあまり関係ないですけどね。

 その後、arteriotomyを行います。自身は1㏄のシリンジをつけた注射針を使用していますが、ここも色々な流派があるでしょう。刺して穴をあける場合、clipと同じ方向でrecipientを鑷子で把持すると、内腔が縦長になるので刺しやすくなります。穴が開いたらマイクロ剪刀で切開しますが、ハサミの向きとarteriotomyの向きをしっかり合わせてギザギザにならないようにします。(多少なっても大丈夫)

 ハサミの下の刃で少しMCA壁を持ち上げるようにしながら切るのがコツでしょうか。

 

⑧ 実際の吻合

 練習の成果を思う存分発揮しましょう。とにかく、

吻合部位に合わせて針を狙った方向に持つ → (顕微鏡最大拡)→ 鑷子を潜り込ませてSTAを持ち上げ、STAに針先を通す → 内膜確認、鑷子でカウンタープレッシャーかけて穿通 → MCAの外膜をもって持ち上げ、針の上に乗せる(あるいは針先でMCA壁を拾う) → 良いところで穿通 → MCAにカウンタープレッシャーかけて針を抜く →(同時に顕微鏡弱拡)→  針を手前のゼルフォーム台に置く →(顕微鏡中-強拡)→ 良いところを把持して結ぶ →(顕微鏡最大拡)→ 切る →(顕微鏡弱拡)→ 針を持つ

の繰り返しです。顕微鏡のズーム操作は実際は動作と同時に流れで行うのでちょっとニュアンスが違うかもしれません。

 ポイントは一針一針淡々と確実に進めていくこと。しっかりSTA内膜まで針が通っていること、MCAは裏縫いをしていないことをしっかり確認しながら行います。stay suture横は少しpitchを小さくするなど教科書的なこともやっぱり大事です。

 STAを吻合側とは逆にしっかり倒しておくのがコツです。Bemsheetなどを使って押さえてもいいので、しっかり倒しておくとSTAの内膜が見やすくなります。STAの長さに余裕が必要ですが。

 糸を切る際は、最後結び終わった後に長い方の糸と一緒に短い方の糸を把持すると、短い糸を切った後にそのまま長い方の糸も切れるので少し早くなります。(長い糸を鑷子の間に入れつつも通り越して短い糸を把持しに行く感じ… 説明が難しい…)

 STAもMCAも外膜を摘まむのは問題ないので積極的にやりやすい状況を作り出していきましょう。STA本体を把持するとかもありですよ。最終的に内腔になる部分の内膜を損傷しなければOK。

 手の位置も大事かもしれません。どうしても手が遠くなってしまうような場合は長めの道具にするとか。後は体の位置も大事で、自分が動けば45~90°ぐらいは自由があるので、別に片側吻合するごとに移動しても構わないわけです。数秒のロスにしかなりませんからね。

 術野がwettyだと糸に水がついて表面張力でくっつきイライラすることがあります。まずはそのような術野を避けることが第一ですが、そうなってしまった場合は糸をあえて通常より長めに持つと絡まりが解消されます。

 

⑨ 遮断解除

 多少の出血であれば止血剤をあてて圧迫で止まります。線状に血が吹くようであれば流石に再度遮断して追加縫合した方が良いかもしれません。

 結構STAの分枝からも出血があったりするので注意。(本来準備段階で処理されているはずですが。)

 doppler、ICGで血流を確認。ICGではMCAよりもSTAが先に造影され、その後そこからMCAが灌流されるのが確認されるはずです。(先にMCAが造影される場合、吻合部がおかしいか、STAに何かが起きているか、手術の適応がおかしいことになります。)

 

⑩ 閉創

 硬膜貫通部は緩くしておき、止血剤とフィブリン糊などでsealします。骨弁を戻す際もdonorが圧迫されないよう注意。ある程度尾側の骨削除が必要です。側頭筋も変に近位部は締めないよう注意します。

 最後までdopplerで血流の確認。

 創はしっかり皮下でgaleaの残りを寄せて、表皮にかかる圧を減じた上、skin staplerもしくは4-0ナイロンあたりで連続縫合します。(毛根より浅い層)

 皮下に血液や浸出液が溜まると治癒不全の原因になるのでしっかりドレーンを効かせておくか、先にgaleaと側頭筋を吸収糸でankerしておくことでdead spaceを潰しておくという手もあります。

 髄液が皮下に溜まる場合はさっさとspinal drain入れて治した方がいいかと思います。

 

 

 こんな感じでしょうか。書ききれていない気がするので思いついたらまた追記していきます。

 ちなみに自分のSTA-MCA(M4) bypassにかかる平均MCA遮断時間は今のところ24分ぐらいです(片側5-6針)。だんだん短くなっては来ているんですが…。何となく目安として20分と言われているので目標としていますが、まあ安全確実に繋ぐのが大事ですからね。雑にならないよう気を付けつつ精進します。

 

 

追記(2022/2/2)

MCAにかけるクリップの向きですが、脳表に対して立てる方向で上では記載していますが、脳表に平行に入れた方が良いかなと思うようになりました。

立てる向きのメリットとしては、その方が内腔が縦に潰れるためarteriotomyがしやすい、stay sutureの針が通しやすいという点でしょうか。ところが、デメリットとしてstayを結ぶ際にクリップヘッドが邪魔になりやすい、stayの横を縫う際に反対側の壁が近いため(内腔が縦に潰れているから)裏縫いしやすいというところがあります。

このデメリットが結構大きいので、最近はクリップは倒して脳表に平行な向きに入れるようにしています。

 

もう一点、レジデントの先生の縫合を見ていると、STAがMCAに被さってしまい、STAに針を通した後MCAが見えない!という状況に陥って苦労していることが多い気がしました。

これを解消するための方法としては、まず先に記載した通りarteriotomyの長さをしっかり合わせること(短いとSTAが余って被りやすい)。そして最近気が付いた対策が「stay sutureのbiteを他より短めにとること」です。切れてほしくないからといってbiteを大きめにとると、STAがMCAに多く被るため、特にstay横の縫合が非常に大変になります。stay sutureのbiteを必要最低限にすることが一つコツだと思いました。