脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

脱毛を避けるために

 

最近テレビを見ていて、ふと、手術に伴う脱毛はなるべく避けたいよなぁ…と思うことがありました。

 

出来る限りの注意を払ったうえで脱毛してしまう分にはしょうがないところもあるのかもしれませんが、目立つ脱毛は、ただでさえ侵襲が大きいという開頭手術のデメリットをさらに拡大することになってしまいますし、命が助かったんだからいいだろうで押し通せるような時代でもないと思うので、知識を得て脱毛をなるべく避ける努力はすべきでしょう。(剃毛も原則不要です。)

 

以下に列挙することを気を付けてからは創縁に沿った脱毛はほぼなく、ほとんど目立たないかどこにあるか分からないぐらいの傷になっています。どれも当たり前のことではありますが、レジデントの皆様におかれましてはご参考までに。

 

 

① 頭皮クリップを長時間つけない

非常に大事なポイントです。

皮下からのoozingの止血のために問答無用で頭皮クリップを隙間なく付ける施設がありますが(経験上ありました)、短時間なら良いものの、長時間これをやると創縁が虚血となり、毛根が死にます。

仮死状態(?)で済んで、一過性の脱毛のみでしばらくするとまた毛が生えてくることもありますが、不可逆なこともあります。

隙間なく、というところも悪ポイントで、横からの血行も漏れなく遮断するので創縁の虚血レベルがさらに高くなります。結果、創縁に沿ってある程度の幅を持った脱毛を来してしまい、非常に目立ちます。

頭皮クリップはなるべく付けない、付けるとしても間を空けてピンポイントに必要なところのみ、というのが対処法になります。

 

② めくった皮弁を長時間強く引っ張りすぎない

翻転した皮弁を強く牽引すると皮弁への血流が悪くなり、結果として皮弁の辺縁にあたる創に沿った部分でやはり毛根が死にやすくなります。

開頭が終わったら皮弁を牽引するフックを弱めておくのは大事です。

 

③ galeaの縫合の際、毛根がある層より表層に針・糸を通さない

galeaだけでなく毛根のある真皮層まで糸をかけて結紮すると、毛根が巻き込まれた場合その毛根は虚血になって死にます。

頭皮の皮下(帽状腱膜)縫合の目的は、表層が離開する方向へのテンションを減じることなので、galeaの層のみに吸収糸を通して縫合すればOKです。そのうえで表面がずれないようにskin staplerで合わせていくのが一番きれいに治ります。

毛根より浅い層で4-0ナイロンあたりで「連続」縫合して表層を合わせるのも理にかなっていて良いと思います。連続が血流温存のポイント。

 

④ 過剰にナイロンできつく縫合しない

skin staplerによる閉創とナイロン糸による閉創を比べた際、何となく前者は手抜きで後者は丁寧な感じがしますが、意外と結果はそうでもなかったりします。

ナイロン糸で頭皮の全層をかけるような形で全て縫合した場合、適切な強度で締めないと創が虚血になります。先の頭皮クリップの話と一緒です。ひたすらナイロンで閉創し、どれも締め方がきつかった場合、創にどこからも血流が来ないことになり、脱毛するどころかそもそも創が治癒しないこともあります。(創傷治癒には線維芽細胞などを運んでくる血流が絶対必要)

skin staplerはその辺が割と良く出来ていて、適切な圧で創を寄せるので虚血になって創がつかなかったり脱毛したりということはまず起きません。(そこまで深くかからないのも良いのだと思います)

これは皮下ドレーンを抜去した後もそうで、以前はドレーン孔をナイロンで縫合して閉めていたのですが、その周囲に脱毛をきたすことがあったので、 途中からstaplerで閉じることにしました。以後目立つような脱毛は経験していません。ナイロンでやるなら浅めにした方が良いかと思います。

 

⑤ 毛根を挫滅したり焼いたりしない

これは一応当然ながら気は使うべきというぐらいの意味合いです。止血を優先すべき状況では多少の毛根の犠牲は仕方がないこともあります。

創縁に露出している毛根をピンポイントに一部ダメにした程度では普通目立つような脱毛にはならないですからね。頭皮クリップを長時間付ける方が罪が重いと考えます。

まあ当たり前のこととして、皮弁を鑷子で摘まむときは毛根を避けるようにします。

 

⑥ 3点ピンはSTA、OAを避ける

STA、OAを刺してしまうと、ピンを外した際に当然出血します。その後皮下血腫を作った場合に、その血腫の圧で頭皮が虚血となって毛根が死に円形脱毛をきたすことがあります。一度ありました…

 

⑦ 円座、馬蹄形ヘッドレストなどでの頭皮の長時間の圧迫を避ける

3点ピンなら良いですが、頭皮をある程度の面積で長時間圧迫すると毛根が虚血になって死にます。褥瘡と原理は一緒です。

 

⑧ 虚血な部分が出来ないような皮膚切開にする

皮膚切開がやむを得ず交わるような場合は直交するようにするとか、STA、OAからの血流の方向を考えるとか。皮弁の基部は広めにするとか。

STA-MCAバイパス(特にダブル)は頭皮が虚血になり、創縁が特に脱毛しやすい手術になるので皮膚切開のデザインと閉創にはかなり気を遣う必要があります。

 

⑨ 手術時間を短くする

そもそも論ですが、一番大事かもしれません。非常に長時間の手術となった場合、やはり脱毛は起こりやすくなります。

状況にもよりますが、早いは正義、が割と正しい場面が多いと最近感じています。

(丁寧で早いのがもちろんベスト)

 

 

あと、皮切の向きを垂直じゃなくて毛流に沿ったナナメ方向にすることで毛と毛根を切らないようにして脱毛を防ぐ、というのを聞いたことがありますが、別に垂直に切っても埋没した毛根からまた毛が生えてくるから良いんだ、みたいな反論もあるようで。実際普通に垂直に切っていて問題になることは特にないように思います。

 

以上。