脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

Acom瘤に対するinterhemispheric approachのバリエーションについて

 

Acom瘤を開頭でclippingする場合、まず前から行くか横から行くかという選択肢がありますよね。(そもそも最近はcoilingで行くことが多くなりましたが…)

 

これに関しては色々な施設で色々な方針があるかと思いますが、おそらくもっとも一般的かつ中庸な方針としては、「瘤の突出方向が上向き、後ろ向き」「大きさが10mm以上」「前頭蓋底から10mm以上でhigh position」であれば前から(interhemispheric approach)を選択し、それ以外であれば横から(transsylvian approach、pterional approach、subfrontal approach)を選択するというものではないでしょうか。

 

今回は、その中でもinterhemispheric approachのみに焦点を当てて考えてみます。

 

interhemispheric approach(以下IHA)と言っても実はバリエーションがあります。

 

・anterior IHA(以下AIHA)かbasal IHA(以下BIHA)か

BIHAは、開頭をnasionの方に切り込んで前頭蓋底ぎりぎりまでにすることで、「bridging veinが少なく適応可能な症例が多い」「大脳鎌をbaseで切離し、両前頭葉底部のくも膜まで開くことで広く浅い術野が得られる(大型の動脈瘤にも対応可能)」といったメリットを享受する方法です。

デメリットとしては、前頭洞が開放されるためその処理が必要で多少時間がかかる、両側の嗅神経を操作するため一定の割合で嗅覚障害(一過性、永続性)が発生するというところです。早期に嗅神経の剥離、保護といった操作が可能ではあるのですが、完全には嗅覚障害を予防できないというのが広い術野を得ることのトレードオフとして存在します。

AIHAの定義は、BIHA以外のIHAということになるでしょう。前頭洞を開放せず、開頭位置がBIHAよりも高い位置になるのが特徴です。しかしながら、AIHAでも両前頭葉底部のくも膜まで開くことは可能ですし、開頭位置が低めで前頭洞があまり上まで発達していない人であれば途中で嗅神経の剥離を行うことも実際は可能です。

なので、BIHAというと大体同じ方法を指すのですが(それでもバリエーションはあります)、一言にAIHAといっても実は割とバリエーションがあるというところが今回のポイントです。

 

・両側前頭葉底部のくも膜を開くかどうか

ちょっと触れましたが、これも選択肢です。rectal gyrusの底、横からのapproachでもちょっと開放するあのくも膜ですね。切ったらいいやんと思うかもしれませんが、より左右の前頭葉間が開いてスペースが取れる代わりに、おそらく嗅神経障害が出やすくなります。前頭葉を左右に広く開く=嗅神経がさらに引っ張られるということです。

そこのトレードオフなので、必要がなければ(つまり動脈瘤の大きさや形状などから可能な限りの広い術野を確保しなくても良いということであれば)そこの膜は残しておくのが良いのかもしれません。

Acom周囲は剥離して、前方(術野手前)の方は剥離せず残しておくという方法もあるでしょう。

くも膜だけ残すでも良いですが、左右のrectal gyrus間は強く癒着していることが多いので、そもそも底部から1-2gyrusは剥離せず残しておくという手もあります。

 

脳梁膝部を見るかどうか(どこまで背側(術野手前、術者の腹側)の剥離をするか)

classicalな方法では、まず脳梁膝部(genu)の方向に進み、両側A3とgenuを確認し、そこから切り上げる形で両側前頭葉間の剥離を進め、Acom complexに至るという手順を取ります。

が、積極的にgenuを出さずに、pericallosal arteryが確認できたらどんどんAcom方向に剥離を進めていくという選択肢もあります。

特に、BIHAでは前頭葉底部のgyrus間(rectal gyrusなど)の剥離のみでAcom complexを観察することも可能です。(ただし術野は狭くなり、BIHAのメリットの1つである広いworking angle(特に上下方向)は達成できない)

genuをしっかり出すと、「剥離範囲が上下に広くなり最終的にworking spaceが大きくなりやすい」「下から切り上げる操作がしやすく、剥離難易度が下がり軟膜を損傷しにくい」「何かあった際にA3-A3バイパスが行える」といったメリットが生まれます。

ダイレクトにAcomに行くような形にすると、「狭く深いシリンダー型の術野になりやすい」「剥離の難易度が高い」と言ったデメリットはありますが、慣れた上級者なら「早くて低侵襲」かもしれません。瘤が大型でなく、高位や向きの問題でIHAを選択している場合、そこまで広い術野は必要なく、これで良いという見方があります。

 

・開頭をSSSを跨いで両側にするか、片側にするか

BIHAでは片側にするという選択肢はないと思いますが(前頭洞の処理が大変)、AIHAでは片側にすることも可能です。

AIHAで両側にした場合、対側も硬膜切開したり、可能であれば大脳鎌も離断することで別角度からの視軸が取れ、最後のworking angleの自由度が増すというメリットがあるでしょう。が、そこまでするなら最初からBIHAにすれば良いのではという話ですね。

それに、AIHAで両側の前頭葉を引くことは両側の嗅神経障害に繋がります。(BIHAでは初期に嗅神経の処置を出来るので、それよりは嗅神経障害のリスクは低いと思われる)

逆に言うと、片側の前頭葉を外側に引くのみであれば、対側の嗅神経は最後まで痛まない可能性が高いので、嗅覚障害が出にくいという側面があります。(片側だけでも残っていれば最悪の完全嗅覚脱失は避けられる)

これは割と重要なポイントで、IHAの弱点である嗅覚障害をなるべく避けたいのであればBIHAではなく片側のAIHAを選択するというのは理に適っています。(approach routeにbridging veinがないことを術前にしっかり確認する必要はあります)

しかしながら、IHAを選択する理由が大型動脈瘤や複雑な形状の動脈瘤に対応するためである場合、working space/angleを極力大きく取るのが目的となるので、そこは嗅覚障害のリスクを取ってでもBIHAということになるでしょうね。

 

 

以上。

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