マイクロカテーテルの「テンション」について
動脈瘤コイル塞栓術におけるマイクロカテーテル操作について言語化してみます。
血管内治療初心者向けの内容です。
カテーテルのshapingについては今回は置いておいて、瘤内への誘導とコイルを入れていく際の考え方です。
システムについても今回は触れません。ガイディングやDACがしっかり上がって安定したところからの話になります。
マイクロガイドワイヤーとのコンビネーションでマイクロカテーテルを上げていくことになるわけですが、当然どちらも柔らかいものなので、血管の内側で壁にぶつかってそこを支えにしながら進むことになります。
マイクロガイドワイヤー先行で瘤内にカテーテルを誘導する場合(自分は基本的にこちらの方法です)、マイクロガイドワイヤーを先に瘤内に進め、その後カテーテルをじわじわ押して先端を瘤内に収めます。
この収めた直後の状況を、「『押しテンション』がかかった状態」と言います。(今回話したいのはこのテンションの話です)
「押しテンション」状態では、マイクロカテーテルはカーブの大弯側に接触し、押せばその分すぐに先端が進む状況になっています。
さて、ここからマイクロカテーテルを引いていくとどうなるでしょうか。
カテーテルを引いても先端は直ぐには引かれて動きません。
何故なら、「押しテンション」状態ではカテーテルがたわんでいるからですね。
カテーテルを引いていくと、徐々にたわみが無くなっていき、カテーテルは小弯側に当たって最短距離を取るようになります。
そうなって初めて、カテーテルを引くとそれに連動して先端も動きます。
この先端も引かれて動き始める直前の状態を「『引きテンション』がかかった状態」と言います。
マイクロカテーテルの先端の位置が同じでも、実は「押しテンション」と「引きテンション」の状態があり、さらに言えばその中間に無限の連続変数的な状態があることになるわけです。
(押しテンション気味の中間テンション、引きテンション気味の中間テンションなどなど)
そのことを理解したら、次はそれぞれのテンションの状態の特徴を押さえていきましょう。
・押しテンション
マイクロカテーテルが最も血管の中で安定している状態です。コイルを入れていく際に、カテーテルがkick backしにくく、容易には動脈瘤外に抜けない状態であり、安定感があります。
逆に、少しの力で先進してしまうため、動脈瘤穿孔のリスクは最も高い状態と言えるかもしれません。
先端は進んでいないのに過剰に押しテンションがかかっている状態になると、jump up(突然カテーテル先端が跳ねて先進する)のリスクがあるのでこちらも注意が必要です。
カテーテルだけで進めるとその状態になりやすいですね。きちんとガイドワイヤーに沿わせて1対1対応で先端が動くことを確認しながら進めればこれは避けられます。
・引きテンション
こちらは逆に少しの力でカテーテルが引き戻される状態なので、最も不安定です。コイル塞栓中カテーテルは容易にkick backします。カテーテル内にコイルやワイヤーを通す際の負担だけでカテーテルが落ちてしまう可能性もあります。
ある意味、コイルに力がかからないため、一番自由にコイルのポテンシャルを発揮できるpositionかもしれません。
カテーテルが先進するにはこの状態からかなりカテーテルを押す必要があるため、動脈瘤穿孔のリスクは非常に低いと言えます。コイル塞栓中の瘤壁にかかる負荷も小さいでしょう。
・中間テンション
押しテンションと引きテンションの中間的な特徴を示します。
前述した通り、マイクロガイドワイヤー先行で誘導した場合はマイクロカテーテルは誘導直後「押しテンション」になりますし、neckを越えて引いてきてはめる形で誘導した場合は誘導直後「引きテンション」になります。
後は、どういう状態でコイルを入れていくかは術者次第ということになります。
(「押しテンション」で誘導した場合は少しマイクロカテーテルを引いてたわみを取ってからコイルを入れる、逆に「引きテンション」で誘導した場合はマイクロガイドワイヤー沿いに少し押しておくとか。)
まあテンションをどう使っていくかは色々なstrategyがあるかと思われますので今回触れませんが(framingとfillingでも違うでしょう)、こういったポイントをしっかり意識することで、再現性のある(たまたま上手くいった、ということではない)血管内治療を行えるようになるのかな、と思います。
後、これはLvisやflow diverterなどのbraided stentを展開する際にも大事な感覚なので、しっかり押さえておきましょう。