脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

血管内治療 コイル塞栓術

 

ご無沙汰しておりました。

 

近況としては、血管内専門医の試験に合格したり、開頭手術の方ではSTA-MCA bypass、CEA三叉神経痛や片側顔面けいれんのMVDなんかをやらせてもらったりしています。

 

色々あって全国的に手術件数が減っているのではないでしょうか。こういう時期だからこそ出来ることをしていきたいですね。

ということで(少し暇なので)久々にブログを更新してみようと思います。

 

 

今回はあまり触れていなかった血管内治療、特にコイル塞栓術について語ってみます。

血管内治療の入門的な教科書は何冊かありますが、そういう本ではあまり深く触れていない、考え方の原則のようなところを扱います。血管内治療初級者向けです。

 

 

そもそも、コイル塞栓術とはどういう治療か。

動脈の中にカテーテルを通し、動脈瘤まで到達させ、動脈瘤の内側をコイル(主にプラチナ製の非常に柔らかく細い針金)で詰めて、血流が入らないようにしてしまおう、という治療です。これによって動脈瘤が今後破裂するのを予防するのが目的です。

 

傍から見ている分にはこれほど分かりやすい治療もないかと思います。が、自分で一からやろうとすると色々と難しいことに気が付きます。

何が難しいかというと、主に、「どのデバイスを使えばいいか分からない」という点かと思います。

上級医に言われたデバイスを使って治療をするのは簡単ですが、コイル塞栓術(引いてはカテーテル治療)の原則を押さえて、どのデバイスを使用すれば良いか大まかに自分で考えられるようになる(とりあえず、どの太さのものを使えばいいか考えられるようになる)のがこの記事の目標です。手技については全く触れませんので悪しからず。

 

 

 

右IC-Pcomの動脈瘤を想定します。(別にAcomでもMCAでも良いですが)

通常の右大腿動脈からのアプローチで治療するとします。

 

 

カテーテルの選択についてですが、頭蓋内には、太いカテーテルは上がりません。(ICAにはサイフォンと呼ばれる屈曲部がありますし、頭蓋内の動脈径は基本的に細いです)

動脈瘤のネックも通常数mmということを考えると、コイルをデリバリーするのに自ずと「マイクロカテーテル」と呼ばれる非常に細いカテーテルが必要となります。(基本的に内腔が0.0165、0.017inchなどのもの)

まあ、当たり前ですが……

 

 

では、大腿動脈からマイクロカテーテル(とマイクロガイドワイヤー)だけ入れて動脈瘤まで到達させて、コイルを入れれば終わりなのかというと、それは不可能です。

 

なぜなら、マイクロカテーテルは物凄く細く柔らかいため、非常に操作性が悪いからです。押してもコシが弱いため単独では上手く先進しません(pushabilityが低いという言い方をする)し、血流の中で安定もしません。

下手すると血流に負けて大動脈弓までたどり着けないかもしれませんし、そこから頸動脈を選択するのも困難と思われます。何とか動脈瘤までたどり着いてもおそらく血流に煽られてフワフワしてまともに安定しません。(やったことはないですが)

 

 

ということで、マイクロカテーテルを支える、土台となるカテーテルが必要になります。

これが「ガイディングカテーテル」と呼ばれるカテーテルです。「カテーテル(親カテ)」とも言います。

マイクロカテーテルを含めたデバイスを病変部までガイドするカテーテル、ということです。

 

 

当然のことながら、安定したガイディングカテーテル(=土台)がないと安全なコイル塞栓術を行うことはできません

 

ちなみに、「安定している」とはどういうことかと言うと、「内部にデバイスを通してもたわまず、動かない」ということです。血管の蛇行が少なく、カテーテルが直線に近い状態だと安定することが多いです。蛇行していても、上手く支点が出来ていると安定します。

また、原則としてなるべく病変の近くに先端がある方が良いです。その方が、マイクロカテーテルがガイディングカテーテルから出て病変に達するまでの距離が短くなるので、操作性が良くなるからです。

(ただ、無理に高いところまで上げると良くない場合もあります。カテーテルの形や柔らかさ的に安定するポジションというものがあることがあり、変に上げすぎるよりもその位置で収めた方が落ち着くことがあります。難しい)

 

 

 

動脈瘤をコイルで塞栓すること」は、「高いところにある電球を交換すること」に例えられます。(この例え、分かりにくかったら無視してください)

 

どっしりと安定した高い足場、土台を組めば余力を持って簡単に電球を交換することが出来ますが、足場が不安定だったり、低かったりすると、ぐらぐらした状態だったり、背伸びをしながら電球を交換するような状態になります。(出来なくはないのですが、危ないです)

 

 

さらに別に例えるならば、ガイディングカテーテルを狙ったところに留置するまでの過程は、直達手術の「開頭」の部分に当たります。

良い安定したところにガイディングカテーテルを留置することがコイル塞栓術の第一の肝というわけです。

 

 

 

ではそのガイディングカテーテルの太さについて。

 

マイクロカテーテルは一応基本的に4Frのカテーテルに入りますが、4Frだとサポート力が低く、内腔が狭いためマイクロカテーテルが入った状態では4Frからちゃんとした造影ができません。(ちなみに、ガイディングカテーテルは原則太いほど固くサポート力が増します。吸引カテーテルは別ですが)

 

5Frであればある程度最低限のサポート力はあり、造影も可能です。5Frカテーテルを極力サイフォン部の近くまで上げ、そこからマイクロカーテルを進めて動脈瘤内に誘導できればコイル塞栓は可能です。

 

つまり、「5Fr ガイディングカテーテル+マイクロカテーテルでコイル塞栓」が実現可能かつ最もシンプルなセッティングになります。

 

しかし、実際これで治療することはほとんどないと思われます。なぜなら、サポート力が状況によってはやや不安なのと、何より「マイクロカテーテル以外にもうデバイスが何も入らないから」です。

何かコイル塞栓中にトラブル(動脈瘤の穿孔など)が起きた際に対応が出来ません。(何らかの理由で5Frしか入らない場合はやるかもしれませんが)

 

ということで、現実的には「6Fr ガイディングカテーテル+マイクロカテーテルでコイル塞栓」というのがいわゆるシンプルテクニックで行うコイル塞栓術のセッティングになります。

6Frであれば、もう一本マイクロカテーテルを入れてダブルカテーテルにしたり、バルーンを入れてバルーンアシストにしたり、ステントを置いてステントアシストにしたりといったことが可能となります。(シンプルテクニックでやっていて何か起きた時も追加のデバイスを入れて最低限対応可能)

 

 なので、これを基本として考えていくのが良いと思います。

(ちなみに、Enterprise2 VRDを使おうと思ったらマイクロカテは内径0.021inchのProwler select plusになるのでコイル塞栓用のカテを同時に入れるなら7Frが必要になります…etc. 例外は沢山あるのでその都度確認しましょう)

 

例によってパターン分けでいきます。

 

 

① 6Frガイディングカテーテルだけではサポート力が低く、マイクロカテーテルを支えきれない

 

Aortaがtype3(腕頭動脈の分岐部が低い)だったり、総頚動脈の蛇行が強かったり(高齢者に多い)すると、6Frガイディングカテーテルを上げたのは良いものの、デバイスを通すとその6Frカテが落ちてきてしまうようなことがあります。マイクロカテーテルを進めれば進めるほどガイディングカテが下がってくるような状況です。

 

先の例えで言えば、重ねた座布団の上に立って電球を交換しようとしているような状態でしょうか。(この例えは必要なのか)

 

いつ全デバイスが落ちてもおかしくない不安定な状態で、コイル塞栓をそのままするには危険です。

 

この場合は、

6Frカテーテルをさらに支えるカテーテルを追加する

つまり、8Frガイディングカテーテル(親カテ)+6Frカテーテル(子カテ)+マイクロカテーテル(孫カテ)のtriple coaxial systemにするという手があります。

もちろん、6Frのシースが入っている場合は8Frのものにexchangeする必要があります。

 

6Frのカテーテルを8Frで支える、という発想ですが、8Frのガイディングカテーテルに6FrのDAC(distal access catheter、中間カテ)を入れるという考えでもOKです。結局一緒です。

6Frは普通のガイディングカテーテルではなく、柔らかく上がりやすいセルリアンG(DD6)などを用います。

8Frを総頚動脈(or 内頚動脈近位部)に留置し、6Frを内頚動脈のなるべく遠位、petrous portionに誘導します。

 

屈曲が強そうな症例では最初からこのsystemにすることもあります。(その際は6Frの中に4Frのカテーテルを入れ、triple coaxial systemで誘導するか、300cmの固いガイドワイヤーを用いてover the wireでexchangeする)

 

後は、個人的にやったことはないですが、バルーン付きのガイディングカテーテルにするという手もあります。バルーンを膨らませればガイディングカテーテルがそこで安定します。(虚血耐性があることが前提です)

ちなみに、バルーン付ガイディングカテーテルは通常のものと比べて同じFrでも内腔が狭いので注意が必要です。

 

 

② ICAの屈曲が強く、6Frガイディングカテーテルがpetrous portion高位まで十分上がらないため、病変までの距離が長くマイクロカテーテルの操作性が悪い

 

一応6Frガイディングカテーテルを上げて安定はするものの、病変まで遠かったり、サイフォン部などの屈曲が強くマイクロカテーテルが上手く操作できない場合です。

Acomも遠いのでそうなりやすいですね。

先の例で言うと足場が低くて背伸びしないと電球に手が届かない状態でしょうか。

 

この場合は、先ほど出てきたDACをかませます。具体的には、4.2Fr FUBUKIやTACTICSなどを中間に入れて6FrガイディングカテーテルDAC+マイクロカテーテルとします。DACは少なくともサイフォン手前までは上がるはずなので、マイクロカテーテルの操作性は向上します。

(懲りずに先の例で言うと、安定した低めの土台からマジックハンドを使って電球交換するイメージ? なんか違うような気もしますが…)

 

しかし、この場合もう1本のアシストデバイスが6Frに入らなくなるので注意が必要です。

ガイディングカテーテルを8Frに変更すれば、そこからDAC+マイクロカテーテル & アシストデバイスが入ります。(ガイディングカテが6Frよりもさらに上がらなくなる可能性はあります)

あるいは、対側の大腿動脈に5Frシースを入れて、別系統からアシストデバイスを入れるという手もあります。(血栓リスクが増えそう)

 

 

③ その他

 

ダブルカテーテルにしたいけど両方ともDACをかませたい時は7Fr Shuttle(ガイディングシース)ならTACTICS2本+アシストデバイスが確か入るとか、

BA topの動脈瘤でどちらのVAにも6Frが留置できない(よくあるのが近位が蛇行していてkinkしてしまう)場合、両側大腿動脈(別に片方腕でも良い)を穿刺して両側VAに5Fr(4Fr)のガイディングカテーテルを留置するとか。

 

そうそう、あまりガイディングシースの話はしませんでしたが、それはあまり使用経験がないからです。無いわけではないですが。

ガイディングカテーテルとの使い分けはまだ言語化できるほど腑に落ちていないので、また分かってきたら記事にしたいと思います。

 

 

色々考えてみると面白いですし、学会や勉強会に行ったり業者の人と話して知識や情報を得るのも大事だと思います。

 

非常に長くなったのでこの辺で。