脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

内頸動脈閉塞症に対する血栓回収療法

 

血栓回収は、中大脳動脈(M1)閉塞の方がICA閉塞よりも考えるポイントが少なくて簡単だと思っています。(個人の見解)

 

自分の下で研修しているレジデントの先生の発言を受けて、内頸動脈(ICA)が詰まった場合の血栓回収にはいくつか考え方にコツ、というか注意した方がいいところがあるなと思ったのでまとめてみます。

 

 

注意点その1. MRAでICAが起始部から写っていなくても起始部閉塞とは限らない

 ここがICA閉塞の難しいところです。M1閉塞であれば、血栓の直前まで大体穿通枝などがあり血流が保たれるので(stumpになって流れないことも往々にしてありますが)、MRAで途絶している部位≒血栓があるところなのですが、ICAではそうとは限りません。

 例えば心原性の血栓がC3のちょうどサイフォン部分に引っ掛かって完全閉塞したとします。ICA閉塞としては多いパターンです。

 それで眼動脈の血流もなくなっている場合、ICA起始部から血栓がある部分までの血流も滞ります。(血液の抜ける先 out flowがないため)

 ということでICAの有効な血流が起始部からなくなるので、MRAで見るとICA起始部から閉塞しているように見えるというわけです。外頸系も太くない場合で体動のartifactも強いと総頸動脈から見えないこともあります。ただ、総頸動脈閉塞というのはかなり稀なので、MRAで総頸動脈閉塞です、と言われたら「本当か?」と疑うと同時に、仮に本当なら大動脈解離を考えないといけません。大抵血管撮影したら普通のICA閉塞ということが多いです。

 その昔、自分はC3-4辺りが閉塞してICA内の血流が滞った場合は、ICA起始部まで全て滞った血液が固まってすぐ血栓になるのだと思っていましたが、不思議と(?)時間がある程度経ってもそうはなりません。こういう場合、総頚動脈から血管撮影をすると、造影剤がICA起始部の辺りに二ボーを形成して留まる感じになります。その造影の感じで起始部狭窄の有無は判断できます。

 意外とこの閉塞部位とMRAのギャップをきちんと把握できていないレジデントが多いような気がしました。(分かってるならもちろん良いんですよ…) まあ普通に考えれば、よほどの巨大血栓でない限りは狭窄のないICA起始部に引っ掛かることはないですよね。大抵サイフォンのところで引っ掛かるか、M1-2まで行くかというところだと思います。

 

 ちなみに、血栓がC1-2で引っ掛かって眼動脈までの血流は保たれている場合はどうでしょうか。あるいは完全閉塞にはなっておらず、血栓の隙間から少し血流が保たれているという状況もあり得ます。血栓がC1のみでPcomまで血流があるという場合も考えられますね。

 これらも、通常に比べると血流が弱くなるので、MRAではICA起始部から写らなくなることがあります。3T MRIなどで体動なく時間をかけてとれば薄っすら写るのかもしれませんが、なかなか脳梗塞急性期の環境でそうはいきません。

 先ほどと違う部分ですが、これらの場合、総頸動脈からの脳血管撮影では造影剤がゆっくり上がっていくのが確認できます。(ゆっくり上がって眼動脈やPcomに抜けるか、血栓の隙間からA1-M1が写る)

 

 ということでまとめると、

・MRAでICAが起始部から写ってない!→ ICA起始部閉塞だ!という考えを捨てよう(そうでないことの方が多い)

・まずは脳血管撮影で総頸動脈から造影して起始部閉塞がないかどうか確認(高度狭窄からの急性閉塞もあり得る。事前に頸動脈エコーすればそれで分かることもある。この場合頭蓋内のタンデム病変などがあることもあり、PTAやCASなども関わってきてややこしい話になってくるので注意 下記)

・同時に造影剤が上がっていくか確認 → 上がっていって眼動脈が描出されれば血栓はC2以遠、全く造影剤が上がっていかなければ血栓はC3より手前から存在すると予想される

 

 

注意点その2. 側副血行を考える

 血栓がIC topまで及ばずにC1までで留まっている場合、術前の頭部MRAで、Acomを介したcross flowによりMCA系が見えていることがあります。それでも虚血症状が強く、でもDWIで広範なhighは出ていないというパターンを時々経験しますが、これは血栓回収が著効するタイプなので頑張りましょう。(つまり側副血行が発達しているために、発見が遅めでも予後がいい、少し時間に余裕があるタイプ)

 そのようなIC topまで血栓が及んでいないタイプの場合、lesion crossなどにより血栓をdistalにmigrationさせてしまうリスクがあるため、しっかりバルーンでICAの血流を止めたりlesion crossを愛護的にするなど、普段以上により配慮が必要です。そもそもlesion crossしないADAPT firstにするのも有効でしょう。

 ICAおよびMCA系も全て写っていない場合(かつICA起始部狭窄がない場合)は、①血栓がM1~ICAまである比較的long lesionのパターンと、②血栓はC1-3辺りだがどちらかのA1もしくはAcomが低形成(無形成)、③その両方というパターンが考えられますね。

 

 

注意点その3. tandem lesionの可能性を頭に入れておく

 もともとICA起始部に狭窄がある場合、そこが急性閉塞を起こすパターンと、そこからのA to A embolismで同側のM1-2閉塞を起こして発症というパターン、両者を同時に起こすパターンがあります。

 MRAでICA系が写っておらず、術前のエコーや術中の造影などでICA起始部に狭窄があることが判明した場合、頭蓋内にも閉塞している部分があるかもしれないと思って対応するのが大事です。

 tandem lesionであった場合、最近のエビデンス的には頭蓋内の再開通を優先した方が良さそうなので、吸引カテーテルが上がる程度の狭窄なら狭窄部はスルーして先に頭蓋内治療に行きましょう。この場合バルーン付きガイディングカテーテルが狭窄部を通過しないようであれば総頸に置いておいていいと思います。

 高度狭窄で吸引カテーテルも通らないということであれば、PTAを先行して吸引カテが通れる隙間だけ作るということになります。頭蓋内再開通後(この場合はおそらくCombinedでASAPがいいでしょうね、吸引カテを下げなくて済むので)、狭窄部がさほどでなければそのまま終了、狭窄が強かったりrecoilしてくるようであれば緊急CASということになります。

 それを見越して高度狭窄が判明した辺りでDAPTをローディングしておくのがいいと思っていますが、t-PA後だと原則24h抗血栓療法は禁忌となってしまうのでまあ難しいところです。(最近はそれでも色々手続きを踏んだうえで使っています)

 

 

 久々の更新は以上。最後のtandem lesionに関しては様々なstrategyがあるところだと思うので、参考程度にしてください。