脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

慢性硬膜下血腫2

今回は手術に主眼をおいて説明していきます。

前提条件として、施設によってやり方は様々だと思いますので、基本的に自分が普段やっている方法を紹介します。

 

慢性硬膜下血腫の手術は基本(準)緊急です。

入院翌日に行う場合などは原則直前の食事は止めます。午前中手術なら朝食止め、など。

軽い鎮静・鎮痛剤(ジアゼパム、ペンタジン)+局所麻酔で行うので胃に何が入っていようが普通はあまり関係ないのですが、何があるか分からないので念のためです。(脳表を傷つけて緊急開頭血腫除去術など)

 

抗生剤は感染予防目的に手術直前にセファゾリン1gを投与しておきます。術後に継続する必要は原則ありません。

 

入室したら体位を取ります。仰臥位にして頭を健側に回旋し、馬蹄形ヘッドレストに固定します。首か硬かったりして回旋が十分にできない場合は患側に肩枕を入れます。手術台を操作して上体をやや挙上するようにし(静脈出血コントロールのため)、最終的にBurr holeをあける部分が一番上にくるようにしましょう。これで空気が硬膜下に入り込みにくくなります。

 

ちなみに両側の場合は、いちいち体位を取り直す場合と、仰臥位・正中位で多少やりにくいながらも同時にやってしまうという場合があるかと思います。

 

皮膚切開ですが(本当はこっちが決まってから体位を取るのが正しい順序)、個人的には

「冠状縫合と上側頭線の交点にBurr holeを穿つよう、その点を中心として冠状縫合に沿った4㎝程度の切開線」

を基準にしています。というのも、ある程度大きくなった慢性硬膜下血腫はここに孔を開ければ大体当たるからです。冠状縫合も上側頭線も単純CTで分かるので(骨条件と側頭筋に注目)、そこの直下に血腫があることを確認しておきます。もちろんそこに血腫がない可能性もあるので、その際は上記の点を基準として前後上下にずらします。

 

冠状縫合、上側頭線はどちらも頭皮上から触れます。強めに押してぐりぐりやればなんとなくここかな?と当たりがつきます。どうしても分からないときはメジャーを使いましょう。nasion(目の間)から13-14㎝ぐらいのところを大体冠状縫合は横切ってます。

 

皮切の向きですが、冠状縫合に沿う方向が毛流と直行していて一番目立たないという考えからその向きにしてます。男性でhair lineが後退した時に傷が露出しにくいというのもあります。

また、後に何らかの理由でpterional approachを行うことになった場合にその皮切を利用できるといった考えもあります。

いずれにせよ、皮切線を決めたらその周囲の髪の毛だけ剃ります。(無剃毛でやる施設もあるかも)

 

消毒し、前述の通りペンタジン15-30㎎を静注してキシロカインで局所麻酔したら手術を開始します。この時点で体動が目立ったりする場合はジアゼパムで鎮静をかけておきます。超高齢者であれば必要ないことも多いです。(この手術後に辛かったと訴える患者さんは全くと言っていいほどいません)

 

その後は骨膜まで一気に皮膚切開(側頭筋も一部切る)、止血して開創器をかけたら穿頭します。薄く残った骨を鋭匙で削り、硬膜表面からの出血を止め、硬膜を尖刃で十字切開、血腫被膜(外膜)を確認します。(一応この時点でようやく穿頭部が間違っていなかったと安心できるわけです)

 

細かい道具の使い方についてはまたそのうち語ります。

 

硬膜をバイポーラで凝固して血腫外膜を切開したら血腫が噴出します。このときの勢いは様々で、若年であったり血腫量が多かったりするとなかなかの勢いですが、高齢者でもともと脳萎縮が強かったりすると血腫量の割に勢いがなかったりします。症状の強さに相関しているような気もします。

 

この後血腫腔を洗浄するかどうかは施設によって違うようですが、基本はドレーンチューブを突っ込んで生食できれいになるまで洗います。最後にドレーン先端を前頭極に向け、皮下を通して固定します。

このドレーンは、圧迫されていた脳が一晩かけて膨らむ際に硬膜下腔の生食が排液されるルートを残しておくという意味があります。前頭極に向けておくと空気抜きができるので便利です(空気を抜いたほうがいいという根拠は実はあまりないようですが…)。

 

あとはBurr holeにゼルフォームを詰め、Burr hole capをつけて、側頭筋と筋膜を吸収糸で修復し、最後に皮膚を縫って終了です。

 

術後、無事に終わっていれば食事は当日から出します。一晩ドレーンから生食を出し、翌朝頭部CTを撮影して血腫が洗浄されていることを確認して抜去します。

 

最速でその日に退院は可能です。(後日外来で抜糸。)

 

 

こんな感じでしょうか。非常に脳外科的には初歩的な手術で、しかもかなり良くなるのでやりがいもあります。ただ、どんな手術でもそうですが油断は禁物です。手回しドリルで頭蓋骨を穿通したという話や、穿頭部が血腫腔のぎりぎり端だったために脳表を傷つけ血腫除去が必要になったという話、左右を間違えそうになったという話も聞いたことがあります。おそろしい。

 

慣れてくれば10分ちょいぐらいで終わるようにはなりますが、特に穿頭位置などしっかり確認してから望みましょう。(自戒)

 

 長くなりすぎたか…

では。