慢性硬膜下血腫1
一般的な知識と、入院から退院までの流れについて説明します。
手術の話はまた別にまとめます。
慢性硬膜下血腫は、脳外科で手術を要する最も患者数の多い疾患です。
名前が長いので一般的に「サブドラ(chronic subdural hematoma)」、「まんこう」などと略されます。
前者は「慢性」の要素が入っていないので後者の方が略し方としては適切に思われますが、やや卑猥な響きがするため(?)個人的には前者を採用しています。「クロサブ(chronic subdural hematoma)」という折衷案もありますが、あまりメジャーではありません。(うちの施設では)
多くは高齢者で、頭をぶつけたことがきっかけで硬膜下に少量出血(頭部CTでも分からない)を起こし、炎症を惹起 → 線維芽細胞などが集まって被膜を作る → 被膜に新生血管が出現、そこから再度出血を繰り返すといった機序や凝固・線溶系のバランス、浸透圧などの関係で硬膜下の血腫が徐々に拡大していきます。
患者には「頭をぶつけた時には分からなかった静脈からのじわじわとした出血が続いていて、段々血がたまってきて症状を出しています」という説明をしますが、これは正しいようで正しくありません。
静脈からの出血が出続けるなんてありえないことで、普通ならすぐ止まるに決まってるし実際止まってます。被膜の形成とそこに起こる出血や細胞間液の漏出が原因なのです(実は詳細な機序はまだ分かっていない部分もあります)。
なので、血腫に被膜があり、中の血液は流動性(非凝固性)というのが特徴になります。(線溶系>凝固系で血液が固まらないらしい)
急性硬膜下血腫では被膜なんてありませんし、血腫もゼリーみたいに固まっているので、これらは画像上似ていても全然違う病気なんですね。
脳が圧迫が徐々に高度になると、後述する様々な症状で来院します。
この病気の患者さんは夜間救急外来を受診することもあれば日中に一般外来を受診することもあります。
主訴は「ふらつく」「足を引きずるようになった」「手に力が入らなくなってきた」といった本人の訴えから、「様子がおかしい」「元気がない」「呼びかけに反応しなくなった」「ご飯を食べなくなった」「出来ていたこと出来なくなった(リモコンが使えないなど)」といった家族からの訴えなど様々です。
麻痺が主訴だとしても、よく話を聞いてみれば突然発症ではないことが分かります(脳梗塞との鑑別が可能)。
外傷歴はあったりなかったりです(あることの方が多い)。頭部打撲で受診したカルテが残っていたりします。若年者では特に外傷歴があることが多いような気がします。(今まで経験した中で一番若かったのは30歳)
怪しければ頭部CTを撮りましょう。脳の外側に三日月型の高吸収域があれば当たりです。
かなり時間が経ったものだと血液成分が背側に沈んでグラデーションを呈していたり、内部に層状の隔壁が見られたりします。
画像で慢性硬膜下血腫と診断したら、基本的には緊急入院でその日のうちに手術してしまうことが多いです。もちろん慢性経過の疾患なので、病状によっては後日入院にしても特に問題ありませんが、まあさっさと治してあげた方がいいですよね。
両側の場合、同時に両側手術することもあれば、血腫が厚い側のみ手術することもあります。
術直後、あるいは術翌日から症状はすっかり無くなっていることが多いです。
手術1週間後に抜糸して退院という病院もあれば、最短手術翌日に退院して抜糸は後日外来で、というところもあります。
10人に1人は再発すると言われているので、また症状が出てきたら来院するように話しておきます。
抜糸まで終わっていれば外来フォローは不要です。
次回は手術にfocusを当てて詳しく語ってみます。