脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

上手い手術の条件

手術が上手い人とは、という資質の話とはまた違います。

 

 

上手い手術が行われるためには何が必要かを考えてみます。

完全に自論ですが。

 

 

・手術に関連する解剖の知識

必須事項。

 

・十分な術前検査と方針の検討

見切り発車では毎回確実に100%の手術を達成することは不可能です。

油断せずにリスクマネジメントを行い、色々な条件を考慮した上で最も安全かつ低侵襲な方法を選択します。

本人、家族への適切な説明もトラブル回避のためには大事。

 

・macroの視点

上手い手術では、全てが滞りなく進みます。そのためには、当然ながら術者が全体の流れをしっかり把握していることが重要です。

最終的な目的を見据えながら手術をすることで、本質的でない無駄なステップが省かれます。

また、全体を俯瞰することで、その後に起こり得るトラブルを予測して予防策を取ったり、実際に何かトラブルが発生した時も素早く対応出来ます。

さらにmacroな視点を持てると、例えば追加治療が必要になった場合や再手術のことなども想定しながら皮切をデザインしたりすることが可能です。

 

・microの視点

大雑把な流れを頭に入れた上で、それぞれの段階を細分化してひとつひとつ確実にこなしていく、ということが大事です。

最終目的(例えば未破裂動脈瘤にclipをかけること)があったとして、それを達成するためのいくつかのステップ(例えばシルビウス裂を剥離すること)があり、そのステップもまたひとつひとつの操作(例えばくも膜を切る)から成っているという意識を常に持つということです。

この意識があれば無駄な操作がなくなり、手術は一操作ごとに着実に前に進むことになり、手術に流れとリズムが生まれます。

見ている人もイライラせずに済みます笑

特に初心者は「今から●●をします!」といちいち宣言しながら手術を進めると上級医も安心してみていられると思います。手術中も「ほう・れん・そう」です。

 

トラブルシューティングの豊富な引き出し

一番経験がモノを言うところかもしれません。マイナーなトラブルの段階で適切に対処していくことで大きなトラブルを避けるようにします。

大きく差が出そうなのがあらゆる出血に対する止血でしょうか。これはまた止血というテーマで記事を書くつもりです。

 

・最低限の予定された侵襲

その手術で予定していた部分のみの侵襲で済まずに、不必要な構造を破壊することは、合併症を引き起こす確率を高めます。

常にminimumな侵襲での手術を目指すということではなく、合併症とのリスクを考えながら安全な方法を採ります。

創など美容的な観点も疎かにすべきではありません。

 

 

こういったback groundに裏打ちされた手術が良い手術だと思います。

良い手術は、術者としても達成感があって気持ちがいいし、患者・家族の満足度も高いし、看護師の負担も少ないしで関わる人全員が幸せになるような素晴らしいものです。(言い過ぎか)

 

何しろ結局のところ基礎が大事です。

確実に出来ることを増やしていき、上手い手術を量産しましょう。

 

 

前頭側頭開頭のコツ(two layer)

間が空いてしまいましたが、two layer編。

 

two layerのtwoとは、①皮膚(+皮下組織、帽状腱膜)と②側頭筋のことです。

これらが一枚の皮弁になっていると嵩張って邪魔なので(特に頭蓋底に近い部分の操作が必要になる際などに顕著に邪魔)、①と②を間の疎な結合組織の層で分けることで2枚おろしにします。

これにより、①を前下方、②を後下方に翻転して、より尾側からのapproach routeを確保しようという訳です。

 

後ほど詳しく書いてみますが、ここでone layerでは問題にならなかった顔面神経側頭枝の温存という課題が出てきます。

 

顔面神経側頭枝の前頭筋を支配する枝を傷つけると眉毛が挙上できず、額のしわ寄せもできなくなります。時間が経つと良くなることもあるようですが、目立つので出来る限り避けたい合併症です。

側頭筋筋膜やinterfascial fat pad、顔面神経側頭枝の走行についてもう一度確認しておきましょう。

(おすすめ文献:Preservation of the nerves to the frontalis muscle during pterional craniotomy. - PubMed - NCBI

 

 

では具体的な手順を見ていきましょう。

 

 

まず皮膚切開を帽状腱膜までの深さで行います。

 

翻転する側の皮膚を鉤ピンなどで(毛根に気を付けながら)ぐっと持ち上げると疎な結合組織が見えるので、これをメスの腹で切開していきます。(ちなみに、骨膜を後で硬膜再建に使用しそうな場合は結合織はなるべく骨膜側に残すようにします。)

 

気持ちよく疎な結合組織を切りながら、眼窩外側からの距離を気にします。

 

顔面神経側頭枝は、耳前部から上がってきて、眼窩上外側を、上側頭線より下(外側)では側頭筋筋膜浅層のレベル、上側頭線より上(内側)では骨膜上のレベルで走行して前頭筋に至り、支配しています。

 

眼窩上外側縁から2横指(約3-4㎝)より離れては走行していないとされるので、疎な結合組織を切開して眼窩縁よりこれぐらいの距離まで近づいたら、より深層に入る必要があります。

 

上側頭線より下(外側、側頭筋側)では、側頭筋筋膜浅層のみを切開して側頭筋筋膜浅層と深層の間にある脂肪層に入ります。

痩せている人だとこの脂肪層が発達しておらず分かりづらいこともあり、さらに眼窩外側から離れすぎているとこの脂肪層がまだ薄いために分かりづらいことがあります。

脂肪はめくる方のlayerにくっつけるようにして翻転します。(脂肪を残して側頭筋筋膜浅層のみをめくる感じにすると麻痺が出やすい気がするので。)

大体の場合、この脂肪の中をdeep temporal veinが走行しているので、温存できればしたいところですが、無理そうなら凝固切断します。

筋体の上に薄っすら膜が乗っている感じの面が出せれば上手くいっていると思います。

分かりづらい場合は側頭筋筋膜深層も切開して側頭筋の筋体を露出してしまってもOKです。やや見た目は汚くなりますが、神経温存という観点ではより安全です。

 

上側頭線より上(内側)では骨膜を切開して骨を露出させます。

 

上側頭線の線上では側頭筋筋膜と骨膜が骨に癒着していますが、これも骨から剥離して、側頭筋筋膜浅層と骨膜が1層の膜として連続するように剥離して翻転していきます。

(顔面神経側頭枝は一部上側頭線を乗り越えて前頭筋に入っているため)

 

この層を上手く作れれば、顔面神経は翻転する皮弁側にめくられていくので、損傷することはなくなります。

 

上側頭線基部、眼窩外側の頬骨弓基部が露出するまで翻転すればOKです。皮弁はフックなどで前下方に引っ張っておきます。(眼球を圧迫しないように気を付ける)

(ちなみに、この側頭筋筋膜間の脂肪層をずっと尾側まで進んでいくと、頬骨弓が露出できます。orbital zygomatic approachの際など必要な知識。)

 

次に、残った側頭筋を切開して剥がして後下方に翻転します。再建のために、上側頭線の側頭筋筋膜付着部を閉頭の際に側頭筋筋膜を縫い付けるのりしろとして残したり、そうはせずに全部剥がしてしまって上側頭線の辺りの骨に穴をあけてそこに糸をかけて引っ張ったり。

側頭筋を骨から剥離する際は尾側から剥がした方が損傷が少なくなります。

 

 

後はone layerと同様です。以上!

 

 

 

余談ですが…

基本的にこのブログの記事は当直の暇な時間に書いてます。(もちろんちゃんと仕事もしてます。)

明日は当直明けですがコングレス@大阪に参加予定です。教育セミナーが楽しみ。

ハンズオンセミナーのメディカルイラストレーションコース、取ろうか迷っているうちに定員が埋まってしまったのが心残りです。 

 

前頭側頭開頭のコツ(one layer)

前頭側頭開頭は、最も脳外科手術で頻用される開頭方法のひとつです。

 

その名の通り前頭側頭部、いわゆるこめかみの辺りに骨窓を設けることで、シルビウス裂および前頭葉下面、側頭葉先端部辺りを露出させ、病変に到達することを目的とします。

 

この開頭によるpterional approachにより、同側の中大脳動脈はもちろん、同側の内頸動脈-視交叉から前交通動脈辺りまで脳実質を経由することなく容易に(容易じゃない時もあるけど)露出が可能となります。

動脈瘤の好発部位(A-com、IC-PC、MCA bifurcation、IC-Achor、Basilar tip)に到達できるという意味でこの開頭・approachはよく用いられ、非常に重要なのです。(もちろん動脈瘤手術以外にも登場します)

 

 

pterional approachの開頭をしっかり出来るようになることは脳外科医としての1つのステップだと思います。

一言で「出来る」、と言っても実はその意味は2通りあります。つまり、単に手技として指示された場所に安全に骨窓を設けることが出来るということと、病変に到達するために必要なapproach routeを、体位や皮切も含め確立することが出来るということです。

 

最終目標はもちろん後者であり、本来はそこまで考えた上での開頭なのですが、差し当たっては手技としてしっかり骨窓が作成できるようになることが第一段階なので、まずはそこを目指しましょう。

 

個人的には、脳外科手術に大事な要素が多く詰まっていて若手のうちから任されるという意味では一般外科の虫垂炎手術にあたるようなものかなと思っています(見当外れかも)。初期に力を入れて自分なりに勉強した記憶があります。

どんな分野の勉強であれ、頻出事項から押さえていくことが、要領よく、効率よくやる上では大事です。(2:8の法則。頻出事項の2割を押さえれば臨床の8割をカバー出来るので、その上でminorな事項を詰めていく。色んな場面に応用が効きます)

 

 

ちなみに、このapproachに限らず、「脳槽」という概念が脳外科の手術では重要になります。近代脳外科学の父、Yasargil先生提唱?のこの概念は脳の解剖と平行して頭に入れておくべきものなので、勉強しておきましょう。

うちの医局にあったYasargil先生の教科書とビジュアル脳神経外科前頭葉頭頂葉(メジカル・ビュー社)が理解の助けになりました。

 

 

さて、長い前置きはこれぐらいにして実際の手技についてみていきたいのですが、実は施設によってこだわりのポイントがあったり、骨窓を拡大(あるいは縮小)する変法もあったりして、絶対的に確立された前頭側頭開頭の方法というのは存在しません。

私が今いる施設も割と変わった方法を取っているのですが、ここではおそらく最も一般的な前頭側頭開頭(とりあえず今回はone layer)と思われる方法を説明します。(本当に一般的かどうかは知らない)

 

 

体位・頭部の位置を決める

到達したい病変によって変わるので割愛。

そのうちこれで一記事書きます。

 

皮切をデザインする

原則として耳前部、頬骨弓上端からhair line内を通って正中(hair line近く)まで至る弧状のlineになります。

注意すべき点がいくつかあります。

・その皮切で皮弁を翻転して眼窩外側、上側頭線起始部のすぐ下(いわゆるpterional approachのkey hole部)が露出されるかどうか

普通は問題ないはずですが、ダメなら皮切を延長します。正中側で正中を超えて少し対側まで延ばすか、尾側で頬骨弓下縁ぐらいまで下に延ばすか。

・顔面神経が切断されないかどうか

これは事前に外表から確認できることではないですが、耳から離れて皮切が前に行くほどリスクが高くなるので、出来る限りhair line内で耳に近い部分を起始部とします。

耳前部から2横指ぐらいまでなら大丈夫だと言われています。(解剖要確認。)

・浅側頭動脈(STA)との位置関係

STAの本幹は避けて、frontal branchかparietal branchのどちらかのみが犠牲になるような皮切にします。あるいはdouble bypassが必要となる可能性があればSTA parietal branchに沿って頭側へ皮切を延ばし、そこから前正中へ向かうような皮切にすることもあります。

事前のCTAを参考に、それでもSTAが分かりづらければドップラーを使用することも。

 

初心者が意識しづらい追加のポイントとして、皮切の曲率(hair lineからの距離)に応じて側頭葉が露出される程度が変わるという点があります。

hair lineギリギリを通るような皮切にすると、シルビウス裂はもちろん出ますが側頭葉があまり露出されず、骨窓内における前頭葉の割合が大きくなります。それで構わないことももちろんありますが、前頭葉と側頭葉を1:1で露出したいような場合は皮切を上に立ち上げてから前に曲げたり、状況に応じては耳の上を少し後方に回してクエスチョンマーク気味にすることも選択肢としては考えられます。

 

その他、MCA bifurcationの動脈瘤で母血管であるM1が容易に取れそうかつclipも特に問題なさそうであれば、上側頭線外側のみの皮切(頬骨弓から上側頭線とhair lineの交点にいたるcurved skin incision)として小さめの骨窓にしたり、A-comで高めの時にzygomaやorbitoの外側を外したり。

 

皮切を置く

ドレーピング、局所麻酔をして準備が出来たら手術開始と共に帽状腱膜まで切開します。切断されたSTAの断端は焼いておきます。(少しでも出血を避けるという意味では先に確保・処理してから切断、が正しい)

適宜レイニークリップなどをかけ止血します。E入りの局所麻酔が上手く入っていればそこまで出血しません。

レイニークリップはなるべく使用せずにとにかく焼いたり、皮切からニードルの電気メスを使ったりすることもあるようですが、毛根は大丈夫なのでしょうか。いまひとつ美容的観点からの最善手が定まってません。

 

皮弁を翻転する

皮切のラインに沿って骨膜・側頭筋を電気メスで切開し、骨から剥離して、一塊(one layer)として前尾側に翻転します。

側頭筋は上側頭線あたりで骨に強く付着しているのでそこは頑張って剥がします。起始部側から剥がすようにするときれいに剝がれます。皮弁はフックなどで前下方に牽引しておきますが、眼球を圧迫することのないよう注意しましょう。

結構bulkyな皮弁になり、状況によっては邪魔になります。なので、その対応策として皮弁をtwo layerにする方法があります。(こちらは次回に解説予定)

 

burr holeを穿つ

前述したkey hole、上側頭線の直下で皮切との交点付近、皮切の下端付近(側頭骨)の3か所にburr holeを穿ちます。

key holeは、眼窩に近すぎたりパーフォレーターを眼窩方向に向けすぎると眼窩と交通してperiorbitaが出てくるので注意です。

key hole部はburr holeではなくドリルでsphenoid ridgeを削って側頭葉側と前頭葉側の硬膜を出すのもあり。

 

鋭匙で菲薄化した骨を除去し硬膜を剥離

硬膜剥離子のポイントは、ブラインド操作なので、常に骨に触れている感触を保ちながら剥離するという点です。少しでもヌメっとして骨のカリカリした感じがなくなってしまったら、確実に骨に触れている部分まで戻って剥離し直しましょう。簡単そうに思えてこういう基本が大事です。広く浅くを広げていくイメージで。

sphenoid ridgeは発達していると大抵超えられないので、両側から剥離するに留めておきます。(イメージが湧かないようなら頭蓋骨のモデルを眺めて確認。)

 

カッターでburr holeを繋ぐ

sphenoid ridgeをまたぐlineは最後にした方が良いと思います。(比較的高確率に中硬膜動脈(MMA)が切断され出血したり、ridgeからも出血するので。)

subfrontalにapproachすることが必要となりそうなら、骨窓はやや眼窩上・前頭蓋底の方を回るようにします。なるべく前頭蓋底近く(眼窩上縁近く)を通るようにすると後々楽です。この際、事前に前頭洞の発達具合を確認しておき、解放しないようにしましょう。開くと面倒です。

また、普通そこまで開窓しないので問題になりませんが、眼窩上神経も眼窩上縁正中辺りから出ているので場合によっては注意です。

sphenoid ridgeを超えられない場合は、両側のburr holeからridgeまでカッターで切り込みを入れ、最後にridgeを骨折させます。

 

骨弁を外し、止血する

主にMMAや硬膜からの出血をまず止めます。sphenoid ridgeの方向の硬膜外から湧いてくるような出血はこの時点では深くてよくわからないことが多いので、早急に次に進みます。

 

頭蓋底方向の硬膜を剥離し、骨削除を追加する

血が止まっているならばゆっくりでもいいですが、そうでなければこの辺はさっさとやります。

基本的には、まず前頭蓋底側と中頭蓋底側の骨を削除し、残ったsphenoid ridgeを削るという順序を繰り返します。(平らにしてしまうとsphenoid ridgeを削るとっかかりが無くなって削りにくくなるため)

ある程度削っても出血が続いていれば出血源を探り、凝固可能であれば焼いて、骨からであればbone waxでpackします。さほど勢いがなく硬膜外から少しずつ湧いてくるような出血は薄くしたゼルフォームを詰めて滑り込ませて置いておくと止まったりします。硬膜のつり上げが必要となることも。

sphenoid ridgeをどこまで削るかという問題がありますが、基本的に深さはmeningo-orbital band辺りまで、前頭蓋底と平らになるように、というのが通常の目安のようです。とは言っても目標に応じて削る、というのが間違いのない解答で、A-comが目標であれば前頭蓋底側を頑張ってみたり、IC-PCであればなるべく深めに削ってみたり、MCA bifurcationであればそこまで削除は必要なかったりといった感じです。(それでもproximal確保のため普通は削ります)

 

十分に骨削除を加えたら(同時並行で)、入念に止血する

硬膜切開の前に、術野に血が垂れ込まないよう丹念に止血します。

 

硬膜をsphenoid ridgeを基部として切開し、翻転する

見たい部分が十分見えるように切開し、絹糸などで牽引しておきます。

 

 

 

次はtwo layerについて、キモである顔面神経の温存に特に焦点をあてて書いてみます。

 

ではでは。

 

糸結びのコツ

緩まない糸結びのコツを考えてみます。

 

まず、そもそもなぜ緩むのか?

原因は2種類に分類できると思います。

 

①縫合で寄せようとしている1対の組織に離れようとするテンションがかかっているから

頭皮を縫合する時など、翻転した皮弁が少し縮んで創縁同士が寄りにくくなっているような場合です。この場合、糸を締める力が弱まると緩んで創縁が離れます。

 

②糸そのものの剛性と摩擦のなさ

例えばナイロン糸と絹糸をペットボトルに結んだときなどを考えてみれば分かると思いますが、1回片手結びしたとして、手を放しても絹糸は大して緩まないのに対しナイロンは緩みやすいです。これはナイロン糸が真っすぐに戻ろうとする力(剛性)が比較的強いことに加え摩擦係数が小さいことに起因します。

 

 

では、緩まずに結ぶためにはどうすれば良いか。

テンションを利用する or(and) 摩擦を利用する

しかありません。(多くの場面でテンションをかける→摩擦力が上がる なのでほぼ同じことかもしれませんが。)

 

 

具体的な策を思いつくだけ挙げていきます。

 

 

外科結びにする(摩擦利用)

特にマルチフィラメントの糸で組織同士のテンションがさほど高くない特に有効です。外科結びにしてギュッと締めた後、手を緩めても創縁が離れなければ成功です。そのまま固定された結び目に力が及んで緩まないように、次の結び目を作って締めます。

 

片手結びでロックをかける(テンション and 摩擦利用)

左手を軸糸として右手の糸を巻き付けた状況を想定します。(右手で片手結び)

そのまま左手の糸を創面から比較的垂直に近い角度(創面との角度を大きくした状態)にしたまま右手の糸を締めていき、最後に左手の糸を創面と水平になるぐらいまで倒すことで、左手の糸と創面で右手の巻き付けた糸の一部を挟んで糸が緩むことを防ぎます(ロック)。

この方法は球面である頭皮の縫合において汎用性が高く、よく使います。硬膜のつり上げでも多用しますね。モノフィラメントの糸でもマルチフィラメントの糸でも有効です。

2回目の結び目は左手のテンションを保ったまま再度右手の糸を巻き付けるようにして作ります。この時に左手が緩みやすいので練習が必要です。

左手の糸が創面と水平に近い角度が取れないような状況では使えません。

(ロックの定義に関しては諸説あるかもしれません。私はこの仕組みで理解しています。)

 

女結びで後から締める(摩擦利用)

同じ手で片手結びなど同じ結びを繰り返して女結びにし、それを送り込んで後から締める方法です。ロックと併用することも多いかも。送り込む結び目が遠すぎたり、マルチフィラメントの糸だったりすると、締めている途中で結び目が固まってしまい、それ以上絞められなくなることもあります。

 

両方の糸を均等に引っ張ったまま結ぶ(テンション利用)

両手結びで1つ目の結び目を作って締め、左右に引っ張ったテンションを保ったまま両方の糸を創面から垂直な位置まで近づけて十字結び(という呼び方か分かりませんが、人差し指、あるいは親指の上で十字を作る結び方)をします。一瞬でも片方の糸のテンションが緩むとアウトで練習が必要です。

2つ目の結び目を作った後もテンションは保ったままにし、糸を左右に引くことで2つ目の結び目を1つ目の結び目まで送り込んでいきます。

両方の糸にテンションを常時かけたまま結べるのは十字結びだけだと思います。あまり見ない方法かもしれませんが、消化器外科の先生がやってました。

 

対象を予め寄せておく

あまりに寄せたいもののテンションが高くて糸だけでは寄らない時には、助手に鉤ピンなどで創縁を寄せておいてもらったり、太目の糸でstay sutureをおいておくのも手です。

 

 

余談ですが、片手結びに表と裏があるのはご存知でしょうか?

いわゆる普通の片手結びと、上から取る感じの片手結びです(表現が難しいですが、片手結びの裏とか逆とか言われている結び方です。Youtubeにいくつか動画があります。)

右手と左手でそれぞれ同じ片手結びをすれば当然男結びになりますが、右手で片手結びの表と裏(逆)をやっても男結びになります。

この結び方は実際出来なくても何とでもなりますが、選択肢は多い方がいいし、スペースの関係で右手しか使えないといった状況で効果を発揮します。出来ると玄人っぽくてかっこいい(多分)ので、余裕があれば実戦レベルにしておきたいものです。

 

 

何か思い付いたら追記します。

ではでは。