脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

後頭下筋群の解剖まとめ

現状実際に目にする機会が少ないこともあって時間が経つと忘れがちな後頭下の筋群。

自分用のメモという意味も含めてまとめてみます。

 

 

前提として、出てくる最低限のkey wordを理解しておきましょう。

上項線:superior nuchal line

下項線:inferior nuchal line

乳様突起:mastoid

環椎(C1):atlas

軸椎(C2):axis

棘突起:spinous process

横突起:transverse process

 

 

目の前に立っている人の後頭部があるとして、表層から順にイメージとして3層に分けてみていきます。

 

⓪最表層

<後頭筋:occipitalis muscle>

起始→停止:後頭筋膜→上項線(上側)

支配神経:顔面神経側頭枝(後耳介神経)

・上項線より上?なので臨床的にあまり重要ではないかと思います。支配神経の発達具合でこれを意識的に動かせる人とそうでない人がいるようです。私は動かせます。(頭皮と耳介を手を使わずに動かせる人がいるのはおそらくこの筋肉のせい)

 

 

①表層

僧帽筋:trapezius muscle>

起始→停止:C7~Th12の棘突起・項靭帯・外後頭隆起・最上項線→肩甲棘・肩峰・鎖骨

支配神経:Ⅺ、頸神経C2-3(C1)

・要は上項線あたりからTh12までの正中線を起始として肩甲骨上あたりに収束して停止している、背側から見ると縦に長い菱形を成す筋です。後頚部では薄いので存在感があまりないかもしれません。

 

胸鎖乳突筋:sternocleidomastoid muscle>

起始→停止:胸骨・鎖骨→上項線外側・乳様突起

支配神経:Ⅺ、頸神経C2-3(C1)

・上項線に付いている筋のうち外側表層のもの。そこから前下方に向かってしまうので後頭下開頭では上端の後縁が少し見えるのみです。CEAでもお目にかかるので意外と脳外と縁が深いかもしれません。

 

 

②中間層

頭半棘筋:semispinalis capitis muscle>

起始→停止:C3~Th6辺りの横突起→上項線内側(上項線と下項線の間)

支配神経:頸神経C1-7ぐらい

・上項線に付いている筋のうち内側のもの。僧帽筋より深層。横突起から起始しているので下外側から上内側に収束する感じになるわけですが、後頚部では正中付近をほぼ縦に走っています。後頭下三角の内側を覆っているイメージ。

 

頭板状筋:splenius capitis muscle>

起始→停止:C4~Th3の棘突起→上項線外側・乳様突起(胸鎖乳突筋より深層)

支配神経:頸神経C1-6ぐらい

・上項線に付いている筋のうち外側深層のもの。胸鎖乳突筋の上端を剥がすと出てきて上外側から下内側に、頭半棘筋の外側を走っています。頭最長筋とペアなイメージ。

 

頭最長筋:longissimus capitis muscle>

起始→停止:C5~Th3-5の横突起→乳様突起(頭板状筋より深層)

支配神経:頸神経C1-4ぐらい

・胸鎖乳突筋より深層の頭板状筋よりもさらに深層で、外側(かつ二腹筋窩(:digastric groove)より内側)に付く筋。頭板状筋と共に上外側から下内側に走っており、頭板状筋と共に後頭下三角の外側を覆っているイメージです。

 

 

③深層

<小後頭直筋:rectus capitis posterior minor>

起始→停止:環椎(C1)の後突起→下項線内側

支配神経:頸神経C1

・深層の一番内側、下項線内側とC1後突起を繋いで大後頭孔を守っているイメージ。この後出てくる後頭下三角とは関係ありません。

 

大後頭直筋:rectus capitis posterior major>

起始→停止:軸椎(C2)棘突起→下項線外側

支配神経:頸神経C1

・小後頭直筋外側縁を覆いつつ、それとほぼ平行に走っているイメージ。後頭下三角の内側辺を成す。

 

上頭斜筋:obliquus capitis superior muscle>

起始→停止:環椎(C1)横突起→下項線外側(大後頭直筋よりも外側)

支配神経:頸神経C1

・上内側(下項線外側)から下外側(軸椎横突起)向きに走る筋。後頭下三角の外側上辺を成す。

 

下頭斜筋:obliquus capitis inferior muscle>

起始→停止:軸椎(C2)棘突起→環椎(C1)横突起

支配神経:頸神経C1

・上外側(環椎横突起)から下内側(軸椎棘突起)向きに走る筋。後頭下三角の外側下辺を成す。この三角の中に環椎(C1)の椎弓があり、その直上あたりで環椎横突孔を通って内側に向きを変えた椎骨動脈が触知されます。(その内側下方に頸神経C1も。)

 

 

あとは神経痛の原因になる大後頭神経(頸神経C2の枝)にも触れておくと、下頭斜筋の下縁から出てきて頭半棘筋の深層を上行し、上項線あたりで頭半棘筋、僧帽筋(筋膜)を貫いて皮下に出てきます。 この辺にトリガーポイントのある後頭部痛であれば大後頭神経痛なので、神経ブロックが著効して喜ばれます。

 

 

解剖の話なのに全く図がないという暴挙ですが笑、読んだだけでイメージ出来たならその知識はきっと本物です!(言い訳)

色々なものを参考にして書いてます。 誤りがあったらすいません。

気づいたら直しますし、指摘していただけますとありがたいです。

(ちなみにWikipediaの大きなミスは発見しました笑)

 

穿頭ドリルの使い方

開頭・穿頭に不可欠な穿頭用のドリルについて。

 

頭部の手術においてはほぼ必ず登場し、慣れるまでは冷や汗が止まらないアレです。 

 

 

原始的な手回しドリルと電気もしくは空気圧を利用した機械式ドリルがありますのでその両方について考えてみます。

 

 

①手回しドリル

コストの関係で穿頭術では未だにお目にかかることもある手回しドリル。大事なのは垂直、そして力加減のメリハリです。

まずポジショニングですが、自分の胸の前に軸固定用の左手が来るように、基本的にベッドは下げてもらって低めにします。穿頭したい部分に正対し、頭部を助手に固定してもらって(馬蹄形ヘッドレスト固定だけだと甘いと思うので)、左手を介してやや体重をかけるようにして(途中まで限定!)、露出している頭蓋骨に対してドリルが垂直になるように気を付けながらハンドルを回します。

この際、最初のきっかけがないと滑りやすいので、ノミとトンカチを使ってきっかけを作っておくのも可です。個人的には、最初は半回転ごとに回転の向きを逆にしてグリグリやることできっかけを作っています。道具を持ち替えなくて良いので慣れると早くて楽です。

きっかけが出来てドリルが安定したら外板を削っていきます。ここで骨の硬さを確認しておきます。高齢女性だと相当骨がもろい場合があるので注意です。また、頭頂結節付近では骨が厚く、側頭部では薄いことも考慮しておきます。

次に、外板→板間層→内板と感触の変化を捉えます。これはやや経験値が必要です。内板まで全部削ってしまいドリルを脳に突っ込むという事態は絶対に避けないといけないので、不安であれば(特に骨の柔らかい人は)こまめに先端がどの層にいるのか確認しましょう。

垂直が乱れると変な力がかかり事故につながるので、とにかく手が疲れても垂直固定を意識します。内板まではある程度体重の助けも借りると早いです。内板に少しでも穴があくと感触がゴリゴリとしたものに変わるので、そこからは体重をかけず手だけで回していきます。抵抗を軽くして回転数重視に変えて少しずつ削るイメージです。

ドリルを1番→2番→3番と変えていくのが普通だと思いますが、1番だけでも少し工夫すれば意外と最後までいけます。あまり一般的ではないかもしれないので割愛しますが、慣れればこれも交換の手間が省けて早いです。

ある程度あいたら鋭匙に出番を代わりましょう。

ここで硬膜外から出血があった時のコツですが、いちいちゼルフォームを詰めていると時間がかかるのでボーンワックスを少量硬膜に乗せてセルシートなどで周りの硬膜外に塗り込むようにすると直ぐ止血が得られます。硬膜切開後に硬膜を周囲に押し付けて焼いとけば硬膜外の出血が持続することはありません。

 

 

②機械式ドリル(パーフォレーター)

簡単なので大したコツはありませんが、大事なのはやはり手術台の高さを調整することと、垂直にあてることでしょう。

板間層が厚いと内板を超えた時点でドリルが停止してしまうことがあります。ドリルが勝手に止まる原理が今までちゃんとは理解できていなかったのですが、「クラッチ」というキーワードを聞いてかなり腑に落ちました。なんてことはなく、押し込むとクラッチが噛んでドリルが回り、貫通して抵抗がなくなるとクラッチが外れて止まる訳ですね。(原理的には。実際にはそれだと抜けたところで脳内に突っ込んでしまうので、ドリルがインナーとアウターの2重構造になっていたりします。)

そうすると、上記の現象やドリルが斜めに入っていると危険な理由もわかります。

ちなみに、内板で止まってしまったときは、孔をずらせるならばさっさと横にずらして新しく穿孔した方が早いです。無理なら手回しドリルで内板を削るしかないかな?ちょっと経験不足で分かりません。(追記するかも)

それから、内板の上でドリルが空転しているだけで一向に進まないということが時々あるかと思います。骨が硬いと起こり得る現象です。その際は、わずかに軸を垂直からずらして回します(小さい角度で歳差運動させるイメージ。もちろん角度のつけすぎは禁)。その途中で、微かに音・感触が変わる場所があったら、そこで動きを止めて待ちます。音・感触の変化はわずかな引っかかりを示しているので、そこで待っているとまた削れてくることが多いです。後は押し付ける力を強くしてみるなども有効です。

 

 

今回は短めにこんなところで。

暖かくなってだいぶ脳外科も落ち着いてきたかな。

 

ふるさと納税のすすめ

番外編。

 

先日確定申告を済ませました。

2015年は職場を異動することがなかったので本来ならば確定申告は不要でしたが、ふるさと納税のためだけに確定申告をしたのです。

 

ふるさと納税をやっていない人に話を聞くと、大抵、

ふるさと納税がお得だっていうのは聞いたことがあるけど、確定申告が面倒だしよく分からないからやってないよ」

と返ってきます。

 

確かに確定申告は多少めんどくさいですが、一度やり方を調べて実際やってみれば大した手続きではないことが分かります。

 

大したことのないデメリット(確定申告)を大げさにみるあまり、大きなメリット(ふるさと納税返礼品)を得るチャンスをみすみす逃していませんか?

 

 

特に、以下に当てはまるような人でふるさと納税をしてない人がいたら、相当もったいないことをしていると思われます。

・単身

・生命保険などに入っていない

住宅ローンがない

・大した医療費かかってない

・職場異動がない(収入が1か所から)

・年収700万以上

 

上の5つに当てはまっていると確定申告が非常に楽(デメリット小)な上に、年収がある程度あると貰える返礼品の額が大きい(メリット大)ので、それでふるさと納税をしていないとしたら利得計算が出来ないのか、あるいは強い信念を持っているかのどちらかでしょう。(別にいくつか当てはまっていたとしても確定申告はそんなに大変じゃありません。)

 

 

初めて2016年分からふるさと納税をやってみようかな、と思った方のために自分が納税している流れを1年を通して解説してみたいと思います。

 

⓪ ふるさとチョイスにクレジットカード情報を含めて登録

ふるさとチョイスはかなり多くの自治体の情報が揃っている上に返礼品を割と探しやすく、寄付履歴など管理できるのでおすすめです(そもそも他をまともに使ったことがない)。

ふるさと納税の手続きを簡単にするために、納税方法はクレジットカードのみにしましょう。カードのポイントも貯まるしお得です。

 

① 納税限度額のあたりをつける

前年の源泉徴収票や月々の給料から年収を予測し、シミュレータや目安となる額の表を使っていくらぐらいまで納税できるか(2000円負担で済むか)を見積もっておきます。正確な納税限度額は12月にその年の源泉徴収票が出るまで分かりません。少なめに見積もって11月まで納税し、12月に源泉徴収票が出たら限度額まで追加で納税する、というのが良いと思います。

 

② 欲しいものに納税していく

私は普段買わないような果物をメインに、高級な調味料、日本酒、チーズ、海産物などが返礼品のところに納税していました。これによって生活が豊かになった気がします。(摂取カロリーも増えましたが。)とことん生活費を浮かせる目的で野菜、米なんかを中心にしてもいいんじゃないでしょうか。

 

③ 返礼品と一緒に(or別に)届く寄付証明書を取っておく

大事です。確定申告で使います。ちなみに本来確定申告が必要ない人で、納税先が5か所までであれば確定申告が不要になるというワンストップ特例制度というものがあります。納税額が少なければそれを活用するのもありだと思いますが、限度額が20-30万で私のように平均1か所納税額1万だとあっという間に5か所を超えるので無意味です。(まあそんなに確定申告を恐れる必要はありません。)

 

④ 翌年3月の確定申告期限日までに書類を作って郵送する

上の方に挙げた条件に当てはまるような人の場合は、手元に源泉徴収票、寄付証明書(、予定納税額のメモ)を用意して、国税庁のHPから確定申告の書類を作りましょう。別に難しいことはなく、誘導に従って数字を入力していくだけです。出来上がったPDFを印刷し、源泉徴収票、寄付証明書と一緒に封筒に入れて管轄の税務署に送れば終了です。

 

⑤ 指定した口座に還付金が還ってきて、翌年の住民税が一部控除される

納税額-2000円分が全て還付金として還ってくる訳ではありません。一部は翌年の住民税を控除するという形で還ってきます。そういう制度なので。

 

結果として、2000円で(年収が多ければ多いほど大量の)返礼品が手に入ることになる訳です。

 

 

後はよくありそうな疑問・意見など。

・なんで2000円でこんなに色々もらえるのか意味が分からない

お金の流れを考えれば分かりますが、損する(お金を出している)のは国と自分が住民税を納めている自治体です。大抵は都会に住む人が地方に納税する形になるため、結果として国と大都市から地方にお金が流れつつ、それを仲介する我々に返礼品が届くという形になります。(東京23区なんかは億単位で減収になってるみたいですね。)地方にとっては特産品やその土地をアピールするチャンスにもなりますし、普通に地方交付税として予算を出すよりはよく出来たシステムだと思います。(もちろん色々と問題点があるのも承知。)

 

・年収が少ないからあまり納税できないんだけど

そう、限度額が数万円だと、確かにメリットは小さいかもしれません。ニュースで広く取り上げられたりしてますが、実は本当に大きな恩恵を受けられるのは年収がある程度以上の人だけです。(そういう制度なので。)

ふるさと納税は、税金負担の重いと言われる中流階級(医師、特に勤務医の大多数)を救済するという意味も実はあるんじゃないかと思います。救済しようとしてくれているのだから活用しましょう。

 

・別に食べ物とかいらないんだけど

外付けHDD、食器、タオル、旅行券なんかもありますよ。

 

 

ではでは。

 

 

血腫除去術1 皮質下出血

市中病院にいると多く経験することになる手術の一つ、脳内出血に対する開頭血腫除去術。(他は慢性硬膜下血腫に対する穿頭血腫洗浄ドレナージ術、水頭症に対するL-PもしくはV-Pシャント術あたりがtop3でしょうか。)

 

特に皮質下出血はapproachも(被殻出血に比べると)お手軽で、若手に回ってきやすい症例です。

慢性硬膜下血腫、水頭症の手術に比べて実際に脳に触れることになるので、脳外科の手術をやっている感が強く、血腫除去が出来るようになると脳外科医として一歩成長した気がして嬉しかったのを覚えています。

脳の実際の感触や脳ベラでの脳の引き方、吸引の使い方、セルシートの扱いなどに習熟するかなり良い訓練にもなります。

 

 

疾患の話や手術適応の話は省いて、手術の話をしてみます。

 

 

まず麻酔に関してですが、意識レベルが良ければ全身麻酔、悪ければ軽い鎮痛・鎮静と局所麻酔のみでやってしまうこともあります。(意外と問題ありません。)

 

小開頭でできますので、皮切は原則血腫の直上にlinear skin incisionです。一番単純かつ低侵襲で早いので。

 

位置の決め方ですが、O-M lineからの距離(CTでO-M lineのスライスから血腫の下端、上端までそれぞれ何㎝か計算する)で高さを決め、正中矢状線からの角度や頭頂結節・耳介との関係で前後を決めます。

具体的には、まず正中矢状線をマーキングし、O-M lineからの高さを測って下端と上端をマーキングし、頭頂方向から眺めて血腫の位置を決め(正中矢状線と135度の角度を成す直線状にある等)、頭頂結節や耳介との位置関係から大きく間違っていないことを確認し、そこにhair line内に入る上下方向7㎝ぐらいの皮切をおきます。

細かい話ですが、O-M lineからの高さはあくまで頭尾方向の「高さ」なので、O-M lineから「皮膚に沿った距離」とは異なります。(伝わるかな…)

 

体位は血腫(皮切)の位置、首の回りやすさによって仰臥位か側臥位にします。頭頂結節より後ろであれば側臥位にしますが、真横ぐらいまでなら仰臥位+肩枕で何とか行けます。

上体を15度ぐらい上げた状態で頭部を回旋して血腫が一番高いところに来るようにし(横になっていると脳が落ちてきて血腫腔がつぶれてやりにくくなる)、気持ちvertex downして血腫の底まで見通せるイメージにしておきます。全身麻酔であれば3点ピン固定(馬蹄でもOK)、局所麻酔では馬蹄形ヘッドレストに固定します。

術中ベッドをローテーションしまくるので、体がずれないよう固定しておきます。

 

 

消毒、ドレーピングをして局所麻酔をしたら骨膜まで一気に切開してラスパトリウムで骨膜を剥離して開創器をかけます。慢性硬膜下血腫と要領は一緒です。

 

皮切の上端と下端にburr holeを穿ち、2つの孔をカッターでつなげて楕円形の骨窓を設けます。

 

ここでエコーを当てて血腫の位置を再確認します。ここで骨窓が大きくずれていたことはないですが、例えば少し後ろに開けてしまった場合は骨窓を前に拡大する可能性を考慮して硬膜は前方を基部としてコの字状に切開します。

 

脳表が出たら再度エコーを当てて血腫を確認し、脳表の血管をなるべく避けてcorticotomyをおける場所を探します。

血腫が脳表まで来ている場合は、深く考えず一番浅いところからのapproachで良いかと思いますが、若干深い場合は一応皮質の機能温存のことも考えて入る部位を決めます。(この時点で考えることではなくて、皮切、開頭の前から決めておくことですね)

 

尖刃である程度深めにcorticotomyをおきます。脳ベラで切開部を開きつつ血腫の方向に進んで血腫に到達します。

 

吸引管を太目のものにしてまずある程度内減圧します。その後は前壁・後壁・上壁・下壁ぐらいに分けて血腫を壁から剥がしていきます。脳ベラ(先が丸まっているやつ)が大事です。脳ベラを適宜動かして血腫と脳実質の境界に入れ、血腫を掘り起こすようにしながら2本の吸引管で交互に引っ張り出すとズルズル血腫が出てくるはずです。

助手とのコンビネーションが重要です(助手は脳ベラに専念して術者が吸引管2本というフォーメーションも有効)。

 

それぞれアプローチする壁に応じて、ベッドをローテーションさせたり上体を上げたり下げたりするのが重要です。適宜光軸もずらして奥まで見渡せるようにします。

おそらく血腫除去のキモはここです。

最初の体位が適切であればさほどベッドを回さなくても済むことが多いかと思いますが、奥に深い血腫だとローテーションは有効です。

 

浅めの血腫であればマイクロ顕微鏡は不要ですが、一応止血の段階でマイクロは入れた方がいいでしょうね。

深めで光が入りにくくブラインド操作気味になるようだと早めにマイクロを入れた方が良いと思います。

 

全周性に剥がすと大体底の部分(血腫の深さ)が自然と分かるようになります。

 

とにかく脳実質は吸わないように気を付けます。一番底となる部分が危険なので注意します。(セルシートで拭うように血腫を取ったり、血腫を薄く一層あえて残すことも。)吸いそうになってもすぐ親指を話して吸引をやめられるように吸引管を柔らかく持っておくことが大事です。

 

血管が出てきたら適宜バイポーラで焼きます。

 

全体的に血っぽくなった際には大き目のセルシートを血腫腔に突っ込み多量の水で洗浄するとまた視野が良くなります。

 

血腫を取っている途中の、血管からでない出血に関してはあまり深追いしない方がいい気がします。直ぐに止血出来ないようであれば、セルシートなど当てておき血腫を取ることを優先して全体を見渡せる状況にした方が結果として早いです。放っておいたら勝手に出血が止まっていることも多いですしね。(血まみれの大参事になることもあるのでcase by caseですよ。)

 

腔全体的に出血がないようであれば、サージセルガーゼを内腔の脳実質面にペタペタと奥から貼り戻っていきます。なお、血腫を取っていて最深部に到達した時点で、かなり深くて後で見失いそうだと思ったらさっさとサージセルガーゼを貼ってしまい二度と戻ってこないようにする手もあります。

 

ちなみに、血腫を取り終わった時点で脳がslackになっていないようであれば何かがおかしいです。血腫の取り漏れがあるか、再度奥で出血しているか…いずれにせよ中をもう一度確認する必要があります。脳実質面をセルシートで持ち上げるように拭っていると隠れていた血腫腔が出てきたということも。

 

一番きれいに取れるのは球形で一部だけ脳表に接しているような血腫であり、べたっと脳表に接しているような血腫は脳表に近い部分が硬い上に境界が曖昧で取れないことが多いので、深追いせずに残すことがあります。基本的には減圧出来ていれば良いのです。

 

後は硬膜を縫合して数か所つり上げをして骨をチタンプレートで戻し、側頭筋を切っていれば縫合した上で皮下にドレーン(基本ペンローズ)を入れて皮膚も縫合して終了です。(皮下ドレーンは別になくても大丈夫)

 

慣れると1時間もかからずに終わります。

 

 

たまには医学以外のことも書いてみようかな。

ではでは。