脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

脳室前角穿刺のコツ

 

触れていなかったので、需要はあまり無さそうですが一応…

まさにこのブログの対象としているレジデント向けの内容。

 

 

脳室外誘導(ドレナージ)、V-Pシャントなどで必要となる側脳室前角穿刺ですが、ブラインドで刺すことが多いので、経験が少ないと緊張する手技かと思います。

 

そして、意外と上手く入らないことが多い。対側の前角に入っていたり、尾状核の方へ外れてしまったり…

 

きれいに前角から入って、モンロー孔、第三脳室あたりにドレーンの先端を置きたいところですよね。(ドレナージできればどこでも良いという説もありますが。)

こういうよくやる手技をミスなく出来ることがまずは大事なので、そのコツを考えてみます。

 

1.頭を正中位にする

頭部が回旋していると途端に難易度が激増します。

普通の脳室ドレナージであれば間違いなく正中位が良いです。

V-Pシャントでも穿刺の際は出来れば頭部を正中位に戻したいところです。

回旋していると後述するメルクマールを狙っているつもりでも対側に行きやすくなります。経験上…。

 

2.穿刺部を間違えない

何パターンかあるかと思いますが、有名なのはBregmaから2.5cm前方、2.5cm外側の点でしょうか。(2.5cm≒1inch)

まずよくやるまずいポイントが、正中を間違えることです。いやいや、と思うかもしれませんが、ドレーンが変なところに入っているときの原因の割と多くがそもそも穿刺点がおかしいことにあります。(自分調べ)

外耳孔~外耳孔の距離を測って中点を取るとか、イヤホンを使うとか(脳神経外科速報にありましたね)色々方法はあるかと思いますが、とにかく正中はしっかり押さえましょう。正中をマーキングした後は全体を俯瞰で見て大きくずれていないことを確認。

Bregmaの位置(前後)は正中に比べればそこまで重要ではありません。術前にNasionからの距離を測れたら一番いいですが、まあ大体大人で14cmぐらいですね。冠状縫合は頭皮上から触れたり触れなかったりですし、勘違いもしやすいのであまり当てにならないと思っています。

穿刺点を決めたら皮切線をマーキングするわけですが、ここでまたズレが生じる危険性があります。前後方向の皮切なら左右にはズレようがないですが、横方向の皮切だと切開時、穿頭時に意外とズレたりしますので要注意。

ちなみに、冠状縫合付近はもともとbridging veinが少ないとは言え、それでも正中に近づくほど静脈損傷のリスクが高くなります。

 

3.穿刺部と前角の位置関係を押さえておく

正中から2.5cm外側ならそこと前角がどのような位置関係にあるかを見ておきます。要は、2.5cm外側から正中線とparallelに刺した際に脳室内に入るかどうか。水頭症で脳室拡大があるなら、それで入ることが多いかと思います。であれば、穿刺の際ほんのわずかに正中を向ける意識(外側にはいかないようにする)で外すことは基本ないわけです。

そこまで脳室拡大がない場合、あるいはやや外側から穿刺する状況だとして同様にparallelに刺したら脳室をかすらない場合。この際はやや内側を狙う意識を強く持つ必要があります。

穿刺で一番まずいのは外側に外れて基底核に刺さることなので、とにかくその可能性をケアします。

 

4.何cmで脳室に当たるかを確認しておく

一応。水頭症があれば3-4cmぐらいですかね。

何cmまで入れて、当たらなかった際におかしいと判断するかを予め決めておきましょう。それ以上深く刺したらダメです。

 

5.上下の角度は横から見て外耳孔に向かうように、横方向の向きは3を参考にして決め、ある程度の速度で刺す

上下の角度は横から助手に見てもらい調整します。外耳孔をメルクマールにすれば大体第三脳室を向くのでこちらはほぼ問題になりません。(脳室の上を通過して上滑りになったり、前角の前を通過してbaseに向いてしまったりして入らないパターンは少ないと思います)

どれほど内側を向けるかは3に書いた通りどれほど外側から刺すか、どれほど脳室拡大があるかに依存します。大体「ほぼparallel」「同側の内眼角」「Nasion」のどれかを狙う感じになります。印象としては2.5cm外側なら「ほぼparallel」か「同側の内眼角」、3cm外側なら「Nasion」がメルクマールでしょうか。脳室拡大がある場合はそこまで内側を狙わなくても良くなります。

方向を決めたら覚悟を決めて4-5cmぐらいまでスーッと進めるつもりで刺します。脳室上衣が白質より少し硬く抵抗があるため、そこを貫通するのにある程度の速度があった方が良いように思います。くるくる回しながらゆっくり、という流派もあるようですが。

抜ける感触がなかったら向きを確認し直して刺し直し。4で触れた通り、当たるはずの深さまで入れて当たらないのであれば、そこから過剰に進めるのは禁忌です。

 

6.抜ける感触があったら内筒を抜き、髄液の流出を確認する

通常圧が高い状況が多いと思われるので、髄液が出てくるはずです。(出しすぎないようにする)

あまり圧が高くない状態で脳室を穿刺すると髄液が逆流してこないこともあるので、その際は小さめのシリンジで少し陰圧をかけて髄液が引けるか見ます。

 

 

こんなところでしょうか。