脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

顕微鏡下手術での手の震えについて

 

手というか道具の先端ですが、最初のうちは震えたり、安定しないことがあるかと思います。

ハサミの先端がプルプルしていると周りもひやひやするしカッコ良くないので、もちろん出来ればそれは改善したいところですよね。

ということでそのためにどうすべきかを考察してみます。

 

1 メンタルを整える

いきなり精神論から入りますが、緊張すると交感神経優位になり手が震えます。ということで緊張の原因をあらかじめ取り除く必要があります。

そのためには、off the job trainigを頑張ったり(バイパスの練習などは道具の扱い方の練習という意味はもちろんですが、精神的な安定のためにも効果的だと思います)、術前検討をしっかり行ったり、シミュレーションをしたりといったことが対策になるでしょうか。

実際のところ、精神面の一番の対策は「慣れ(経験)」だと思います。これは最初のうちはどうしようもないですが。

それでも怖い上司がいたり、想定外の事態が起きたりなど緊張を避けられない状況はあるのでその時は以下の形から入る対策を取るのが良いかと思います。つまり、フォームがしっかりしていればメンタルが崩れかけても持ち直せるという発想です。(精神と身体は表裏一体なので)

 

2 姿勢を正す

これまた抽象的ですが、大事です。ベッドの高さ、椅子の高さ、顕微鏡の高さを調整して最も無理がない姿勢にセッティングします。(ベストポジションは経験がないと分からないかもですが)

マイクロを途中で他の人から代わるような場面もあるかと思いますが、基本的には遠慮せず自分のベストなセッティングにさくさくと調整すべきです。

フットスイッチの位置や設定も大事。

 

3 道具は短いものを短くもつ

道具の先が震える原因でおそらくもっとも多い原因。つまり、長い道具を、手を浮かせた状態でもっていたら誰でも先端は震えます。(もちろん脇を締めたりといった姿勢でカバーできる部分や、別に手を浮かせてても全く震えないけど?といった凄い人もいるかと思いますが、総じて安定性は悪くなるはずです)

要は支点・力点と作用点が遠いから震えるのであって、可能であれば骨窓の縁に手を置き、字を書くぐらいの感じで道具をもって操作できれば、普通に字が書ける人なら絶対に震えないわけです。

極端に言えば、メスでもハサミでもバイポーラでも、指が視野を邪魔しない限りは短く持てば良いのです。浅いところで有用な考え方です。

吸引管は吸引力を調整する穴の位置で持つ場所が決まってしまうので極端に短く持つことはできませんが、場所に応じて短めのものから使うようにすると良いでしょう。後は手首や持つ角度で調整したり。

 

4 周囲のものを利用してなるべく作用点近くで支える

色々と細かいテクニックはありますが、例えば

・道具を使うとき、その手前を脳表や皮弁、骨縁に当てて支える

・吸引管を先端の下に入れて支える

など。主にこの2つで何とかなるかと思います。先の「短く持つ」が使えない深部での操作の際に有用な考え方で、かなり使います。気づかなくても無意識に使っていると思います。

これを最大限活かすには、手をいろいろな角度から入れられるようにする必要があります。つまり、その都度手前に支えが出来るような方向から道具を入れれば良いということです。もちろん脳表などは傷つけないように。

 

5 道具の持ち方を工夫する

マイクロ剪刀、バイポーラ、鑷子は指3本(第1-3指)で持つ方法と4本(+第4指)で持つ方法があります。3本は鉛筆の持ち方とほぼ同じような感じで、4本では第3指を第2指側に持っていって代わりに第4指を下側を支える指として追加する持ち方になります。4本の方が安定しますが、道具の取り回し易さ・柔軟性が若干落ちます。

吸引管も手の軸と吸引管の軸が真っ直ぐに近い持ち方(0度近く)から、手首側を吸引するような手を丸めた持ち方(180度近く)までありますのでその都度安定する角度を探しましょう。吸引管を入れることが可能な角度と手や指を置いて固定出来る場所の兼ね合いになるかと思います。

 

 

最終的には、経験を積むことで別にこういうことを考えなくても自然に安定した手技が出来るようになるものですが、一応言語化してみました。

今回はこの辺で。また思いついたら追記します。