脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

閉頭

 

閉頭に焦点を当ててなかった気がするので閉頭についてtipsを交えながら語ってみたいと思います。

 

とは言え、こちらも例によって施設ごとにかなりやり方に差があるところなので、自分の経験に基づいた話になります。

 

硬膜内の操作が終わり、術者が止血を確認し終わったところから(マイクロを外して)閉頭作業に移ります。

 

 

①硬膜の閉鎖

まずは硬膜を閉じます。

使用する糸としては4-0もしくは5-0を使用することが多いかと思います。

吸収糸・非吸収糸どちらも使用され、縫い方としても単結節もしくは連続どちらもあり得ます。色々なやり方がありますが、要するに髄液が漏れないよう硬膜が閉鎖できればOKです。

単結節縫合で何か所か合わせておいてから非吸収糸で連続縫合、という方法が多いでしょうか。

連続縫合の方が閉鎖力は高くなるし早いです。

髄液漏を起こさないよう、水密(water tight)が目標となります。

最後に硬膜下に水を入れ、明らかな漏れがないことを確認します。(持続的な水漏れがなければ、炎症による治癒過程で接触している組織同士はくっつくので、小さな隙間も最終的に塞がります)

 

開頭時に硬膜が欠損したり、過度に縮んでしまってどうにも寄らなそうな場合は、骨膜もしくは側頭筋筋膜でパッチをあてる部分を考慮した上で位置を考えて縫合します。

パッチをあてる際はin-layとした方が閉鎖力は高くなります。

小孔程度であれば側頭筋筋体などでパックして縫合する方法もあります。

 

フィブリン糊などはあくまで補助的なものであり、おまけ程度に考えておいた方が良いかと思います。

 

あと、これは閉頭全体を通してのコツですが、biteを大きく取り過ぎないことは意外と大事です。

例えばコの字状に切開した硬膜を端から縫うときにbiteを過度に大きく取ると、対側の余裕が減って寄りにくくなります。

また、組織のテンションが高く寄りにくそうな場合、大き目にbiteを取ってしまいがちですが、これも結局寄せる点同士(針の穿通点の距離)が離れるので逆に寄せにくくなることがあります。

かと言って脆弱な組織だとある程度biteを大きくしないと結ぶ段階で千切れてしまうという面もあるのでそこはトレードオフの関係になっています。

 

 water tightについてもう少し言及しておくと、もちろんくも膜が破れていないような手術では髄液は出てこないので、特に髄液漏は問題とはならないはずです。

急性硬膜下血腫で外減圧などする場合、硬膜を切開して減張したのち人工硬膜を用いてゆるく硬膜を縫合することがあるかと思いますが、ここでwater tightは求められません。

テント上、比較的前方の開頭であれば、多少water tightが甘くても仰臥位で寝ているときに髄液の圧がかかりにくいので髄液漏が問題となることは少ないように感じます。(自然に癒着する)

やはり問題となるのは仰臥位で髄液の圧がかかり続ける後頭蓋窩です。しっかりwater tightにしないと皮下に髄液がたまり、髄液漏や髄鼻漏に繋がります。

 

 

②吊り上げ(tenting)

硬膜はもともと骨の内面に癒着していたものであり(厳密には骨と接しているのはperiosteal duraの方)、開頭で剥がしたそれを元の状態に戻すイメージです。

皮下、硬膜外の術後の出血が脳を圧迫するのを予防します。(そもそも止血はしっかりするとして、あくまで予防)

骨縁と骨弁の中心付近に穴をあけて硬膜にかけた糸を通し、硬膜を骨と密着させます。

 

 

③骨弁の固定

ここが一番施設によっていろいろなこだわりがある点でしょうか。

基本的にはチタンプレートなどを用いて周囲の骨と固定します。安定させるため、強度をある程度保証するため原則3か所以上留めます。

burr holeなどの大きなgapはカバーするようにすること、なるべく段差を作らないようにすること、毛髪のない部分(前額部など)はなるべくプレートが出ないように、平坦になるようにします。(皮膚が薄いと目立つ)

どうしても開頭の際にカッターが通った分の隙間が生じるので、極力毛髪の外に出る部分に寄せて隙間をなくし、逆に出来た隙間には骨くずを入れたりします。(骨再生の足場になるらしい…本当だろうか)

時々骨が元の面より落ち込んでしまうことがありますが、その場合はプレートを追加して持ち上げたり、大き目の骨片(リウエルでかじったもの)をくさびのように使ったりします(骨弁の一部を持ち上げた状態で隙間にくさびを挟み込む感じ)

 

 

④側頭筋の再建

側頭筋は縮みやすいですが(特にtwo layer)、縫合する前に最初に用手的に伸ばしておくと少しマシです。

元の解剖を意識しながら筋膜同士を縫合しますが、ここでもbiteは取り過ぎないようにします。3-0の吸収糸を使用することが多いでしょう。

側頭筋の頭側の方で(側頭筋が縮むために)届かなくなることが多いですが、その場合は糸で引っ張るに留めておきます。

糸をかける先は上側頭線上に縫い代として開頭時に残しておいた筋膜断端だったり、すべて剥離していれば骨に穴をあけてそこに縫い付けたりします。(穴は穴開け用のドリルを2方向から入れてトンネルを作る)

 

 

⑤帽状腱膜の縫合

皮弁にかかるテンションが十分に減張出来るぐらいに縫合します。

原則帽状腱膜のみを縫合するようにし、若干皮下組織を取っても良いですが毛根より表層には針を出さないようにします。(脱毛の原因になる)

ここでも帽状腱膜に針を通す際、biteを取り過ぎると、表層が外反して創縁が合わない(脂肪がはみ出す)原因になるので気を付けます。

あと大事なのは皮弁を操作する際に毛根を痛めないことです。有鈎鑷子で皮弁の真皮層のみ(毛根より浅い層)をつまむようにします。

動脈性の出血があれば(開頭時に処理しているはずですが)、適宜止血します。

皮膚の毛細血管からの出血は止めようとすると時間がかかるのと毛根を痛める原因になるので結局さっさと閉じるのが良いと思っています。

 

 

⑥表層の閉鎖

skin staplerを用いることがほとんどでしょう。

とにかく創縁同士がしっかり合うように、鑷子で高さを調整しながら打っていきます。(毛根は摘ままない。)

一見合っているように見えて片方が内反していることが多い(特に耳周り)ので気を付けます。

どうしても合わない場合は皮下縫合がおかしいことがあるのでやり直します。それでもダメなら他の部位のしわ寄せだったりするのである程度長さをとって一部に負荷がかかり過ぎないようにstaplerを打ち直すか、ナイロンなどで縫合しましょう。

 

 

 以上。

初めて外部のcadaverに参加しましたが非常に勉強になりました。

なるべく年1-2回は参加するようにしたいところです。