脳外科領域のステロイド
多くの科で色々な使われ方をするステロイド。様々な効果があるので最初は掴みどころがない感じがしますが、脳外科領域では主に脳実質内の血管原性浮腫の治療に使用します。
血管原性浮腫とは何かという話になりますが、代表的には脳腫瘍によってその周囲に発生する浮腫のことを指します。
腫瘍がVEGFを撒きちらして未熟な新生血管の発生を促し血管透過性を亢進させることによって、細胞外の間質液が増加して脳実質が浮腫(むく)む、というのがその機序です。
腫瘍の周りの、CTでlowに見え、MRI FLAIRでhighに見えるアレです。
浮腫んでいる部分は水分量が増えるので、当然体積も増します。頭蓋内の体積は一定なので、当然代償が効かなくなってくると脳圧が亢進することになります。
また、浮腫になっている部分ではその機能が低下して巣症状を呈します。(浮腫が引けば症状は改善します、可逆的です)
ということで、脳外科ではステロイドを浮腫による脳圧亢進に対して脳圧を下げるために使用したり、浮腫によって発生している巣症状を改善させるために使用したりするわけですね。
ちなみにステロイドと言っても「糖質コルチコイド」と「鉱質コルチコイド」の2種類あるのは覚えているでしょうか。(生理学で勉強したはず)
アルドステロンに代表される鉱質コルチコイドはその名の通りミネラルを調整しますがこちらは治療にあまり関係がなく、むしろ電解質異常などの副作用をきたします。重要なのはコルチゾールに代表される糖質コルチコイドの抗炎症作用の方です。抗炎症作用により細胞膜を安定させ、血管の透過性亢進を予防し、BBBも修復することで抗浮腫効果を発揮するそうです。(実はこの辺ははっきりと分かっていない)
なので、治療にはステロイドを修飾して鉱質作用を弱め糖質作用を強化した製剤を使用することになります。これがプレドニゾロン(プレドニン®)、デキサメタゾン(デカドロン®)、ベタメタゾン(リンデロン®)といった薬です。
具体的な投与法は諸説あり、施設によって異なるかと思いますが、
ベタメタゾン
8mg×2回/日 2日間
4mg×2回/日 2日間
2mg×2回/日 2日間
1mg×2回/日 1日間
で中止(もしくは少量内服で継続)とするなどして私は使用してます。
もっと長めに漸減期間を取ったり、より大量もしくは少量から開始する派もいるかと思います。
胃酸分泌が亢進するので上部消化管潰瘍予防にH2 blockerかPPIは併用します。
(特に糖尿病が基礎疾患としてある場合は)血糖が高くなることがあるので血糖は測定するようにし、場合によっては積極的に介入コントロールします。
効果は早いと数時間からみられ、24-72時間ぐらいで画像上も浮腫が引いてきます。
ちなみに、中枢神経原発悪性リンパ腫の疑いがあって生検術予定であれば、浮腫が強いからといってステロイドを開始してはいけないことは有名です。
ステロイドには悪性リンパ腫の腫瘍細胞をアポトーシス誘導することによって縮小させる効果があり、生検前に使用してしまうと診断がつきにくくなるからです。そもそもステロイドは悪性リンパ腫に対する治療薬の1つですからね。
もちろん脳圧亢進が高度で生命に関わるような状態ではその限りではありません。
脳浮腫の治療というと他にはグリセロール、マンニトールといった浸透圧利尿薬を使用したり、呼吸器が繋がっていれば過換気気味にしたり、若干head upして静脈圧を下げたり、脱水気味に管理したりといったところでしょうか。
あと最近ではベバシズマブ(BEV、アバスチン®)が一般的になってきているかと思います。
保険適応の問題があり使える疾患が限られてはいますが、血管原性浮腫の特効薬と言っても過言ではないぐらい、キレイに、あっという間に浮腫が引きます。(ずっと効果があるわけではないですが)
転移性脳腫瘍や遅発性放射線壊死で生じる浮腫にも効果があるので、今後適応が拡大するにつれて使用機会はますます増えそうです。まあそれはそれで医療費増大の問題もありますが…
今回はこんなところで。