脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

CV穿刺のコツ

末梢点滴のライン確保が難しい場合、いつ今のラインがダメになるか…というストレスから解放してくれる頼もしい存在、それがCV(central venous、中心静脈)ラインです。

中心静脈栄養をしたい場合にも使います。(むしろこっちがメインですかね。脳外科入院患者では意識障害や嚥下障害があって経口摂取困難でも消化管は問題ないことがほとんどなので、最近の傾向からさっさと経鼻胃管を挿れて経管栄養を始めることが多く、本格的なTPNをやるケースは減っているかもしれませんね。)

 

 

大腿静脈、内頸静脈、鎖骨下静脈が主なアクセスルートで、PICC(末梢静脈挿入型中心静脈カテーテル)なんてのもあります。

 

いずれも経験がありますが(研修医時代に全部経験しておくことが大事)、どれも一長一短といった感じです。

 

鎖骨下静脈が一番見た目が良く刺された本人も違和感が少なそうで好きですが気胸、血胸(動脈穿刺)が相対的にハイリスクですし、PICCは安全ですが難しい人はとことん入らず泥沼化する印象です(そもそも太い静脈がないと厳しい)。

内頸静脈も鎖骨下動脈と同様に気胸のリスク+経動脈穿刺という割と危ない合併症もあります。が、こちらが最近は第一選択でしょうか。

 

現在の施設では大腿静脈を選択することが多いです。感染が問題となることが多いと言われる部分ですが、意外と大丈夫です。(穿刺の際の感染対策、不要な消毒をしない、汚染対策あたりが大事です。きちんとすれば他の部位と感染率に差がないという報告もあったはず。)

DVTが多いという話もあるようなので、まあどこを第一選択とするかは施設ごとの差もあるでしょう。

 

 

ということで、一番経験値があって自信がある大腿静脈穿刺を中心に語ってみます。

 

 

 

実際の手順とポイント。

(追記:最近はエコーガイド下に穿刺がデフォルトという流れだと思うので、まあ参考程度に読み流してください)

 

まず、穿刺前にエコーで確認する場合もあるかと思いますが、私は基本しません。

今の施設のエコーへのアクセスが悪いのと、なくても9割以上問題ないからです。CVの敷居が上がるところも今一つ。点滴と同じぐらいのノリで入れられるようになると非常に楽です。まあ初めのうちはprescanしておいた方が良いかもしれませんね。

(というか簡単にエコーが出来るのなら勿論すべきです。エコーガイド下などと言い出すと手技の時間も延びますし色々と厄介なので、そこに大腿静脈がちゃんと存在し、通常通りの走行をしていることさえ確認できれば十分かと思います。個人的には。)

 

体位は普通の仰臥位で、軽く脚を開きます。右利きであれば自分は患者の右側に立ちます。

開いた脚の間には枕やクッションを入れておきます。(脚が開いた状態をkeepしつつ凹みがなくなって作業しやすくなります。)

ベッドの高さを調整します。(かがんでやると段々腰が痛くなってきます。外科医は腰を大事にしましょう。)

大腿動脈を触知して一番触れる部分を探します。そこのわずかに末梢、内側が穿刺点になります。(理想はおそらくアンギオで動脈穿刺する点の指標である大腿骨頭下縁辺りです。)

ここで、穿刺点が末梢過ぎると難易度が上がります。いい場所だと思って穿刺してもなかなか当たらず、もう一度動脈を触診してみるともう少し中枢側にもっといい穿刺ポイントがあったという経験があります。

テープを貼る際に毛が邪魔になりそうであれば剃っておきます。(これも感染対策の重要なポイントかも。)

穿刺点から胸骨下端辺りまでの長さをなんとなく測っておきます。何㎝で固定するかの指標にします。(40-45cmぐらいが多い)

消毒の前にまずアルコール綿で穿刺点付近をゴシゴシ擦って物理的にキレイにします。(感染対策のポイントその2。)

その後クロルヘキシジンで消毒します。イソジンを使うならちゃんと乾くまで待ちましょう。

滅菌手袋つけて穴あきドレープ、working spaceが足りなければ追加ドレープを脚の間に置いて場を作ります。帽子、ガウンもした方が良いとは思います。

さっさと局所麻酔をします。その後でCVセットを出してworking spaceに並べて準備します。

 

準備が出来たら刺します。ポイントは、まず大腿動脈ぎりぎり内側を狙うこと。事前の触診で大腿動脈の走行を把握し、動脈には刺さらないけどすぐ近くというライン上を、大腿動脈の走行と同じ向きに45度ぐらいで穿刺していきます。

同じ向きに、というのが一つ大事なポイント。触診がしっかり出来ていないと大腿動脈に向かう方向だったり離れる方向に刺してしまうことになりますが、そうすると動脈とほぼ平行に走っているであろう静脈に点でしか当たらなくなるので自ら難易度を上げることになります。

 

また、そこそこの速さで針を進めるのもポイントかもしれません。ゆっくり過ぎると脱水気味だった場合に大腿静脈がつぶれ貫通してしまうことが多い気がします。(その場合、陰圧かけながら戻ってくれば逆血はありますが。)

 

大腿静脈は大腿動脈のすぐ近くにいる可能性が非常に高いです。これでいきなり6-7割はヒットする印象です。ダメでも少しずつ大腿動脈から内側に離して穿刺していくことで9割ぐらいヒットします。(基本的には離した穿刺点から大腿動脈ぎりぎりを狙うのではなく、再び大腿動脈に平行な方向に穿刺した方が良い。)

 

大腿静脈にヒットすると、スムーズに静脈血が引けます。抵抗なくスーッと血液が出てくる感触が大事です。ここで血液の引きがいまいちな場合はその後ガイドワイヤーも上手く進まないことが多いので穿刺し直した方が良いかもしれません。

スーッと血液が引けるポイントを確保したら、絶対に針をその位置から動かさないように左手で固定して右手でガイドワイヤーを操作します。

サーフロー式でもシリンジの後ろから入れる式でもいいですが、とにかく血液がスムーズ引けるポイントに針先がいてくれさえすれば、ガイドワイヤーは進んでいくはずです。

ガイドワイヤーを進めていて抵抗があったら引き返すこと。静脈内に入らず皮下で巻いてしまっているようであれば針の固定が甘かったと反省して止血して穿刺からやり直しです。ある程度進んだところで抵抗があるようであれば、腹壁の静脈や腎静脈に迷入している可能性があるのである程度戻してから少しねじってワイヤーの向きを変えて再度進めます。

 

後はダイレーター、CVと進めるだけ。先端が下大静脈-右心房のjunction辺りに位置するのを目標にします。

CVから抵抗なく逆血があることを確認します。(いまいちな時は変な静脈に迷入している可能性があります。)

 

私は普段、ひとまずその場では固定せずに道具をCVセットが入っていたトレーに避難させ、一旦術野とCVを穴あきドレープで清潔のまま包んでポータブルのレントゲンを撮ります。その後ドレープを開き先端位置を調整して固定しています。

 

 

右でどうしてもダメなら左を刺しましょう。それで大体上手くいきます。

 

 

 

他、部位別のコツ

 

・内頸静脈

十分に頭部を回旋し、胸鎖乳突筋が胸骨と鎖骨に分かれる分岐部の辺りから同側の乳頭に向かって穿刺。内頚動脈は予め走行を確認し刺さないようにする。動脈を押さえながらだと内頸静脈がつぶれてしまい難しいこともある。

針は陰圧をかけながらゆっくり進め、万が一胸腔に入ってしまいairが引けるようなことがあれば絶対にそれ以上進めない。(肺を穿刺しないようにするため。鎖骨下も同様。)

 

・鎖骨下静脈

鎖骨外側よりのすぐ下、仰臥位になって一番凹んでいる部分から胸鎖切痕に向けて穿刺。鎖骨下縁ぎりぎりを通るようにする。下縁に当てて進めると針が尾側に曲がり気胸になる恐れがあるので(本当か分からないがそう習った)、あくまで鎖骨には当たらないぎりぎりをまっすぐ穿刺するイメージ。

 

・PICC

太目の静脈を選びなるべく貫かないようにして1回で成功させる。そもそも静脈が細くて無理な人も。

経験則として、局所麻酔は最初はしない方が良いです。静脈が触れづらくなって結局穿刺回数が増えたりしてトータルで痛い思いをさせることになる気がしています。ガイドワイヤーまで入ったらそこで初めて穿刺点周りに局所麻酔してダイレーションに移るのが良さそうです。(個人の感想です)

 

 

積極的に穿刺して早く慣れましょう。

気軽にCVを入れられるようになると病棟のストレスがひとつ減りますよ。

慣れれば準備含めて10分ぐらいで入ります。(位置確認して固定まで入れるとさすがにもう少しかかります)

 

ではでは。