脳外科医の思うこと

脳外科レジデントによるブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

糸結びのコツ

緩まない糸結びのコツを考えてみます。

 

まず、そもそもなぜ緩むのか?

原因は2種類に分類できると思います。

 

①縫合で寄せようとしている1対の組織に離れようとするテンションがかかっているから

頭皮を縫合する時など、翻転した皮弁が少し縮んで創縁同士が寄りにくくなっているような場合です。この場合、糸を締める力が弱まると緩んで創縁が離れます。

 

②糸そのものの剛性と摩擦のなさ

例えばナイロン糸と絹糸をペットボトルに結んだときなどを考えてみれば分かると思いますが、1回片手結びしたとして、手を放しても絹糸は大して緩まないのに対しナイロンは緩みやすいです。これはナイロン糸が真っすぐに戻ろうとする力(剛性)が比較的強いことに加え摩擦係数が小さいことに起因します。

 

 

では、緩まずに結ぶためにはどうすれば良いか。

テンションを利用する or(and) 摩擦を利用する

しかありません。(多くの場面でテンションをかける→摩擦力が上がる なのでほぼ同じことかもしれませんが。)

 

 

具体的な策を思いつくだけ挙げていきます。

 

 

外科結びにする(摩擦利用)

特にマルチフィラメントの糸で組織同士のテンションがさほど高くない特に有効です。外科結びにしてギュッと締めた後、手を緩めても創縁が離れなければ成功です。そのまま固定された結び目に力が及んで緩まないように、次の結び目を作って締めます。

 

片手結びでロックをかける(テンション and 摩擦利用)

左手を軸糸として右手の糸を巻き付けた状況を想定します。(右手で片手結び)

そのまま左手の糸を創面から比較的垂直に近い角度(創面との角度を大きくした状態)にしたまま右手の糸を締めていき、最後に左手の糸を創面と水平になるぐらいまで倒すことで、左手の糸と創面で右手の巻き付けた糸の一部を挟んで糸が緩むことを防ぎます(ロック)。

この方法は球面である頭皮の縫合において汎用性が高く、よく使います。硬膜のつり上げでも多用しますね。モノフィラメントの糸でもマルチフィラメントの糸でも有効です。

2回目の結び目は左手のテンションを保ったまま再度右手の糸を巻き付けるようにして作ります。この時に左手が緩みやすいので練習が必要です。

左手の糸が創面と水平に近い角度が取れないような状況では使えません。

(ロックの定義に関しては諸説あるかもしれません。私はこの仕組みで理解しています。)

 

女結びで後から締める(摩擦利用)

同じ手で片手結びなど同じ結びを繰り返して女結びにし、それを送り込んで後から締める方法です。ロックと併用することも多いかも。送り込む結び目が遠すぎたり、マルチフィラメントの糸だったりすると、締めている途中で結び目が固まってしまい、それ以上絞められなくなることもあります。

 

両方の糸を均等に引っ張ったまま結ぶ(テンション利用)

両手結びで1つ目の結び目を作って締め、左右に引っ張ったテンションを保ったまま両方の糸を創面から垂直な位置まで近づけて十字結び(という呼び方か分かりませんが、人差し指、あるいは親指の上で十字を作る結び方)をします。一瞬でも片方の糸のテンションが緩むとアウトで練習が必要です。

2つ目の結び目を作った後もテンションは保ったままにし、糸を左右に引くことで2つ目の結び目を1つ目の結び目まで送り込んでいきます。

両方の糸にテンションを常時かけたまま結べるのは十字結びだけだと思います。あまり見ない方法かもしれませんが、消化器外科の先生がやってました。

 

対象を予め寄せておく

あまりに寄せたいもののテンションが高くて糸だけでは寄らない時には、助手に鉤ピンなどで創縁を寄せておいてもらったり、太目の糸でstay sutureをおいておくのも手です。

 

 

余談ですが、片手結びに表と裏があるのはご存知でしょうか?

いわゆる普通の片手結びと、上から取る感じの片手結びです(表現が難しいですが、片手結びの裏とか逆とか言われている結び方です。Youtubeにいくつか動画があります。)

右手と左手でそれぞれ同じ片手結びをすれば当然男結びになりますが、右手で片手結びの表と裏(逆)をやっても男結びになります。

この結び方は実際出来なくても何とでもなりますが、選択肢は多い方がいいし、スペースの関係で右手しか使えないといった状況で効果を発揮します。出来ると玄人っぽくてかっこいい(多分)ので、余裕があれば実戦レベルにしておきたいものです。

 

 

何か思い付いたら追記します。

ではでは。