脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

穿頭ドリルの使い方

開頭・穿頭に不可欠な穿頭用のドリルについて。

 

頭部の手術においてはほぼ必ず登場し、慣れるまでは冷や汗が止まらないアレです。 

 

 

原始的な手回しドリルと電気もしくは空気圧を利用した機械式ドリルがありますのでその両方について考えてみます。

 

 

①手回しドリル

コストの関係で穿頭術では未だにお目にかかることもある手回しドリル。大事なのは垂直、そして力加減のメリハリです。

まずポジショニングですが、自分の胸の前に軸固定用の左手が来るように、基本的にベッドは下げてもらって低めにします。穿頭したい部分に正対し、頭部を助手に固定してもらって(馬蹄形ヘッドレスト固定だけだと甘いと思うので)、左手を介してやや体重をかけるようにして(途中まで限定!)、露出している頭蓋骨に対してドリルが垂直になるように気を付けながらハンドルを回します。

この際、最初のきっかけがないと滑りやすいので、ノミとトンカチを使ってきっかけを作っておくのも可です。個人的には、最初は半回転ごとに回転の向きを逆にしてグリグリやることできっかけを作っています。道具を持ち替えなくて良いので慣れると早くて楽です。

きっかけが出来てドリルが安定したら外板を削っていきます。ここで骨の硬さを確認しておきます。高齢女性だと相当骨がもろい場合があるので注意です。また、頭頂結節付近では骨が厚く、側頭部では薄いことも考慮しておきます。

次に、外板→板間層→内板と感触の変化を捉えます。これはやや経験値が必要です。内板まで全部削ってしまいドリルを脳に突っ込むという事態は絶対に避けないといけないので、不安であれば(特に骨の柔らかい人は)こまめに先端がどの層にいるのか確認しましょう。

垂直が乱れると変な力がかかり事故につながるので、とにかく手が疲れても垂直固定を意識します。内板まではある程度体重の助けも借りると早いです。内板に少しでも穴があくと感触がゴリゴリとしたものに変わるので、そこからは体重をかけず手だけで回していきます。抵抗を軽くして回転数重視に変えて少しずつ削るイメージです。

ドリルを1番→2番→3番と変えていくのが普通だと思いますが、1番だけでも少し工夫すれば意外と最後までいけます。あまり一般的ではないかもしれないので割愛しますが、慣れればこれも交換の手間が省けて早いです。

ある程度あいたら鋭匙に出番を代わりましょう。

ここで硬膜外から出血があった時のコツですが、いちいちゼルフォームを詰めていると時間がかかるのでボーンワックスを少量硬膜に乗せてセルシートなどで周りの硬膜外に塗り込むようにすると直ぐ止血が得られます。硬膜切開後に硬膜を周囲に押し付けて焼いとけば硬膜外の出血が持続することはありません。

 

 

②機械式ドリル(パーフォレーター)

簡単なので大したコツはありませんが、大事なのはやはり手術台の高さを調整することと、垂直にあてることでしょう。

板間層が厚いと内板を超えた時点でドリルが停止してしまうことがあります。ドリルが勝手に止まる原理が今までちゃんとは理解できていなかったのですが、「クラッチ」というキーワードを聞いてかなり腑に落ちました。なんてことはなく、押し込むとクラッチが噛んでドリルが回り、貫通して抵抗がなくなるとクラッチが外れて止まる訳ですね。(原理的には。実際にはそれだと抜けたところで脳内に突っ込んでしまうので、ドリルがインナーとアウターの2重構造になっていたりします。)

そうすると、上記の現象やドリルが斜めに入っていると危険な理由もわかります。

ちなみに、内板で止まってしまったときは、孔をずらせるならばさっさと横にずらして新しく穿孔した方が早いです。無理なら手回しドリルで内板を削るしかないかな?ちょっと経験不足で分かりません。(追記するかも)

それから、内板の上でドリルが空転しているだけで一向に進まないということが時々あるかと思います。骨が硬いと起こり得る現象です。その際は、わずかに軸を垂直からずらして回します(小さい角度で歳差運動させるイメージ。もちろん角度のつけすぎは禁)。その途中で、微かに音・感触が変わる場所があったら、そこで動きを止めて待ちます。音・感触の変化はわずかな引っかかりを示しているので、そこで待っているとまた削れてくることが多いです。後は押し付ける力を強くしてみるなども有効です。

 

 

今回は短めにこんなところで。

暖かくなってだいぶ脳外科も落ち着いてきたかな。