脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

ふるさと納税のすすめ

番外編。

 

先日確定申告を済ませました。

2015年は職場を異動することがなかったので本来ならば確定申告は不要でしたが、ふるさと納税のためだけに確定申告をしたのです。

 

ふるさと納税をやっていない人に話を聞くと、大抵、

ふるさと納税がお得だっていうのは聞いたことがあるけど、確定申告が面倒だしよく分からないからやってないよ」

と返ってきます。

 

確かに確定申告は多少めんどくさいですが、一度やり方を調べて実際やってみれば大した手続きではないことが分かります。

 

大したことのないデメリット(確定申告)を大げさにみるあまり、大きなメリット(ふるさと納税返礼品)を得るチャンスをみすみす逃していませんか?

 

 

特に、以下に当てはまるような人でふるさと納税をしてない人がいたら、相当もったいないことをしていると思われます。

・単身

・生命保険などに入っていない

住宅ローンがない

・大した医療費かかってない

・職場異動がない(収入が1か所から)

・年収700万以上

 

上の5つに当てはまっていると確定申告が非常に楽(デメリット小)な上に、年収がある程度あると貰える返礼品の額が大きい(メリット大)ので、それでふるさと納税をしていないとしたら利得計算が出来ないのか、あるいは強い信念を持っているかのどちらかでしょう。(別にいくつか当てはまっていたとしても確定申告はそんなに大変じゃありません。)

 

 

初めて2016年分からふるさと納税をやってみようかな、と思った方のために自分が納税している流れを1年を通して解説してみたいと思います。

 

⓪ ふるさとチョイスにクレジットカード情報を含めて登録

ふるさとチョイスはかなり多くの自治体の情報が揃っている上に返礼品を割と探しやすく、寄付履歴など管理できるのでおすすめです(そもそも他をまともに使ったことがない)。

ふるさと納税の手続きを簡単にするために、納税方法はクレジットカードのみにしましょう。カードのポイントも貯まるしお得です。

 

① 納税限度額のあたりをつける

前年の源泉徴収票や月々の給料から年収を予測し、シミュレータや目安となる額の表を使っていくらぐらいまで納税できるか(2000円負担で済むか)を見積もっておきます。正確な納税限度額は12月にその年の源泉徴収票が出るまで分かりません。少なめに見積もって11月まで納税し、12月に源泉徴収票が出たら限度額まで追加で納税する、というのが良いと思います。

 

② 欲しいものに納税していく

私は普段買わないような果物をメインに、高級な調味料、日本酒、チーズ、海産物などが返礼品のところに納税していました。これによって生活が豊かになった気がします。(摂取カロリーも増えましたが。)とことん生活費を浮かせる目的で野菜、米なんかを中心にしてもいいんじゃないでしょうか。

 

③ 返礼品と一緒に(or別に)届く寄付証明書を取っておく

大事です。確定申告で使います。ちなみに本来確定申告が必要ない人で、納税先が5か所までであれば確定申告が不要になるというワンストップ特例制度というものがあります。納税額が少なければそれを活用するのもありだと思いますが、限度額が20-30万で私のように平均1か所納税額1万だとあっという間に5か所を超えるので無意味です。(まあそんなに確定申告を恐れる必要はありません。)

 

④ 翌年3月の確定申告期限日までに書類を作って郵送する

上の方に挙げた条件に当てはまるような人の場合は、手元に源泉徴収票、寄付証明書(、予定納税額のメモ)を用意して、国税庁のHPから確定申告の書類を作りましょう。別に難しいことはなく、誘導に従って数字を入力していくだけです。出来上がったPDFを印刷し、源泉徴収票、寄付証明書と一緒に封筒に入れて管轄の税務署に送れば終了です。

 

⑤ 指定した口座に還付金が還ってきて、翌年の住民税が一部控除される

納税額-2000円分が全て還付金として還ってくる訳ではありません。一部は翌年の住民税を控除するという形で還ってきます。そういう制度なので。

 

結果として、2000円で(年収が多ければ多いほど大量の)返礼品が手に入ることになる訳です。

 

 

後はよくありそうな疑問・意見など。

・なんで2000円でこんなに色々もらえるのか意味が分からない

お金の流れを考えれば分かりますが、損する(お金を出している)のは国と自分が住民税を納めている自治体です。大抵は都会に住む人が地方に納税する形になるため、結果として国と大都市から地方にお金が流れつつ、それを仲介する我々に返礼品が届くという形になります。(東京23区なんかは億単位で減収になってるみたいですね。)地方にとっては特産品やその土地をアピールするチャンスにもなりますし、普通に地方交付税として予算を出すよりはよく出来たシステムだと思います。(もちろん色々と問題点があるのも承知。)

 

・年収が少ないからあまり納税できないんだけど

そう、限度額が数万円だと、確かにメリットは小さいかもしれません。ニュースで広く取り上げられたりしてますが、実は本当に大きな恩恵を受けられるのは年収がある程度以上の人だけです。(そういう制度なので。)

ふるさと納税は、税金負担の重いと言われる中流階級(医師、特に勤務医の大多数)を救済するという意味も実はあるんじゃないかと思います。救済しようとしてくれているのだから活用しましょう。

 

・別に食べ物とかいらないんだけど

外付けHDD、食器、タオル、旅行券なんかもありますよ。

 

 

ではでは。

 

 

血腫除去術1 皮質下出血

市中病院にいると多く経験することになる手術の一つ、脳内出血に対する開頭血腫除去術。(他は慢性硬膜下血腫に対する穿頭血腫洗浄ドレナージ術、水頭症に対するL-PもしくはV-Pシャント術あたりがtop3でしょうか。)

 

特に皮質下出血はapproachも(被殻出血に比べると)お手軽で、若手に回ってきやすい症例です。

慢性硬膜下血腫、水頭症の手術に比べて実際に脳に触れることになるので、脳外科の手術をやっている感が強く、血腫除去が出来るようになると脳外科医として一歩成長した気がして嬉しかったのを覚えています。

脳の実際の感触や脳ベラでの脳の引き方、吸引の使い方、セルシートの扱いなどに習熟するかなり良い訓練にもなります。

 

 

疾患の話や手術適応の話は省いて、手術の話をしてみます。

 

 

まず麻酔に関してですが、意識レベルが良ければ全身麻酔、悪ければ軽い鎮痛・鎮静と局所麻酔のみでやってしまうこともあります。(意外と問題ありません。)

 

小開頭でできますので、皮切は原則血腫の直上にlinear skin incisionです。一番単純かつ低侵襲で早いので。

 

位置の決め方ですが、O-M lineからの距離(CTでO-M lineのスライスから血腫の下端、上端までそれぞれ何㎝か計算する)で高さを決め、正中矢状線からの角度や頭頂結節・耳介との関係で前後を決めます。

具体的には、まず正中矢状線をマーキングし、O-M lineからの高さを測って下端と上端をマーキングし、頭頂方向から眺めて血腫の位置を決め(正中矢状線と135度の角度を成す直線状にある等)、頭頂結節や耳介との位置関係から大きく間違っていないことを確認し、そこにhair line内に入る上下方向7㎝ぐらいの皮切をおきます。

細かい話ですが、O-M lineからの高さはあくまで頭尾方向の「高さ」なので、O-M lineから「皮膚に沿った距離」とは異なります。(伝わるかな…)

 

体位は血腫(皮切)の位置、首の回りやすさによって仰臥位か側臥位にします。頭頂結節より後ろであれば側臥位にしますが、真横ぐらいまでなら仰臥位+肩枕で何とか行けます。

上体を15度ぐらい上げた状態で頭部を回旋して血腫が一番高いところに来るようにし(横になっていると脳が落ちてきて血腫腔がつぶれてやりにくくなる)、気持ちvertex downして血腫の底まで見通せるイメージにしておきます。全身麻酔であれば3点ピン固定(馬蹄でもOK)、局所麻酔では馬蹄形ヘッドレストに固定します。

術中ベッドをローテーションしまくるので、体がずれないよう固定しておきます。

 

 

消毒、ドレーピングをして局所麻酔をしたら骨膜まで一気に切開してラスパトリウムで骨膜を剥離して開創器をかけます。慢性硬膜下血腫と要領は一緒です。

 

皮切の上端と下端にburr holeを穿ち、2つの孔をカッターでつなげて楕円形の骨窓を設けます。

 

ここでエコーを当てて血腫の位置を再確認します。ここで骨窓が大きくずれていたことはないですが、例えば少し後ろに開けてしまった場合は骨窓を前に拡大する可能性を考慮して硬膜は前方を基部としてコの字状に切開します。

 

脳表が出たら再度エコーを当てて血腫を確認し、脳表の血管をなるべく避けてcorticotomyをおける場所を探します。

血腫が脳表まで来ている場合は、深く考えず一番浅いところからのapproachで良いかと思いますが、若干深い場合は一応皮質の機能温存のことも考えて入る部位を決めます。(この時点で考えることではなくて、皮切、開頭の前から決めておくことですね)

 

尖刃である程度深めにcorticotomyをおきます。脳ベラで切開部を開きつつ血腫の方向に進んで血腫に到達します。

 

吸引管を太目のものにしてまずある程度内減圧します。その後は前壁・後壁・上壁・下壁ぐらいに分けて血腫を壁から剥がしていきます。脳ベラ(先が丸まっているやつ)が大事です。脳ベラを適宜動かして血腫と脳実質の境界に入れ、血腫を掘り起こすようにしながら2本の吸引管で交互に引っ張り出すとズルズル血腫が出てくるはずです。

助手とのコンビネーションが重要です(助手は脳ベラに専念して術者が吸引管2本というフォーメーションも有効)。

 

それぞれアプローチする壁に応じて、ベッドをローテーションさせたり上体を上げたり下げたりするのが重要です。適宜光軸もずらして奥まで見渡せるようにします。

おそらく血腫除去のキモはここです。

最初の体位が適切であればさほどベッドを回さなくても済むことが多いかと思いますが、奥に深い血腫だとローテーションは有効です。

 

浅めの血腫であればマイクロ顕微鏡は不要ですが、一応止血の段階でマイクロは入れた方がいいでしょうね。

深めで光が入りにくくブラインド操作気味になるようだと早めにマイクロを入れた方が良いと思います。

 

全周性に剥がすと大体底の部分(血腫の深さ)が自然と分かるようになります。

 

とにかく脳実質は吸わないように気を付けます。一番底となる部分が危険なので注意します。(セルシートで拭うように血腫を取ったり、血腫を薄く一層あえて残すことも。)吸いそうになってもすぐ親指を話して吸引をやめられるように吸引管を柔らかく持っておくことが大事です。

 

血管が出てきたら適宜バイポーラで焼きます。

 

全体的に血っぽくなった際には大き目のセルシートを血腫腔に突っ込み多量の水で洗浄するとまた視野が良くなります。

 

血腫を取っている途中の、血管からでない出血に関してはあまり深追いしない方がいい気がします。直ぐに止血出来ないようであれば、セルシートなど当てておき血腫を取ることを優先して全体を見渡せる状況にした方が結果として早いです。放っておいたら勝手に出血が止まっていることも多いですしね。(血まみれの大参事になることもあるのでcase by caseですよ。)

 

腔全体的に出血がないようであれば、サージセルガーゼを内腔の脳実質面にペタペタと奥から貼り戻っていきます。なお、血腫を取っていて最深部に到達した時点で、かなり深くて後で見失いそうだと思ったらさっさとサージセルガーゼを貼ってしまい二度と戻ってこないようにする手もあります。

 

ちなみに、血腫を取り終わった時点で脳がslackになっていないようであれば何かがおかしいです。血腫の取り漏れがあるか、再度奥で出血しているか…いずれにせよ中をもう一度確認する必要があります。脳実質面をセルシートで持ち上げるように拭っていると隠れていた血腫腔が出てきたということも。

 

一番きれいに取れるのは球形で一部だけ脳表に接しているような血腫であり、べたっと脳表に接しているような血腫は脳表に近い部分が硬い上に境界が曖昧で取れないことが多いので、深追いせずに残すことがあります。基本的には減圧出来ていれば良いのです。

 

後は硬膜を縫合して数か所つり上げをして骨をチタンプレートで戻し、側頭筋を切っていれば縫合した上で皮下にドレーン(基本ペンローズ)を入れて皮膚も縫合して終了です。(皮下ドレーンは別になくても大丈夫)

 

慣れると1時間もかからずに終わります。

 

 

たまには医学以外のことも書いてみようかな。

ではでは。

 

手術上達の道1

手術は基本的に術者と助手という役割分担で行われます。

経験の浅いうちは、上級医が術者で自分は助手として手術に入ることの方が必然的に多くなります。

 

ところが、ある日突然「じゃあ今日はお前術者やってみるか。」と言われ術者が降ってくるという状況が発生します。

もちろん予定手術で事前に術者として指名されるという場面もあると思いますが、脳外科は緊急手術が多いので、こういった状況が自然と発生しやすいという特徴があります。

 

当然ながら、何の準備もなく突然術者を任されたとしても、全く使い物にならなければ術者を交代させられてしまうばかりか「あいつはまだまだ駄目だ」という評価を付けられ、次のチャンスが回ってくるのはしばらく先…ということになりかねません。

急に術者が回ってきたので…」という言い訳は通じないのです。

 

逆にそこでしっかりと期待されたパフォーマンスが発揮できれば、また同じ場面が来た時により信頼をもって任されますし、よりレベルの高いことにも挑戦させてもらえるという好循環が生まれます。

 

要するに、普段からの準備・心構え次第で、いざ術者を任されたときに結果を出せるか出せないかが決まってくる訳です。

 

今回はそういったチャンスをモノにしていくために、「いずれ術者となることを踏まえた上で普段から何を意識すべきか」ということを考えてみます。

 

 

 ① 術野の外で練習できることは練習しておく

特に最初は「糸結び」と「縫合」です。

当たり前すぎです。外科の基本中の基本であるこの2つを疎かにしている者が手術が上手いわけありません。そして、この2つが出来ていない者に他のことをやらせようとも思われません。

練習と実際術野でやるのとでは環境が違うため、いざ術野でやってみると上手くいかないということも当然ありますが、それも反復練習が背景にあればすぐ対応できると思います。

糸結びも縫合もかなり奥が深いので、そのうちそれぞれ語ってみたいところです。

(縫合に関しては形成外科の教科書が非常に参考になります。)

 

後はマイクロ顕微鏡下の操作について。

これも絶対的に慣れが必要です。練習用のものがあれば(大学の医局には大抵あると思いますが…)積極的にガーゼを縫ってみたり人工血管を縫合してみたりと練習しましょう。私は自分の練習用卓上顕微鏡を持っています。

術中に術者のポジションで操作できるチャンスがあれば積極的に色々やってみて感覚を掴むと良いと思います。(もちろん危険なことはしないように。)

意外と盲点となるのが顕微鏡のフットスイッチです。どこに何のスイッチがあるのか直ぐにイメージ出来ますか?出来ないようであれば直ぐにフットスイッチを確認してどこを踏むとどういう挙動をするのかイメージトレーニングをしておきましょう。これも術野の外で出来ますよね。

 

 

② 助手をしながら道具の使い方に習熟する

特に大事なのは脳外科手術の肝、「吸引管」です。

助手をしながら、「正しい持ち方」「親指での吸引力の調整」を常に意識します。これは一朝一夕には出来ません。自転車の練習と同じで、とにかく正しい使い方を意識することを常に心掛けることで、徐々に意識せずとも適切に使えるようになります。小脳による学習ですね。

吸引管もかなり奥が深いのですが、ポイントは「原則親指、人差し指、中指の3本で、それぞれの指を伸ばし気味にして支える(指を丸めない)」「力は出来る限り抜く(最初は力が入りがちで疲れる)」「術野に出し入れする時は吸引しない」などです。

絶対いきなり完璧には出来ません。助手をしながらこっそり練習しましょう。

 

 

③ 上手い術者をよく見て良いところを盗む

手術が出来るようになる一番の近道は上手い人の真似をすることです。

自己流やオリジナリティを発揮するのは専門医になってからでいいと思います。若手のうちはどんどん師事する上級医が変わると思うので、その都度その先生の上手い部分の真似をしましょう。

理解できない部分があれば積極的に質問すべきです。(「なぜそうするのか」「どうしてこうしないのか」など。) 経験を積んだ先生であればそれぞれ手術哲学があると思うので、表面上だけでなく原理のような部分から理解するようにすると応用が効きます。

細かいところでは体位の取り方や術者自身の姿勢、道具の選択なども参考になるところです。

今は良い時代になったもので、You tubeに手術動画・手術解説動画が何百と転がっています。これをひたすら観るのもなかなか面白いです。徐々に上手い、そうでもないというのが分かるようになってきます。手術に関するセンスが磨かれるような気がします。

 

 

④ 予習・実践・復習をする

漫然と惰性で手術に参加するのはもったいない、ということです。

理想は

手術に関して、体位や皮切など全て自分なりにシミュレーションする → 何かテーマをもって助手をする(吸引管の持ち方を気を付ける、術者の姿勢を注意してみる、など) → 術前のシミュレーションと違った部分を術者に質問する、テーマに関して上手くいかなかった部分などを反省・考察する

といった感じでしょうか。

 

自分で言っておいてなんですが、意識が高すぎて毎回完璧にやるのはキツいと思うので、その辺は適度に調整しましょう。

どうも偉そうな口調になってしまっているのですが、私も至らない点が多々あるということは日ごろから痛いほどに自覚しています。共に日々反省しながら、あくまでも効率的に精進しましょう。

 

 

長くなったのでこの辺で。

CV穿刺のコツ

末梢点滴のライン確保が難しい場合、いつ今のラインがダメになるか…というストレスから解放してくれる頼もしい存在、それがCV(central venous、中心静脈)ラインです。

中心静脈栄養をしたい場合にも使います。(むしろこっちがメインですかね。脳外科入院患者では意識障害や嚥下障害があって経口摂取困難でも消化管は問題ないことがほとんどなので、最近の傾向からさっさと経鼻胃管を挿れて経管栄養を始めることが多く、本格的なTPNをやるケースは減っているかもしれませんね。)

 

 

大腿静脈、内頸静脈、鎖骨下静脈が主なアクセスルートで、PICC(末梢静脈挿入型中心静脈カテーテル)なんてのもあります。

 

いずれも経験がありますが(研修医時代に全部経験しておくことが大事)、どれも一長一短といった感じです。

 

鎖骨下静脈が一番見た目が良く刺された本人も違和感が少なそうで好きですが気胸、血胸(動脈穿刺)が相対的にハイリスクですし、PICCは安全ですが難しい人はとことん入らず泥沼化する印象です(そもそも太い静脈がないと厳しい)。

内頸静脈も鎖骨下動脈と同様に気胸のリスク+経動脈穿刺という割と危ない合併症もあります。が、こちらが最近は第一選択でしょうか。

 

現在の施設では大腿静脈を選択することが多いです。感染が問題となることが多いと言われる部分ですが、意外と大丈夫です。(穿刺の際の感染対策、不要な消毒をしない、汚染対策あたりが大事です。きちんとすれば他の部位と感染率に差がないという報告もあったはず。)

DVTが多いという話もあるようなので、まあどこを第一選択とするかは施設ごとの差もあるでしょう。

 

 

ということで、一番経験値があって自信がある大腿静脈穿刺を中心に語ってみます。

 

 

 

実際の手順とポイント。

(追記:最近はエコーガイド下に穿刺がデフォルトという流れだと思うので、まあ参考程度に読み流してください)

 

まず、穿刺前にエコーで確認する場合もあるかと思いますが、私は基本しません。

今の施設のエコーへのアクセスが悪いのと、なくても9割以上問題ないからです。CVの敷居が上がるところも今一つ。点滴と同じぐらいのノリで入れられるようになると非常に楽です。まあ初めのうちはprescanしておいた方が良いかもしれませんね。

(というか簡単にエコーが出来るのなら勿論すべきです。エコーガイド下などと言い出すと手技の時間も延びますし色々と厄介なので、そこに大腿静脈がちゃんと存在し、通常通りの走行をしていることさえ確認できれば十分かと思います。個人的には。)

 

体位は普通の仰臥位で、軽く脚を開きます。右利きであれば自分は患者の右側に立ちます。

開いた脚の間には枕やクッションを入れておきます。(脚が開いた状態をkeepしつつ凹みがなくなって作業しやすくなります。)

ベッドの高さを調整します。(かがんでやると段々腰が痛くなってきます。外科医は腰を大事にしましょう。)

大腿動脈を触知して一番触れる部分を探します。そこのわずかに末梢、内側が穿刺点になります。(理想はおそらくアンギオで動脈穿刺する点の指標である大腿骨頭下縁辺りです。)

ここで、穿刺点が末梢過ぎると難易度が上がります。いい場所だと思って穿刺してもなかなか当たらず、もう一度動脈を触診してみるともう少し中枢側にもっといい穿刺ポイントがあったという経験があります。

テープを貼る際に毛が邪魔になりそうであれば剃っておきます。(これも感染対策の重要なポイントかも。)

穿刺点から胸骨下端辺りまでの長さをなんとなく測っておきます。何㎝で固定するかの指標にします。(40-45cmぐらいが多い)

消毒の前にまずアルコール綿で穿刺点付近をゴシゴシ擦って物理的にキレイにします。(感染対策のポイントその2。)

その後クロルヘキシジンで消毒します。イソジンを使うならちゃんと乾くまで待ちましょう。

滅菌手袋つけて穴あきドレープ、working spaceが足りなければ追加ドレープを脚の間に置いて場を作ります。帽子、ガウンもした方が良いとは思います。

さっさと局所麻酔をします。その後でCVセットを出してworking spaceに並べて準備します。

 

準備が出来たら刺します。ポイントは、まず大腿動脈ぎりぎり内側を狙うこと。事前の触診で大腿動脈の走行を把握し、動脈には刺さらないけどすぐ近くというライン上を、大腿動脈の走行と同じ向きに45度ぐらいで穿刺していきます。

同じ向きに、というのが一つ大事なポイント。触診がしっかり出来ていないと大腿動脈に向かう方向だったり離れる方向に刺してしまうことになりますが、そうすると動脈とほぼ平行に走っているであろう静脈に点でしか当たらなくなるので自ら難易度を上げることになります。

 

また、そこそこの速さで針を進めるのもポイントかもしれません。ゆっくり過ぎると脱水気味だった場合に大腿静脈がつぶれ貫通してしまうことが多い気がします。(その場合、陰圧かけながら戻ってくれば逆血はありますが。)

 

大腿静脈は大腿動脈のすぐ近くにいる可能性が非常に高いです。これでいきなり6-7割はヒットする印象です。ダメでも少しずつ大腿動脈から内側に離して穿刺していくことで9割ぐらいヒットします。(基本的には離した穿刺点から大腿動脈ぎりぎりを狙うのではなく、再び大腿動脈に平行な方向に穿刺した方が良い。)

 

大腿静脈にヒットすると、スムーズに静脈血が引けます。抵抗なくスーッと血液が出てくる感触が大事です。ここで血液の引きがいまいちな場合はその後ガイドワイヤーも上手く進まないことが多いので穿刺し直した方が良いかもしれません。

スーッと血液が引けるポイントを確保したら、絶対に針をその位置から動かさないように左手で固定して右手でガイドワイヤーを操作します。

サーフロー式でもシリンジの後ろから入れる式でもいいですが、とにかく血液がスムーズ引けるポイントに針先がいてくれさえすれば、ガイドワイヤーは進んでいくはずです。

ガイドワイヤーを進めていて抵抗があったら引き返すこと。静脈内に入らず皮下で巻いてしまっているようであれば針の固定が甘かったと反省して止血して穿刺からやり直しです。ある程度進んだところで抵抗があるようであれば、腹壁の静脈や腎静脈に迷入している可能性があるのである程度戻してから少しねじってワイヤーの向きを変えて再度進めます。

 

後はダイレーター、CVと進めるだけ。先端が下大静脈-右心房のjunction辺りに位置するのを目標にします。

CVから抵抗なく逆血があることを確認します。(いまいちな時は変な静脈に迷入している可能性があります。)

 

私は普段、ひとまずその場では固定せずに道具をCVセットが入っていたトレーに避難させ、一旦術野とCVを穴あきドレープで清潔のまま包んでポータブルのレントゲンを撮ります。その後ドレープを開き先端位置を調整して固定しています。

 

 

右でどうしてもダメなら左を刺しましょう。それで大体上手くいきます。

 

 

 

他、部位別のコツ

 

・内頸静脈

十分に頭部を回旋し、胸鎖乳突筋が胸骨と鎖骨に分かれる分岐部の辺りから同側の乳頭に向かって穿刺。内頚動脈は予め走行を確認し刺さないようにする。動脈を押さえながらだと内頸静脈がつぶれてしまい難しいこともある。

針は陰圧をかけながらゆっくり進め、万が一胸腔に入ってしまいairが引けるようなことがあれば絶対にそれ以上進めない。(肺を穿刺しないようにするため。鎖骨下も同様。)

 

・鎖骨下静脈

鎖骨外側よりのすぐ下、仰臥位になって一番凹んでいる部分から胸鎖切痕に向けて穿刺。鎖骨下縁ぎりぎりを通るようにする。下縁に当てて進めると針が尾側に曲がり気胸になる恐れがあるので(本当か分からないがそう習った)、あくまで鎖骨には当たらないぎりぎりをまっすぐ穿刺するイメージ。

 

・PICC

太目の静脈を選びなるべく貫かないようにして1回で成功させる。そもそも静脈が細くて無理な人も。

経験則として、局所麻酔は最初はしない方が良いです。静脈が触れづらくなって結局穿刺回数が増えたりしてトータルで痛い思いをさせることになる気がしています。ガイドワイヤーまで入ったらそこで初めて穿刺点周りに局所麻酔してダイレーションに移るのが良さそうです。(個人の感想です)

 

 

積極的に穿刺して早く慣れましょう。

気軽にCVを入れられるようになると病棟のストレスがひとつ減りますよ。

慣れれば準備含めて10分ぐらいで入ります。(位置確認して固定まで入れるとさすがにもう少しかかります)

 

ではでは。