脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

正常圧水頭症1

未だ触れていなかった特発性正常圧水頭症iNPH:idiopathic normal pressure hydrocephalus)について。

 

 

最近知名度が上がり、紹介で外来に来ることも多くなった特発性正常圧水頭症

意外と病態は分かっていないことが多いです。(脳脊髄液循環がそもそもはっきりとは分かっていないので。)

 

以下に挙げる、いわゆる水頭症の3徴が有名です。

 

①歩行障害

「最近だんだん歩きにくくなってきた」というのが主訴になることが多いです。典型的には、椅子から立ち上がるのが上手くいかず(立ち上がろうとして勢いをつけるも足りずにまた後ろに座ってしまう)、立った姿勢は脚がwide baseで、両脚共に小刻みに出しながらの歩行になります。また、方向転換もスムーズにいきません。

パーキンソニズムを呈する疾患や腰からくる歩行障害との鑑別が問題になります。

 

②尿失禁

切迫性尿失禁(尿意を感じるとトイレまで間に合わず直ぐに漏らしてしまう)が見られます。男性だと前立腺肥大症で頻尿+歩行障害でトイレに間に合わない、というパターンとの鑑別が難しいことがあります。さらに進行すると尿意まで感じずに失禁するようになります。

 

認知症

記銘力は保たれることが多く、どちらかというと前頭葉障害が見られます。ぼんやりして発動性が低下するようなイメージです。目がとろんとした感じになり、数を見るとなんとなく目つきで分かるようになってきます。(逆に、シャント手術後に家族が「目つきが良くなった」と言うことが多い)

進行すると食事も摂れなくなり、無為状態になります。

 

 

きれいに3徴揃うことはさほど多くないです。この中のいくつか(歩行障害はあって欲しい)+以下の画像所見があると、iNPHが疑わしいということになります。

 

・側脳室の拡大

・シルビウス裂の開大

・高位円蓋部の脳溝狭小化

・不均等な脳溝の拡大

 

上から3つが揃った脳を冠状断でみると、側脳室体部の断面が通常よりも縦に切れ上がったように見えます。(iNPHの特徴的な画像)

 

 

症状や画像所見でiNPH疑いを引っ掛けたら、基本的にはtap test(腰から髄液を30-40ml抜く)を行います。ついでに髄圧、髄液所見とQueckenstedt test(不要?)を見ておきます。

 

反応が良い人だと髄液をある程度抜いた時点で「頭がすっきりしてきた」「頭の中のもやが晴れた」という訴えがあったりします。

後は、直後からスムーズに起き上がれるようになったり、すいすい歩けるようになったり、受け答えがしっかりするようになったり。そこまでの反応がなくても自覚症状が改善していたり、家族から見て何か改善点があったりすればシャント手術を検討します。(客観的な指標としてはHDS-R、MMSE、TUG testなどが用いられますが、一番大事なのは自覚症状ではないかと思います。)

 

tap testは偽陰性も多いので、明らかにiNPH疑いであってtap testで陰性(改善なし)だった場合はspinal drainageをして反応をみる、ということもします。これでも改善がなければ別の疾患を疑った方が良いかもしれません。

 

 

iNPHは知名度が上がってきたとは言えもちろん未だ見逃されていることも多いです。

比較的簡単なシャント手術で明らかにADLが改善する人がいるので、きちんとpick upして手術を勧めたいところです。

 

 

次回の手術編へ。