前頭洞の処理
basal interhemispheric approachなどで解放されることがある前頭洞ですが、うまく処理しないとその後に髄膜炎・脳膿瘍などをきたして大変なことになることがあります。
今回はその辺りを扱ってみたいと思います。
前頭洞は副鼻腔の1つで、鼻前頭管という管を通して中鼻道に開口しています。
前提として、前頭洞内面は(というか副鼻腔全部)粘膜で裏打ちされており、粘膜は粘液を産生しています。
通常副鼻腔内は無菌で、粘液は中鼻道に排出されることになりますが、何らかの原因で鼻前頭管(比較的細くて長いので詰まりやすい)が閉塞すると、粘液がたまり、嚢胞ができ、そこに感染が成立すると前頭洞炎になります。
これが頭蓋内に波及することで髄膜炎や脳炎、脳膿瘍になるわけです。
ということで、開頭手術で前頭洞が解放された場合、「排出路がなく行き場を失った粘液が硬膜付近に貯留する」という状況に陥らないように再建することに留意しないといけません。(こういう状況が作られてしまった場合、感染が成立し頭蓋内に波及して脳膿瘍になるのは時間の問題です)
処理方法に関して、色々と報告はあるようですが原則は上記です。
いくつか見ていきます。
① そもそも前頭洞粘膜を破らないようにする
開頭の際に前頭洞をカッターでぶった切らないように、drillingで前頭洞粘膜をしっかりとらえて前頭洞内壁から剥離し鼻前頭管の方に押し込んでおくという方法です。(押し込んでおくのは手術の邪魔だから)
下手に押し込み過ぎて前頭道粘膜内の空間と鼻前頭管の交通がなくなってもトラブりそうなので、最終的にそうならないよう注意が必要です。
② 前頭洞粘膜を縫合して閉鎖する
個人的にはこれが良いような気がしていますが、あまり前頭洞は気にせず開頭し、その上で切れた粘膜を内壁から剥離して縫合する方法です。縫合する際、おそらく粘膜面は内反させて内側(前頭洞粘膜側)にいれた方が良いでしょう。①との違いは、この場合粘膜が千切れていることに加えて既に必要な開頭は終わっているので、粘膜を縫合したらもうapproachの邪魔にならないはずだということです。
骨弁側に付着している千切れた粘膜は、骨を戻す前に忘れず除去しましょう。
①も②も、死腔をなくす意味で、閉頭時に骨弁側の前頭洞内に骨くずもしくは脂肪を詰めておくのは有用かと思われます。
または、前頭洞内板を削除して頭蓋内化してしまうとか。まあそれでも硬膜との間に隙間は出来てしまうのでやはり何か入れておきたいところですかね。(粘膜がしっかり閉鎖されている前提で、ですが)
③ 有茎骨膜弁で覆う
これも良くやる方法かと思いますが、粘膜処理が中途半端ではいけません。
この場合、逆に粘膜は剥離しない方が良いかと思います。つまり、②と同様にカッターで前頭洞を粘膜ごと切断し、その断端を有茎骨膜弁で覆って固定します。
粘膜を剥がしたくなるような気がしますが、鼻前頭管はintactなので粘液排出路は確保されていますし、骨膜弁がある程度前頭洞断端に圧着していればその前頭洞面に粘膜がはって、生理的な状態に近い状況で前頭洞化すると考えられます。
あと、細かいことですが、開頭時の骨くずで鼻前頭管を閉塞しないよう注意が必要です。
もちろん骨弁側の粘膜は除去し、そこの空間に骨くずを詰めておいて骨膜弁を圧着させる形で骨弁を固定すると良いようです。
④ 前頭洞粘膜を剥離、凝固退縮させた上で人工骨で閉鎖する(2019/11/26 追記)
最近これもありかなと思っている方法です。
前頭洞を気にせず開頭した後、前頭洞粘膜を剥がして鼻前頭管の方に押し込み凝固した上、セラペーストなどの人工骨を残った前頭洞に詰めて閉鎖する方法です。大きな死腔が出来ない点でいい方法かと思いますが、人工骨で鼻腔と頭蓋内を完全に遮断する必要があり、そこだけ注意が必要です。
ペースト状の人工骨を詰めたうえで押さえて固まるまで待った方が良いかと思います。(粘膜からのoozingなどがあると、人工骨の脇に通り道が出来てしまい、そこから最終的に脳膿瘍を来した症例を見たことがあります)
ちなみに、もちろん骨弁側の前頭洞粘膜はしっかり剥がして除去しておく必要があります。その骨弁側の前頭洞部は小さいですが、死腔になるので前述の通りフィブリンで固めた骨くずを入れるか、脂肪を入れるかして埋めておく方がいいでしょう。
こんなところでしょうか。
中途半端に千切れた粘膜を剥離して処理がいまいちなままに(中途半端に押し込んで凝固だけするとか)人工物で中途半端に閉鎖するようなことをすると、後で感染が起きます。これは間違いありません。
上記の方法はいずれも実際に経験したり報告がある方法ですが、状況によってもベストな方法は変わってくるでしょう。原則の部分を外さなければおそらく問題はないのだと思いますけどね。