脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

脳外科医になるべきか迷っている君へ

 

先日コメントを頂き、その内容がいかにも以前の自分の悩みと重なったので、同じようなことで悩んでいる人は多いのかな?と思い1本記事にすることにしました。

 

そのコメントは要約すると

脳外科に興味はあるけど、勤務きつそうだし本当にやっていけるのか自信がない…選んだら後悔するのではないか?

という内容でした。(多少ニュアンスは違うと思いますが)

 

 

かくいう私も研修医2年目まで脳外科か形成外科でかなり迷っていました。

もともと脳に興味があって脳科学の本も良く読んでいたのと(V.S.ラマチャンドラン、池谷裕二のお二方の著書はほぼ読んでます)、どちらかと言うと器用で細かい作業が割に得意な方だったので6年生の頃から脳外科が良いかなとは思っていたものの、「緊急手術が多い」「手術時間が長い」点で果たしてやっていけるのか?という懸念がありました。

 

当時の脳外科に対しては、夜中に呼び出されて緊急でクリッピングをやってたり、AVMで10時間以上(長ければ日付変わるぐらいまで)手術をしていたり、とにかくきついというイメージが強く、そういった環境に適応出来るのかということに関しては全く自信がありませんでした。

 

他にも、同じぐらい「プライベートな時間がほぼ無くなるのではないか」ということを気にしていました。比較的趣味は多い方だったので、休日や夜中に呼び出されるような生活ではそういった趣味の充実などといった余裕のある生活とは縁を切らないといけないのではないか?そんな仕事人間じゃないしそうはなりたくないよなぁ…と思っていました。

 

そんな中、取るのではなく創り上げる外科、歴史は浅いが今後活躍の場が広がりそうな形成外科が魅力的に見えてきました。

当時重篤な疾患に対して積極的に手術適応を拡大して手術をしている科があって、術後の経過があまり芳しくない様子などを実習で見ていると、これは本当に患者にとって良いことしてるのかな…と思ってしまうようなこともありました。その点、形成外科は少なくともQOLを上げることに尽力していて、そこも良いように思えました。もちろん忙しいことはあっても、脳外科に比べればプライベートも保障されそうでした笑 一方で、市中病院の形成外科だとあまりやりがいが無いように思えました(個人的な見解です、大いに反論はあるかと思います)

 

 

結局初期研修期間中に両方とも回ってみて、それで判断することにしました。

 

実際回ってみた結果、

・脳外科の方が生死に関わる場面が多く、ストレスも多いがその分やりがいは大きい

忙しい時期は確かに忙しいが常に忙しい訳ではない

・やはり脳は面白い(自分の本来の興味はやっぱり脳)

・医局の雰囲気が良かった

・同期が多そう(当時)

などから総合的に判断して脳外科に決めました。

 

私はかなり色々情報を集めてから多角的にみて判断を下すタイプなのですが、学生時代から絶対脳外科!と決めている同期がいたり、ノリで脳外科に入ることを決めた同期もいたりで人それぞれですね。そんなに考えすぎなくて良かったのかもとも思いました。

 

 

とにかく勤務がきつ過ぎるのでは…ということを懸念しながら決めた進路ですが、結果的にそこまできつくはありません。(特に過労死することもなく生きてます笑)

 

病院の規模にもよりますが、市中病院では基本緊急手術がメインになるので、来れば忙しいし来なければ本当に暇、という感じになります。

人数が少なくて365日 on call(呼び出しがあれば直ぐ病院にかけつける)という病院もあるかと思いますが、用事があるときは他の人にカバーをお願いしたり、助け合いの精神があればとりあえず何とかなるようになります。

大学病院は診療業務以外の様々な業務があってまた忙しいですが…まあそれは他の科も同じでしょう。市中病院に比べて多彩な手術を行っていますし、逆に人が多い分、offの時は完全にoff(呼び出しもなし)といった利点もあります。

当直は病院によって回数がかなり異なります。他科と比較して脳卒中当直などある分、全体としては多めかと思いますが次第に慣れます。その分給料が他科より高いことが多いです。内科の当直と比べれば寝られる当直の割合は多いかと思います。(関係ないですが「寝られる当直」という単語の存在、医療界の闇ですね)

 

それと、手術時間は全体的な傾向として短くなってきています。手術の方法や技術、血管内治療や放射線治療、サポート機器の進歩もあって、学生時代を思い返しても当時時々あった日付をまたぐような長い手術は滅多に経験しなくなってきています。

 

 

興味があるなら「きつそうだから」という理由で脳外科を避けてしまうのは勿体ないです。「夜中に電話がかかってくるなんてあり得ない、極力当直もしたくない、17時には帰りたい、毎週旅行がしたい」というぐらい仕事よりもプライベート命!ということであれば、それはそういう働き方がしやすい科を選んだ方が良いと思います。

 

 

多少の覚悟は必要ですし、たまに寝不足が続くと辛いと思うこともなくはないですが、仕事量には必ず波があります。忙しい時期はそんなに延々とは続きません。

 

 

それよりなにより、手術が楽しい。これが一番だと思います。

初めはその楽しさが深くは分からないと思いますが、徐々に自分の出来ることが増え、背景となる知識が積み重なってくると、人の手術を見ていても楽しめるようになってきます。上の先生に言われた通り手を動かすだけではなく、手術の計画から実践まで自分で完遂出来るようになって、それが上手くいくと、その達成感は何事にも代えがたいものがあります。

 

学生の頃、麻酔科の実習だったかと思いますが、夜帰ろうとした時に手術室になだれ込んでくる脳外科の医者たちを見て、正直うわぁ…と引いたりもしましたが、実際逆の立場になってみて分かるのは、本人としては「やるぞ!」という意気込みが強いということです。どういう体位、アプローチで、どう手術を完遂させるか、そういったことを考えています。少なくとも私はまだまだ手術をやりたい盛りなので、緊急手術大歓迎です。

(これでも入局当初は緊急手術は嫌いだと思っていたので、人は環境で変わるものです)

 

 

迷っているようであれば、研修で回ってみたり、見学に行って話を聞いたりするのが良いのではないでしょうか。判断材料を増やせばなんとなく見えてくるものもあるかもしれません。

 

最後に、本当にきつかったら辞めれば良いのです。途中で専門を変えたりなんてよくありますし、なんなら(脳外科に限らず)医者をやめて保険会社や製薬会社で勤務している人もいますよ。

 

以上、後期研修医の立場からにはなりますが…

参考になれば幸いです。