脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

けいれん発作

 脳外科の救急外来をやっていると頭痛や麻痺の患者ももちろん来るのですが、意外と多いのがけいれん発作が主訴の患者です。

 

けいれんの主な原因の1つであるてんかんは若年者と高齢者に多く、特に高齢化に伴い、けいれんで運ばれてくる高齢者が増えている印象です。

脳外科の病棟でもけいれんの対応で呼ばれることは多々あるかと思います。

 

 

ここでは救急外来にけいれんが主訴の患者が運ばれてきた場面を想定して考えてみましょう。

 

 

まず問題になるのが、失神との鑑別です。

 

「けいれんして倒れ、その後周囲の人の呼びかけに応答がなかったため救急要請。救急隊到着時は既に意識レベルは改善している」といった感じの病歴で、来院した時点では意識清明であり、けいれんの際に立位だったり座っていたりすると俄然失神が疑わしくなります。排尿後、飲酒後、心疾患の既往などもポイントです。心電図異常などあれば循環器のDrにコンサルトします。

致命的になり得る不整脈や消化管出血による血管内volume低下などなど、重篤な要因がなければ基本的には帰してOK。

失神発作には前兆があることが多いと思うので、今後すーっと血の気が引く感じがした際などはすぐ横になるよう指導します。立位や座位のままでいると全脳が一過性に虚血となり、けいれんが起きます。逆に言えば、迷走神経反射などで倒れかかっている人を無理に倒れないように支えてしまうと良くないということですね。

 

 

来院時にもけいれん発作や意識障害が持続したり、共同偏視があるような場合は失神以外の原因を疑います。

(ちなみに、偏視は病側の対側向きです。出血や梗塞で病側を向くのとは逆になります。病側とは何かという話になりますが、焦点があって発作の首座となっている側という考えで良いかと思います。例えば左が焦点で発作が起きた場合、けいれんは右上下肢から始まったり右上下肢優位であったりし、失語もみられたりします。共同偏視は右向きであることが多いです。)

 

けいれんが持続している際は気道確保してVital確認したのちひとまずジアゼパム10㎎(適宜増減)を静注します。大抵はこれで止まります。場合によっては直後から覚醒し会話可能となることもあります。(そのまま寝てしまうこともあります。)

時々呼吸抑制が来るので、呼吸状態とSpO2は気にしておきます。少しSpO2が低下したとしても直ぐ戻ってくることがほとんどです。万が一呼吸が止まったとしても少しアンビューで押していれば戻ってきます。(静注直後が一番血中濃度が高く、次第に低下して覚醒してくるイメージ)

 

けいれん発作といっても持続性のものは臨床上は大きく分けて3種類あります。

全身に力が入った状態になる強直発作(この際呼吸も停止するためSpO2は低下しチアノーゼになり、見た目重篤感があります)、いわゆるガクガク全身を震わせるような間代発作、両者が混ざった強直・間代発作です。(泡を吹くのは強直時に分泌亢進もあって溜まった唾液を吐く間代期ですね。)

いずれにしても脳全体に異常な電気が広がっていることの表れ(全般発作)なので、ジアゼパムなどで抑制してあげればいいわけです。

 

 

平行して、採血で電解質異常などけいれんの原因となるものを探ります。

意外と多いのが低Na血症によるけいれんです。特に精神科疾患の既往がある患者の水中毒による低Naが多い印象です。この場合ジアゼパム静注後も意識の戻りが悪く、難治性で不穏な感じになります。(入院させてゆっくり低Naを補正すると比較的速やかに意識は回復します)

 

 

また、けいれんが落ち着いたら頭部CTで器質的な疾患も探っておきます。まれにけいれん発症のSAHなどもいるので…。

陳旧性の病変や腫瘍を疑うような影があれば症候性てんかん(器質的な異常があり、そこが焦点となって起こるてんかん)の可能性が高くなります。(正確には発作を慢性的に繰り返さないとてんかんの定義は満たしません。)画像上異常がなくても脳炎の既往なども症候性てんかんを疑う要因となります。

ちなみに、脳出血脳梗塞後、およそ1-2年前後で初発のてんかん発作が起きることが多いという印象です。

 

 

そうこうしているうちに意識レベルが改善し、清明となったら病状を説明して再発に関する注意点を説明し、帰宅にします。(施設により方針は異なるかと思います。)

 

 

特発性てんかん発作の可能性が高く初発であれば基本的には抗てんかん薬は処方しませんが、2度目以降の発作であったり症候性であったりした場合(今後も繰り返す可能性が高いと考えられた場合)は抗てんかん薬処方も検討します。

二次性全般化発作が疑われるような病歴が聴取できればカルバマゼピン少量からが第一選択になるかと思いますが、そうでなければ(必要があれば)レベチラセタムを処方することが個人的には多いです。(副作用には注意)

てんかん薬を処方した場合は副作用について説明し、極力早期にてんかんを診られる外来へ繋ぎます。

難治性である場合(抗てんかん薬を内服していても発作を繰り返す場合)はてんかん専門医に紹介すべきかと思います。

 

 

救急外来でしばらく待っても意識レベルが改善しない場合、病歴にもよりますが、入院を検討します。

けいれん重積発作が長時間続いていたことが想定された場合、意識の回復に数日かかったりします。また、けいれんは止まっていたとしても意識の戻りが悪い際には、無けいれん性てんかん重積状態(NCSE)の可能性もあるので脳波検査などもしながら追加治療を考慮します。(レベチラセタムやホスフェニトイン投与、持続鎮静など。)

 

 

おそらくけいれん発作は他科(小児科を除く)ではあまり見ないので、脳外科で診療をしていてけいれん発作を見ると初めは驚いてしまうかもしれません。

基本は前述の通りジアゼパム静注で対応になりますが、その背景として「いつでも気道確保できる」という自信は必要かと思います。本当に酷い時は挿管も必要になりますので。

何事も慣れが大事ですね。

 

 

では今回はこの辺で。

( 偽発作について言及し忘れたのでまた今度。)