正常圧水頭症2
色々あって更新が滞っております。
今回は正常圧水頭症の手術について。(普段より多少一般向け)
tap testなどにより、髄液を脳脊髄腔から逃がすことで症状が改善するという可能性が高いことが分かれば、基本的にはシャント手術を行います。
一般的な方法としてはV-Pシャント術(ventriculo-peritoneal shunt、脳室-腹腔短絡術)とL-Pシャント術(lumbar-peritoneal shunt、腰椎-腹腔短絡術)があります。
V-Aシャント術(ventriculo-atrial shunt、脳室-心房短絡術)や閉塞性水頭症に対する内視鏡による第3脳室底開窓術などもありますが、V-Aシャントは上2つに比べて一般的でないのと、ここではNPHの話をしているのでこれらは扱いません。
以前はV-Pシャントがメインでしたが、L-Pシャントが考案されてから年々施行件数が増え、現在ではL-Pシャントの方が多いようです。
どちらも「脳脊髄液を腹腔に流すルート(シャント)を作る」という発想は変わりません。ちなみに、腹腔に流れた髄液は腹膜や腸間膜やらから吸収されるので問題ありません。
皮下にトンネルを作成し、V-Pシャントでは脳室から前頭部、耳の後ろを回って側頸部、前胸部、腹部とチューブを通します。
一方L-Pシャントでは腰部脊柱管から腰椎の隙間を通り腰背部、側腹部、腹部とチューブを通します。
単なるチューブを通しただけだと髄液が流れ過ぎ、あっという間に低髄圧になってしまうので、途中にバルブを介します。
これは髄液の流れる量を圧で規定するもので、チューブと同じく皮下に埋め込みますが外から専用の磁石やデバイスで圧の調整が出来ます。術後に症状の改善具合や低髄圧症状をみながら調整します。
バルブの位置としては、V-Pシャントでは頭部皮下(burr holeから頭頂結節の間あたり)、L-Pシャントでは腰背部か側腹部に入れることが多いかと思います。
いずれも外から目立たず、日常生活に支障のない位置になっています。
よほど痩せていなければ、外から見ただけじゃ分からないようになります。
V-PシャントとL-Pシャントを比較してみましょう。
V-Pシャントのメリット
・脳室から髄液を抜くので水頭症解除効果が確実
・閉塞性水頭症でもOK
・腰椎圧迫骨折や脊柱管狭窄症など高齢者に多い腰椎疾患があっても施行可能
V-Pシャントのデメリット
・全身麻酔が必要
・シャント経路が長い(トンネル作成が少し大変)
・皮下トンネル作成時の気胸のリスク
・脳を穿刺することによるリスク
L-Pシャントのメリット
・腰椎麻酔で出来る
・シャント経路が短い
・脳を刺さなくて済む
L-Pシャントのデメリット
・腰椎疾患があると施行出来ない場合がある
・慢性硬膜下血腫が増えるというデータあり
・腰椎棘突起に挟まれてチューブ断裂の報告あり
・閉塞性水頭症には無意味
個人的にはやはり腰椎麻酔で可能でより侵襲が少ないL-Pシャント firstとし、施行出来ない・問題がある場合にV-Pシャントというのが良いような気がしています。
具体的な手術手順は施設によって相当バリエーションがあると思われるので詳細は省きます。
簡単に今の施設のstepを説明すると、
L-Pシャント
1.腰椎穿刺、lumbar tube挿入
2.腹部開創、側腹部の中継点にpasserを通しperitoneal tubeを通す
3.中継点から腰部に同じくperitoneal tubeを通す
4.腹腔側から長さを規定していき、バルブの位置を決めてtubeをそれぞれ切断、接続
5.腹部操作に移り腹腔にperitoneal tubeを入れる
V-Pシャント
1.穿頭
2.頭頂結節やや後方の中継点から腹部創までpasserを通しperitoneal tubeを通す
3.中継点から穿頭部に同じくperitoneal tubeを通す
4.腹腔側から長さを決めてバルブの位置決め、peritoneal tubeを切断して接続
5.脳室穿刺、脳室tubeとバルブをL字コネクター介して接続
6.同時に腹腔にtube入れる
まあやってることはほぼ同じですね。
シャントの手術は細かいところに後々シャント不全を引き起こすチェック項目(地雷)があって、1stepごとにそれらのリスクを全て排除していく(避けていく)イメージです。
そういった細かいことの積み重ねが成功率・完成度を高めるポイントになるかと思います。
慣れると手術時間は25-35分程度になります。
以上!
10月異動でばたばたしています。
症例は溜めずにこまめにまとめといた方が良いですよ…
ではでは。