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脳外科医の思うこと

20代脳外科レジデントによるブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

止血のコツ

 

止血は手術の流れの中で大事な要素を占めるものであり、手術は止血に始まり止血に終わると言っても過言ではありません。(多分)

 

手術の本質ではありませんが、適切な止血は視野を改善し、出血量を抑え、手術時間を縮め、合併症発生率を下げることで手術全体のqualityを上げます。

 

 

まず、適切な止血方法を選択する前に出血の内容を見極める必要があります。

つまり、以下のポイントを確認します。

 

・どこから出ているのか(出血部位が目視可能か)

血管、静脈洞、骨縁、骨表面の孔など場所に応じて対応が変わります。焼いてもいい場所なのかどうかも重要です。出血点が直ぐに目視出来るか、あるいは目視する必要があるかも考えます。(止血は出血点を確認するのが原則ですが例外もあります)

・出血源が血管であれば静脈性か動脈性か

静脈性であれば手術台の頭側を上げることで静脈圧を下げるという対応が可能ですし、焼かずに止められる可能性が高いです。

・直ぐに止める必要があるか

凝固系が破綻していなければ(血液内科的な疾患、抗凝固・抗血小板薬などの内服)、経験的に分かると思いますが、放っておけば(あるいは少し圧迫しておけば)大抵の場合出血は止まります。手術の本筋に影響がなく、自然止血が期待できそうなら止まるまで待たずに先に進むのも判断の1つです。

 

どういった種類の出血なのかが判断さえ出来れば、対処方法は大体決まっています。これは上級医の対応を見て学ぶケースが多いと思います。

 

ここではよくある出血の場面を挙げて、対処法の例(あくまで一例)を紹介していきます。

 

 

・皮膚切開時の出血

動脈性に出ていれば毛根に注意してbipolarで凝固します。STAは事前に凝固あるいは3-0絹糸などで結紮して切断が望ましいです。皮膚断端からじわじわと出るような出血は皮下の毛細血管ネットワークからの出血なので、いちいち焼くとキリがありませんのでレイニークリップで圧迫止血します。モスキートで広めに挟んで挫滅止血も可。

 

・穿頭時の出血

ドリル使用時に静脈性の出血が出てくるようであればbone waxを用意しておき、ドリルを抜くと同時にburr hole内の骨縁をメインに充填します。burr hole直下のMMAからの出血であればbipolarで焼きますが、硬膜外からの出血のことも多いのでその際はとりあえずbone waxで蓋をしておきましょう。よくある出血ですが、開頭しないと根本的な止血は無理なので圧迫しておき先に進むパターンですね。

 

・開頭時の出血

大体がsphenoid ridgeの骨縁からか、ちぎれたMMAからの出血なので、bone waxとbipolarで対処します。ついでに硬膜上の出血も素早く焼いときましょう。

周囲の骨縁もcheckして出血があればbone waxを塗り込み(超高齢者では海綿骨がスカスカになるからなのか、骨縁から驚くほど出血することがあります)、硬膜外からの出血は短冊状に切って薄くしたゼルフォームを詰めておきます(出血点確認できないパターン)。

ゼルフォームだけで止まらない場合は硬膜に糸をかけて先に重し(コッヘルなど)を付けて硬膜をやや持ち上げておくなどします(圧迫止血)。bone waxでpackしておいてもいいかもしれません。そのうち勝手に止まってます。骨縁に穴を開けて、ゼルフォームを挟んだ上で全周性に吊り上げておくと間違いなく止まります。

 

・頭蓋底方向、硬膜外腔からの出血

止めにくくて問題になるやつです。とりあえずセルシートなど突っ込んで圧迫しておき(硬膜を必要以上に剥がさないように気を付ける)、上記の止血を確認します(周囲からの垂れ込みもあるとより止血が難しいため。この辺は助手と分担してやる)。sphenoid ridge周囲の骨削除をさっさと進め、この時点で硬膜やMMAからの出血点が確認できれば焼きます。骨からの出血が多いパターンではbone waxを上手く詰めながら骨削除を進めます。水と吸引で視野を確保しながら手早く進めるのが大事です。

 

・硬膜切開時の出血

硬膜断端からの出血はbipolarで硬膜を挟むようにして焼きます。焼き縮め過ぎると後で縫合しにくくなるので必要十分に。

 

・脳表からの出血

あってはならないことですが、開頭時や術中に挫傷を作ってしまった場合など。極力焼きたくないので、(フィブリン糊付き)サージセル → セルシート被せて吸引しながら圧迫します。圧迫で止まっていれば、5-10分も押さえておけば止血されてその後は圧迫を解除しても問題ないことが多いです。その5-10分も勿体ないので助手に頼んでおいたり脳ベラで押さえて術者は先に進みましょう。

フィブリン糊付きサージセルフィブリラボール(通称のりたま)を使うとすぐ止まるので時間が節約できます。

 

・シルビウス裂内の静脈損傷による出血

これも出来る限り避けたいところです。ちぎれてしまっていれば周囲を巻き込まないように気を付けながら焼くしかないですが、表面を傷つけたぐらいなら脳表と同じ対応でOK。

 

動脈瘤からのpremature rupture

何度か経験がありますが精神力が削られます。出血が湧いてくる方向を太めの吸引管で吸引しながら(あるいは大きめのセルシートを入れて吸引しながら)視野を確保して、何とか母血管・動脈瘤まで辿りつきましょう。

A-comで対側のA1確保が難しい状態でのruptureなど根本解決が難しい状況もあるかと思いますが、そういう時は出血の方向にセルシートを詰めて吸引しながら圧迫し、じっと待つ(10分とか)と止まります。

アンギオで動脈に大穴を開けても圧迫すれば止まることを考えれば、細い脳血管からの出血ぐらい圧迫で止められることは理解できるかと思います。ruptureの瞬間はマイクロの視野が赤に染まるのでうんざりしますが…

 

 ・血腫除去後の血腫腔内壁からの出血

 水とセルシートで視野を良くして出血か所を探り、血管であれば基本的には焼きます。壁から出ているように見える場合は少し壁を吸うと出血点が明らかになる場合もありますが、もちろん脳保護の観点からは望ましくないのでフィブリン糊付きサージセルなどに頼ることになります。

 

・静脈洞からの出血

多量に湧き出て焦るやつです。焼いても原理上絶対に止まらないので、大きめのゼルフォームを蓋をするように当てて頭部を挙上し圧迫しておきます。先に頭を上げ過ぎると空気塞栓を理論上は起こすので注意。圧迫して穴を塞いでからならばある程度上げても安心です。

 

 

また思いついたら追記します。