脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

マイクロ顕微鏡と一眼レフカメラ

去年あたりのStrokeでも聞いた話なので完全なオリジナルネタではないのですが…

 

 

自分の趣味の一つにデジタル一眼レフカメラがあります。

 

ズームレンズであれば焦点距離を調整して画角を変え、対象にピントを合わせるわけですが、この辺はマイクロ顕微鏡も原理は同じです。

 

なので、一眼レフカメラをある程度かじっている人ならば分かると思いますが、「絞り」と「被写界深度」の関係の話がマイクロ顕微鏡にも当てはまるのです。 

 

 

簡単に解説してみます。

 

 

絞りは眼(センサー)に届く光の量をコントロールしたり解像度に影響を与える機構です。絞り値(fで表現)が小さいほど絞りは開放されてそこを通過する光量が多いことを意味し、絞り値が大きいほど相対的に光量が少ないことを意味します。

マイクロ顕微鏡を覗いてみたら視野が六角形に狭くなっていた、という経験があるかと思いますが、あれが絞りです。羽の枚数によって六角形だったり七角形だったりします。

 

ここで注目したいのは、光量ではなく「被写界深度」です。被写界深度とは、ピントが合って見える深さの幅のことを言います。

 

あるレンズの組み合わせによる焦点距離は1つの値に決まるので、厳密には焦点が合っている深さというのはある一定の値しかないのですが、その前後にピントが合って「見える」範囲というものが存在します。(厳密には合ってないけど肉眼的には合って見えるよね、という深さの範囲ことです。例えば焦点距離240mmに対して230-250mmはピントが合ってくっきり見えるとか。)

 

 

被写界深度が浅い場合、術野で少し奥に行ったり手前に戻ったりすると直ぐにピントが合わなくなるため、ピント調整の回数が増えます。

被写界深度が深い場合、術野で少し奥に行ったり手前に戻ったりするぐらいでは被写界深度内であるため、ピント調整の手間がある程度省けます。

特に動脈瘤本体の処置など、動脈瘤全体にピントが合っていると操作がしやすいことが多いかと思います。

 

 

つまり、マイクロ顕微鏡下での手術では、出来る限り無理のない範囲で深い被写界深度の設定にした方が手術がしやすいと考えられます。

 

 

この被写界深度と絞り値、焦点距離、対象との距離には次のような関係があります。(物理の問題。)

レンズの絞り値が大きくなるほど(絞るほど)被写界深度は深くなり、小さくなるほど(絞りを開くほど)被写界深度は浅くなる

レンズの焦点距離短くなるほど被写界深度は深くなり、長くなるほど被写界深度は浅くなる

対象と顕微鏡の間の距離が長くなるほど被写界深度は深くなり、短くなるほど被写界深度は浅くなる

 

 

焦点距離、対象との距離は体位や姿勢である程度決まってしまうため、結論としてはこうなります。

 

被写界深度を深くしたければ絞りを絞れば良い!

 

 

ちなみに絞るメリットはもう少しあって、光量が減るため術野の脳が乾燥して干からびることを少し防げます。

あと、開放よりもある程度絞った方が解像度が良くなります。(…が、肉眼では全く分からないレベルでしょう。)

 

 

なので、最初の設定の時点で、視野が狭くなりすぎない程度になるべく絞るようにしましょう。

深部を拡大してみているような時は、暗くなりすぎない程度にさらに絞ると少し手術がやり易いのではないかと思います。お試しあれ。

 

 

※初めこの話を聞いたときは良いことを聞いたと思ったのですが、術野で試してみると意外と被写界深度変わりません笑 まあ、知らないよりは良いかなというレベルの、あくまでおまけ程度の効果ですね。