脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

血腫除去術1 皮質下出血

市中病院にいると多く経験することになる手術の一つ、脳内出血に対する開頭血腫除去術。(他は慢性硬膜下血腫に対する穿頭血腫洗浄ドレナージ術、水頭症に対するL-PもしくはV-Pシャント術あたりがtop3でしょうか。)

 

特に皮質下出血はapproachも(被殻出血に比べると)お手軽で、若手に回ってきやすい症例です。

慢性硬膜下血腫、水頭症の手術に比べて実際に脳に触れることになるので、脳外科の手術をやっている感が強く、血腫除去が出来るようになると脳外科医として一歩成長した気がして嬉しかったのを覚えています。

脳の実際の感触や脳ベラでの脳の引き方、吸引の使い方、セルシートの扱いなどに習熟するかなり良い訓練にもなります。

 

 

疾患の話や手術適応の話は省いて、手術の話をしてみます。

 

 

まず麻酔に関してですが、意識レベルが良ければ全身麻酔、悪ければ軽い鎮痛・鎮静と局所麻酔のみでやってしまうこともあります。(意外と問題ありません。)

 

小開頭でできますので、皮切は原則血腫の直上にlinear skin incisionです。一番単純かつ低侵襲で早いので。

 

位置の決め方ですが、O-M lineからの距離(CTでO-M lineのスライスから血腫の下端、上端までそれぞれ何㎝か計算する)で高さを決め、正中矢状線からの角度や頭頂結節・耳介との関係で前後を決めます。

具体的には、まず正中矢状線をマーキングし、O-M lineからの高さを測って下端と上端をマーキングし、頭頂方向から眺めて血腫の位置を決め(正中矢状線と135度の角度を成す直線状にある等)、頭頂結節や耳介との位置関係から大きく間違っていないことを確認し、そこにhair line内に入る上下方向7㎝ぐらいの皮切をおきます。

細かい話ですが、O-M lineからの高さはあくまで頭尾方向の「高さ」なので、O-M lineから「皮膚に沿った距離」とは異なります。(伝わるかな…)

 

体位は血腫(皮切)の位置、首の回りやすさによって仰臥位か側臥位にします。頭頂結節より後ろであれば側臥位にしますが、真横ぐらいまでなら仰臥位+肩枕で何とか行けます。

上体を15度ぐらい上げた状態で頭部を回旋して血腫が一番高いところに来るようにし(横になっていると脳が落ちてきて血腫腔がつぶれてやりにくくなる)、気持ちvertex downして血腫の底まで見通せるイメージにしておきます。全身麻酔であれば3点ピン固定(馬蹄でもOK)、局所麻酔では馬蹄形ヘッドレストに固定します。

術中ベッドをローテーションしまくるので、体がずれないよう固定しておきます。

 

 

消毒、ドレーピングをして局所麻酔をしたら骨膜まで一気に切開してラスパトリウムで骨膜を剥離して開創器をかけます。慢性硬膜下血腫と要領は一緒です。

 

皮切の上端と下端にburr holeを穿ち、2つの孔をカッターでつなげて楕円形の骨窓を設けます。

 

ここでエコーを当てて血腫の位置を再確認します。ここで骨窓が大きくずれていたことはないですが、例えば少し後ろに開けてしまった場合は骨窓を前に拡大する可能性を考慮して硬膜は前方を基部としてコの字状に切開します。

 

脳表が出たら再度エコーを当てて血腫を確認し、脳表の血管をなるべく避けてcorticotomyをおける場所を探します。

血腫が脳表まで来ている場合は、深く考えず一番浅いところからのapproachで良いかと思いますが、若干深い場合は一応皮質の機能温存のことも考えて入る部位を決めます。(この時点で考えることではなくて、皮切、開頭の前から決めておくことですね)

 

尖刃である程度深めにcorticotomyをおきます。脳ベラで切開部を開きつつ血腫の方向に進んで血腫に到達します。

 

吸引管を太目のものにしてまずある程度内減圧します。その後は前壁・後壁・上壁・下壁ぐらいに分けて血腫を壁から剥がしていきます。脳ベラ(先が丸まっているやつ)が大事です。脳ベラを適宜動かして血腫と脳実質の境界に入れ、血腫を掘り起こすようにしながら2本の吸引管で交互に引っ張り出すとズルズル血腫が出てくるはずです。

助手とのコンビネーションが重要です(助手は脳ベラに専念して術者が吸引管2本というフォーメーションも有効)。

 

それぞれアプローチする壁に応じて、ベッドをローテーションさせたり上体を上げたり下げたりするのが重要です。適宜光軸もずらして奥まで見渡せるようにします。

おそらく血腫除去のキモはここです。

最初の体位が適切であればさほどベッドを回さなくても済むことが多いかと思いますが、奥に深い血腫だとローテーションは有効です。

 

浅めの血腫であればマイクロ顕微鏡は不要ですが、一応止血の段階でマイクロは入れた方がいいでしょうね。

深めで光が入りにくくブラインド操作気味になるようだと早めにマイクロを入れた方が良いと思います。

 

全周性に剥がすと大体底の部分(血腫の深さ)が自然と分かるようになります。

 

とにかく脳実質は吸わないように気を付けます。一番底となる部分が危険なので注意します。(セルシートで拭うように血腫を取ったり、血腫を薄く一層あえて残すことも。)吸いそうになってもすぐ親指を話して吸引をやめられるように吸引管を柔らかく持っておくことが大事です。

 

血管が出てきたら適宜バイポーラで焼きます。

 

全体的に血っぽくなった際には大き目のセルシートを血腫腔に突っ込み多量の水で洗浄するとまた視野が良くなります。

 

血腫を取っている途中の、血管からでない出血に関してはあまり深追いしない方がいい気がします。直ぐに止血出来ないようであれば、セルシートなど当てておき血腫を取ることを優先して全体を見渡せる状況にした方が結果として早いです。放っておいたら勝手に出血が止まっていることも多いですしね。(血まみれの大参事になることもあるのでcase by caseですよ。)

 

腔全体的に出血がないようであれば、サージセルガーゼを内腔の脳実質面にペタペタと奥から貼り戻っていきます。なお、血腫を取っていて最深部に到達した時点で、かなり深くて後で見失いそうだと思ったらさっさとサージセルガーゼを貼ってしまい二度と戻ってこないようにする手もあります。

 

ちなみに、血腫を取り終わった時点で脳がslackになっていないようであれば何かがおかしいです。血腫の取り漏れがあるか、再度奥で出血しているか…いずれにせよ中をもう一度確認する必要があります。脳実質面をセルシートで持ち上げるように拭っていると隠れていた血腫腔が出てきたということも。

 

一番きれいに取れるのは球形で一部だけ脳表に接しているような血腫であり、べたっと脳表に接しているような血腫は脳表に近い部分が硬い上に境界が曖昧で取れないことが多いので、深追いせずに残すことがあります。基本的には減圧出来ていれば良いのです。

 

後は硬膜を縫合して数か所つり上げをして骨をチタンプレートで戻し、側頭筋を切っていれば縫合した上で皮下にドレーン(基本ペンローズ)を入れて皮膚も縫合して終了です。(皮下ドレーンは別になくても大丈夫)

 

慣れると1時間もかからずに終わります。

 

 

たまには医学以外のことも書いてみようかな。

ではでは。