脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

脳症・脳炎

脳症と言われても以前はピンと来なかったのですが、何例か経験してぼんやりとはいえ頭の中にゲシュタルトが出来てきたので、自分なりの解釈を述べてみます。

まだピンと来ていない人向けに、脳症患者のイメージを頭の中に作る一助となれば幸いです。

 

脳症患者は「様子がおかしい」「話がかみ合わない」「不穏な様子」といった、症状ははっきりしないけど明らかに普段とは様子が違っておかしい、というぼんやりとした主訴で救急搬送されてくることが多いです。

 

症状の強弱はありますが、

・自発開眼はあり、もぞもぞしている(いわゆる典型的な反応が乏しくなるような意識障害とは違いそう)

・四肢の自発運動はある(麻痺はなさそう)

・会話はかみ合わないし指示も基本は入らないけど、質問にはたまに答えたり何か勝手に喋っていたりする(失語ではなさそう)

といった感じで掴みどころがないのが逆に特徴という感じです。

 

・歩行時にふらつく(でも小脳症状なし)

・構音障害(でも顔面麻痺なし)

などで歩いて来院することもあります。(MTX脳症など)

共通点は、脳梗塞脳出血)にしては何かおかしい、ということですね。

そもそも脳症は脳が全体的に障害されるのが特徴なので、巣症状は呈さないのです。

 

PRES(posterior reversible encephalopathy syndrome、後部可逆性白質脳症)のように頭痛メインのものもあります。まあこれはいわゆる脳症とは少し違うか…

 

ひとまず疑うことが出来れば、髄液検査、MRIと検査を追加できるので、脳症に関してはとにかくまず疑うこと、鑑別に挙げられることが大事です。髄液検査の結果炎症反応が確認されれば「脳炎」となります。(つまり脳症⊃脳炎。)

上記のような、なんとなくおかしい患者をみたら「脳症(脳炎)の可能性もあるかな?」と思えるようにしときましょう。

 

酷いとけいれんを起こして来ることもあり、そうなるとけいれん後の意識障害との鑑別が難しくなりますが、上記のような不穏状態が遷延したら疑う必要があります。

 

鑑別疾患も色々挙がると思いますが、その辺は今回の目的とは外れるので割愛。

意外と多いのが薬剤性脳症なので、疑ったら詳細な薬歴を聴取する必要があります。脳炎なら先行感染の有無とか。

頭部MRIではT2、FLAIRで白質にhighがみられることがあります(白質脳症)が、初期には所見がないこともあります。

治療は原因によっても異なりますが(薬剤性であれば薬剤の中止、ウイルス性脳炎であれば抗ウイルス薬投与など)、ステロイドを使うことが多いです。

 

脳症のイメージがなんとなく付いたでしょうか?

つまりは、脳症とは脳全体的な問題であり、はっきりとはしないけどでも明らかに様子がおかしいような症状を呈している人をみたら脳症も鑑別に挙げましょう、ということです。