脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

脳外科医になるとして、まず何を勉強すべきか

脳外科医を志した時から脳外科医としてのキャリアは始まります。

 

それが初期研修中なのか学生時代なのか、はたまたもっと前なのかは分かりません。が、脳外科医になる前(医師3年目になる前)から準備、つまり脳外科の勉強は始めておこうと思う人が多いでしょう。

 

では、脳外科医になると決めた時からまずは何を勉強すればいいのか?

 

それは「解剖」です。

 

解剖の知識は早めに頭に入れ始めておいて損はありません。その理由をいくつか挙げていってみます。

 

① 脳外科は解剖が特に大事な科だから

解剖と生理がどんな科においても基礎となる訳ですが、脳外科における解剖の重要性は他科と比較して特に高いと思います。とにかく画像の重要性が高く、画像だけで診断から手術適応、症状の予測など色々なことが決まります。(もちろん他の要素も関係はしますよ。)

手術に当たっては、局所局所の構造が複雑な上に壊してはいけないものが密集していますし、腹部と違ってそれぞれの構造の可動性が低いため、解剖の知識がそのまま脳外科医としての能力に反映されるというのも大きいです。

 

② 解剖は今後も変わらないから

人体とは長い進化の過程を経て出来上がった遺伝子に刻まれし由緒正しき構造なので、突然変異でも起きない限り勉強したことが無駄になることはありません。一方で疾患については、勉強しても治療法や手術適応が変わったりして一生通用する知識になるとは限りません。

もちろん基本的な疾患についての知識や治療法などの勉強も大事ですが、それは後期研修医になって主治医という立場に置かれてからでも間に合います。というか、主治医になって必要に迫られてから勉強した方が効率が良いと思います。(特に、3-4年目あたりに外病院で主治医として診療に当たると物凄い勢いで臨床能力と知識が伸びます)

 

③ 手術の理解度が上がるから

解剖が分かっていればそこに見えているものが何なのかも分かります。あるいは分からなくても予測がつきます。危ないものが裏に隠れていることが分かっていれば注意できますし、熟知した構造であれば術者のストレスも段違いに少ないです。また、解剖用語を頭に入れることでカンファレンスでほかの先生が言っていることに付いていけるようになりますし、議論に参加できます。

 

ということで、脳外科医としては一生の武器になる訳ですから、解剖の勉強はいくらやってもやりすぎということはないですし、早めに一通り修めた方が良いのです。

 

 

「解剖」と一言で言っていますが、いくつかの側面に分類することが出来ると思います。(また箇条書きですすいません)

 

① 神経解剖

構造と機能をまとめて理解する解剖です。学生の時にある程度やりますね。脳幹の神経核の位置や細かいネットワークなど、極めようとすると物凄く奥が深いです。内容がちょっと簡単すぎるかもしれませんが、「たのしく読めてすぐわかる 臨床 神経解剖 総合医学社」は良書です。余すところなくマスターすべき内容だと思うので何度も読み返してます。

 

② CT・MRIでみる解剖

日常診療で目にする脳というのは大半がCTかMRIの画像ですから、その画像が読めることは言うまでもなく必須です。出来る限り早めに読めるようになっておいた方がいいのは自明でしょう。読めるというのはそこに写っているものが何なのか、正しく理解しているということです。正常解剖を詳しく解説した教科書を一度は通読する必要があると思います。「脳MRI 1. 正常解剖 秀潤社」は網羅性が高く、次に挙げる血管も詳しく載っているのでおすすめです。

 

③ 脳血管の解剖

脳血管造影検査を読めるようになるため、また血管内治療をする際には絶対に必要な知識です。穿通枝の理解などはもちろん手術でも役立ちますし、脳梗塞の理解も深まります。静脈系も後回しにされがちですが重要です。②で紹介した「脳MRI」の他、「臨床のための脳局所解剖学 中外医学社」はシェーマが豊富でかなり分かりやすいです。英語ですが「Diagnostic Cerebral Angiography LW&W」も良書(まだ通読出来ていない…)だと思います。血管内治療のための血管解剖 外頸動脈 秀潤社も良書。

 

④ 術野の解剖

いくらCT・MRIの画像が分かるようになっても、いざ術野となると意外とどうなっているのか分からないものです。教科書だと「手術のための脳局所解剖学 中外医学社」あたりの他、動脈瘤関連の手術書が良いと思います。ただ、一番は手術を多くみて質問することですね。

 

 

①~③を早めに勉強しておき、それを手術中に実際の見え方と照らし合わせていくと理解が深まります。それぞれの解剖の知識が繋がりだすと、かなり手術が楽しくなるはずです。

頭の中に脳の3Dモデルを構築し、自由に色んな角度から眺めることができたり、ズームできたり、切断して断面が想像できるようになるのが目標ってところでしょうか。

 

それからもうひとつ、解剖用語は英語も一緒に覚えましょう。専門的なtermは日本語よりむしろ英語が大事です。

その関連で…You tubeにUPされている「The Rhoton collection」はある程度勉強した後に見るとかなり為になります。Rhoton先生はあの有名な解剖学所を書いたお偉いお方なのですが、おじいちゃんなので(失礼)話し方もゆっくりで非常に聞き取りやすいのでおススメです。

忘れてましたが、「Rhoton(南江堂)」は日本語訳も出ましたけど脳外科医必携ですね。

 

自分の中では第3脳室周囲の構造が理解できてからようやく脳の全体的な構造がつかめた感じがしたのを覚えています。あの辺はブラックボックス化しやすいですよね(多分)。

未だに三叉神経周囲の頭蓋底や頸静脈孔の周辺、側脳室下角の辺りなどは自信ありません。まあ、実際に見る機会が少ないというのもあると思いますが。

偉そうなこと言っておきながら自分も解剖まだまだです。精進します。