脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

解剖の理解や新たなapproachの習得について

まとまりのない雑記です。

 

 

頭頸部の解剖は先人たちによって詳細なところまで明らかにされており、approach法もありとあらゆる方法が考案され、少しずつ改良されることで確立されています。

バイスの進化がない限り画期的なapproach法というのはちょっと出てきそうにありません。進歩が止まっていることを嘆いている訳ではなく、かなり成熟してきているということです。

 

であれば、確立している手術法に関しては早く習得し、その先に繋げなければ、先人の教えをなぞるだけで終わってしまい脳外科手術の発展はありません。

勿論、一人の脳外科医が全てのapproachを出来るようになる必要はないとか、手技以外の面の進歩(Navigation、モニタリング、覚醒下、内視鏡など)で手術自体が改善するとか色々な側面はありますが、確立しているものは早く自分のものにしたいと思うのは普通ではないかと思います。

 

基本的には現場で上級医から教わるのだと思いますが、off the job trainingとしてどう勉強して新たなapproachを習得していけばよいでしょう?

 

 

通常は成書を読みます。例としてanterior transpetrosal approachを挙げてみますが、おそらく本を読んだだけでこのapproachが直ぐ出来る人はいないでしょう。よほど深い解剖の知識があれば書いてあることが完全に理解でき頭の中でシミュレーション出来るのかもしれませんが、かなり難しいと思われます。

そもそも、3次元(むしろ時間とともに削ったりして変化していくという意味では4次元)の情報を2次元で表そうというところに無理があります。(逆も同様で、2次元の情報から3次元的な理解を完全に得るのは困難です)

 

成書を読んだ後は動画を見たりします。特にノーカット版であればこれはかなり理解の助けになります。しかし、これも2次元の情報です。立体的に見える映像であればかなり実際に近く、非常に有用でしょうけど。

 

自由に動かせる立体モデルがあればこれが一番理解の助けになるでしょう。

ただし、簡略化されたものだとイメージを作る一助にはなっても実際の手術と直結させるにはまた少し壁があるかもしれません。頭蓋骨は割と精巧なものが多いので良いですが、削っていった時にどうなるかを想像するのはなかなか難しいです。

 

3Dプリンターはその意味でbreakthroughになるのではないかと考えています。骨に近い素材でモデルが作れれば術前に削ってシミュレーションしてみることで相当理解が深まるはずです。

血管だけなら3Dプリンターでモデルを作ることはすでに実用レベルで可能で、実際血管内治療の前にモデルを作ってカテーテルのshapingのシミュレーションを行っているところもあります。

理想を言えば、軟部組織も全て質感まで再現した上でモデルを作れる3Dプリンターがあれば最高ですね。術前にその患者と同じ構造を相手にシミュレーションできるわけですから。完全に理想論ですが…

 

後は現時点で可能なこととしてはZIOSTATION、VINCENTなどのDICOMデータから3Dデータを再構成するソフトを使用することです。これは割と自由に削ったり出来ますし、いろいろなモダリティの画像を組み合わせたりすることでかなり実際に近い状況を再現できます。実際はモニターに表示する以上2Dですが、作ったモデルを横回転のシリーズとして出力して立体視すれば一応奥行きも出ます。

 

それから、cadavorコースに参加することです。百聞は一見に如かずという言葉がありますが、実際その通りなのだと思います。

最も手術の状況に近いシミュレーションができますし、実際に自分の手を動かすことは深い理解のためには何より大事かと思います。

 

 

ということで、今苦労して色々なところから情報を集めて解剖をなんとか理解しようとしているわけですが、この辺に脳外科としての難しさ(楽しさ)があるのかなとも思います。

 

前述の通り3Dプリンターが進化して現実に近いシミュレーションが出来るようになったらあっという間に理解が深まるんだろうな、などと妄想しています。

その時はlearning curveの立ち上がりがかなり急峻になるはずで、脳外科手術という分野も大きく進歩があるかもしれませんね。

 

なにやらまとまりがない感じになってしまいました。

こちらからは以上です。 

 

clipをかける時のコツ②

 

clipをかけ終わったところから色々トラブルを想定して書いてみます。

 

・母血管あるいは分岐血管が狭窄・kinkしてみえる、分岐血管の血流が弱まっている

これは比較的起こり得る事象です。

まず、本当にclosure lineに沿ってclipがapplyできているか確認します。 というのも、closure lineに沿ったclipであれば理論的に血管に無理はかからないはずなので(動脈瘤ができる前の元の状態に戻るだけなので)kinkは起こりにくいからです。また、血管が十分にfreeになっていないことが原因ということもあるので改めて剥離を追加することも考えます。

それでも狭窄やkinkが起こる場合にはclipを母血管から少し離すような形でapplyします。(neckを引きちぎらないように…)どうしてもdomeに押されて母血管ギリギリにかかってしまう場合は、1本目をtentative clipとしてその真横にapply、その後1本目を外すという手もあります。もしくはtemporary clip、dome clipを利用するとか。

clip前後で分岐血管の流速を計測することで狭窄やkinkがないか確認する手法もあるようです。

 

・domeに血流がある

clipしたはずなのにドップラーで血流がある、もしくはICGでdomeが徐々に染まってくるという、これも割と遭遇する事態です。

dome全体をしっかり確認できていない場合では、clipがdomeと直交する方向にかかっておらず、clip先端がdome先端の方向に向いてしまい、dome clipに近い状態になってしまっていることがあります。clipの先端側、奥側でneckが閉鎖できていない状態です。IC-PCで十分横からの視野、角度が取れない場合などが考えられます。

これは何とかapproach routeを工夫して横からapplyするか、先端の曲がったclipを利用するかしかないでしょう。後者はより穿通枝などを巻き込むリスクが高くなるので注意です。

純粋に長さが足りていない場合は長めのものに変えることも必要かもしれません。

また、domeの石灰化が強い場合にclipで閉鎖し切れていないことも考えられます。ちなみに、このパターンは1)手前に石灰化が強く奥側が閉鎖できていない場合と、2)奥側の石灰化が強く手前が閉鎖できていない場合の2パターンに大きく分けられます。

この2パターンを見分けるのは難しいかもしれませんが、理論的には1)の場合は横に有窓clipをもう1本石灰化部をとばしてapplyする、2)の場合は横にclipをもう1本石灰化部の手前まで、浅めにapplyする、で閉鎖できるはずです。

本当に石灰化が強い場合には真横に同じclipをapplyしても結局変わらないと思われるのでこのようなclipが必要となります。

あるいは、ブースターclipを追加する方法があります。これなら純粋に閉鎖力をupして石灰化もつぶせるのでどこが閉じていないかなど考慮する必要は関係ありません。

 

・穿通枝を噛んでいる

すぐclipを外して穿通枝を避けながらapplyし直すしかないですね、当たり前ですが。剥離が足りなければ追加、clip時にどうしても邪魔になる場合は何か止血剤的なものを入れて構造を予め偏移させて押さえておくなどといった方法も考えられます。

 

 

他、思いついたら追記します。

 

 

clipをかける時のコツ①

 

未破裂脳動脈瘤動脈瘤性のくも膜下出血に対して行われる開頭neck clipping術は、動脈瘤にclipをかけて破裂(再破裂)予防をするという言ってしまえば単純な手術ですが、実は実際にclipをかける操作をしている時間というのは、手術全体の時間に占める割合から言うとほんの数~十数%です。

 

つまり、大事なのはclipをかけるまでに至る部分(strategyを立てる段階から)で、そこも含めてネッククリッピング術なのだということは忘れてはいけません。

…という前提を踏まえたうえで、開頭neck clippping術のクライマックスである、実際にclipをかける場面に焦点を当ててみます。

 

 

clipをかける場面に焦点を当てると言いつつ、まずは、本当にかけて良いのかをしつこく確認します。

 

 

ポイントは

・ruptureしたときに対応できるか、つまり母血管が確保できているか、temporary clipが用意されているか、太目の吸引管が用意されているか

特にSAHでは常に考慮すべきことです。

 

・approachルートや周囲の血管の剥離は十分か

無理に脳べらをかけないとclipがかからないような状態は脳に負担がかかり挫傷などの原因となり好ましくありません。clippingやその後の周囲の確認にも無理が生じます。状況に応じてよりdistalや深部を剥離したり、母血管や突っ張っている静脈をよりfreeにして可動性をもたせたりします。脳室ドレナージを置いていれば改めて髄液を抜いてみたり。

 

・domeの剥離は十分か

未破裂では原則domeは完全free、SAHでも裏が確認できない状況ではなるべくdomeを出しにいきます。母血管が確保できていることが前提ですが。

いよいよ核心(rupture point)に迫ったらtemporary clipやtentative clipを用いて一気にdomeの剥離を完遂する方法もあります。

 

・clipの種類は適切か

neckを閉じるのに必要十分な長さで、かつ温存したい血管(分岐血管、穿通枝)を残せるような形状を選びます。手術の計画の段階で目星はつけておき、現場でそれでよいことを確認します。

1本で閉じる場合、長さは原則としてneck径×π×1/2あれば足りるはずです。(domeに直交して挿入可能で、neck部の断面が真円と仮定した場合)

closure lineの原則に従って、適宜弱弯や有窓のclipを選択します。

 

 

以上が問題なければいよいよ本題、実際のapplyの瞬間です。

 

まずどちらの手でclipをかけるか決めます。applierが視野の邪魔にならない方、無理のない方にします。clipを複数個かける計画の場合はその順番も確認。温存すべき血管が確認できていればそれも意識に入れておきます。

 

次に(というか同時に)、視軸の位置を決めます。基本的に右手でapplyするのであれば視軸は左に振り、左手でapplyするのであればその逆とします。(上下もある)

動脈瘤を頂点とした錐体型のworking spaceをイメージして、脳べらの位置も調整し、その裾野をなるべく広く使うイメージです。こうすることで横から見る感じになり、clipの先端が確認しやすくなります。

上手く先端が確認できるような視軸が取れない場合(applierが視軸と被る場合)、バイオネット型のclipを使うのも手です。

 

clipの先端がきちんとproximal neckとdistal neckのspaceに入っていることを確認しながらclipを進めていきます。少し閉じてneckやdomeを圧迫しながら進めると、domeが縮んでさらに視野が良くなります。その状態でdomeを動かしたり、母血管を動かしたりしながらclip先端と周囲を確認しつつclipを閉じます。

過度にdomeを引っ張る方向に力をかけてneckが裂けると大参事なのでそれは避けましょう。基本は母血管に押し付ける方向。でも押し付けすぎた状態でclipを閉じると母血管狭窄・kinkの原因になります。

反対の手は吸引管をもち、domeや母血管を操作して上手くclipがかかるようアシストします。domeの安全な部分を軽く吸引してclipの中に引っ張り込む操作はよくやります。

 

clipを閉じていく際に一番neckにストレスがかかるので、大き目の瘤の場合はtemporary clipで瘤圧を落としておくことも検討します。(より巨大な場合はsuction decompression)

 

clipがかかったらもう少しaggressiveにdomeの裏を確認し、先端が届いていること、穿通枝をかんでいないこと、母血管や分岐する血管がkinkしていないことを確認します。

 

 

この辺で一旦やめて、次回はこの状態からのトラブルシューティングを扱ってみます。

 

 

ではでは。

 

閉頭

 

閉頭に焦点を当ててなかった気がするので閉頭についてtipsを交えながら語ってみたいと思います。

 

とは言え、こちらも例によって施設ごとにかなりやり方に差があるところなので、自分の経験に基づいた話になります。

 

硬膜内の操作が終わり、術者が止血を確認し終わったところから(マイクロを外して)閉頭作業に移ります。

 

 

①硬膜の閉鎖

まずは硬膜を閉じます。

使用する糸としては4-0もしくは5-0を使用することが多いかと思います。

吸収糸・非吸収糸どちらも使用され、縫い方としても単結節もしくは連続どちらもあり得ます。色々なやり方がありますが、要するに髄液が漏れないよう硬膜が閉鎖できればOKです。

単結節縫合で何か所か合わせておいてから非吸収糸で連続縫合、という方法が多いでしょうか。

連続縫合の方が閉鎖力は高くなるし早いです。

髄液漏を起こさないよう、水密(water tight)が目標となります。

最後に硬膜下に水を入れ、明らかな漏れがないことを確認します。(持続的な水漏れがなければ、炎症による治癒過程で接触している組織同士はくっつくので、小さな隙間も最終的に塞がります)

 

開頭時に硬膜が欠損したり、過度に縮んでしまってどうにも寄らなそうな場合は、骨膜もしくは側頭筋筋膜でパッチをあてる部分を考慮した上で位置を考えて縫合します。

パッチをあてる際はin-layとした方が閉鎖力は高くなります。

小孔程度であれば側頭筋筋体などでパックして縫合する方法もあります。

 

フィブリン糊などはあくまで補助的なものであり、おまけ程度に考えておいた方が良いかと思います。

 

あと、これは閉頭全体を通してのコツですが、biteを大きく取り過ぎないことは意外と大事です。

例えばコの字状に切開した硬膜を端から縫うときにbiteを過度に大きく取ると、対側の余裕が減って寄りにくくなります。

また、組織のテンションが高く寄りにくそうな場合、大き目にbiteを取ってしまいがちですが、これも結局寄せる点同士(針の穿通点の距離)が離れるので逆に寄せにくくなることがあります。

かと言って脆弱な組織だとある程度biteを大きくしないと結ぶ段階で千切れてしまうという面もあるのでそこはトレードオフの関係になっています。

 

 water tightについてもう少し言及しておくと、もちろんくも膜が破れていないような手術では髄液は出てこないので、特に髄液漏は問題とはならないはずです。

急性硬膜下血腫で外減圧などする場合、硬膜を切開して減張したのち人工硬膜を用いてゆるく硬膜を縫合することがあるかと思いますが、ここでwater tightは求められません。

テント上、比較的前方の開頭であれば、多少water tightが甘くても仰臥位で寝ているときに髄液の圧がかかりにくいので髄液漏が問題となることは少ないように感じます。(自然に癒着する)

やはり問題となるのは仰臥位で髄液の圧がかかり続ける後頭蓋窩です。しっかりwater tightにしないと皮下に髄液がたまり、髄液漏や髄鼻漏に繋がります。

 

 

②吊り上げ(tenting)

硬膜はもともと骨の内面に癒着していたものであり(厳密には骨と接しているのはperiosteal duraの方)、開頭で剥がしたそれを元の状態に戻すイメージです。

皮下、硬膜外の術後の出血が脳を圧迫するのを予防します。(そもそも止血はしっかりするとして、あくまで予防)

骨縁と骨弁の中心付近に穴をあけて硬膜にかけた糸を通し、硬膜を骨と密着させます。

 

 

③骨弁の固定

ここが一番施設によっていろいろなこだわりがある点でしょうか。

基本的にはチタンプレートなどを用いて周囲の骨と固定します。安定させるため、強度をある程度保証するため原則3か所以上留めます。

burr holeなどの大きなgapはカバーするようにすること、なるべく段差を作らないようにすること、毛髪のない部分(前額部など)はなるべくプレートが出ないように、平坦になるようにします。(皮膚が薄いと目立つ)

どうしても開頭の際にカッターが通った分の隙間が生じるので、極力毛髪の外に出る部分に寄せて隙間をなくし、逆に出来た隙間には骨くずを入れたりします。(骨再生の足場になるらしい…本当だろうか)

時々骨が元の面より落ち込んでしまうことがありますが、その場合はプレートを追加して持ち上げたり、大き目の骨片(リウエルでかじったもの)をくさびのように使ったりします(骨弁の一部を持ち上げた状態で隙間にくさびを挟み込む感じ)

 

 

④側頭筋の再建

側頭筋は縮みやすいですが(特にtwo layer)、縫合する前に最初に用手的に伸ばしておくと少しマシです。

元の解剖を意識しながら筋膜同士を縫合しますが、ここでもbiteは取り過ぎないようにします。3-0の吸収糸を使用することが多いでしょう。

側頭筋の頭側の方で(側頭筋が縮むために)届かなくなることが多いですが、その場合は糸で引っ張るに留めておきます。

糸をかける先は上側頭線上に縫い代として開頭時に残しておいた筋膜断端だったり、すべて剥離していれば骨に穴をあけてそこに縫い付けたりします。(穴は穴開け用のドリルを2方向から入れてトンネルを作る)

 

 

⑤帽状腱膜の縫合

皮弁にかかるテンションが十分に減張出来るぐらいに縫合します。

原則帽状腱膜のみを縫合するようにし、若干皮下組織を取っても良いですが毛根より表層には針を出さないようにします。(脱毛の原因になる)

ここでも帽状腱膜に針を通す際、biteを取り過ぎると、表層が外反して創縁が合わない(脂肪がはみ出す)原因になるので気を付けます。

あと大事なのは皮弁を操作する際に毛根を痛めないことです。有鈎鑷子で皮弁の真皮層のみ(毛根より浅い層)をつまむようにします。

動脈性の出血があれば(開頭時に処理しているはずですが)、適宜止血します。

皮膚の毛細血管からの出血は止めようとすると時間がかかるのと毛根を痛める原因になるので結局さっさと閉じるのが良いと思っています。

 

 

⑥表層の閉鎖

skin staplerを用いることがほとんどでしょう。

とにかく創縁同士がしっかり合うように、鑷子で高さを調整しながら打っていきます。(毛根は摘ままない。)

一見合っているように見えて片方が内反していることが多い(特に耳周り)ので気を付けます。

どうしても合わない場合は皮下縫合がおかしいことがあるのでやり直します。それでもダメなら他の部位のしわ寄せだったりするのである程度長さをとって一部に負荷がかかり過ぎないようにstaplerを打ち直すか、ナイロンなどで縫合しましょう。

 

 

 以上。

初めて外部のcadaverに参加しましたが非常に勉強になりました。

なるべく年1-2回は参加するようにしたいところです。