脳外科 resident notes

若手脳外科医による(基本的に)脳外科レジデントのためのブログ。病気のことや手術のことについて語ります。

穿通枝について

 

かなりふわっとした、全くアカデミックではない、でも大事な穿通枝についての話をしてみます。

 

穿通枝は、基本的に(相対的に)太い動脈の側枝として存在します。例えばM1(2-3mm)から起始するLSA(300-700μm)のような感じですね。

当然ながら、主幹動脈の方に血流が存在するからこそ、穿通枝の方にも必要な分だけ血流が保たれます。

 

さて、ここでM1が穿通枝を分岐した直後の部分で突然閉塞したとします。この場合、穿通枝の血流は保たれるでしょうか?

答えは『保たれるかもしれないし、そうではないかもしれない』ですね。

ある程度の太さがある穿通枝であれば、太いM1に乗って流れてきた血流をなんとか消費して血流は保たれますが、細い穿通枝の場合、それだけでは血流を消費しきれないため(flow out先がない)、血流が滞ってしまい、結局穿通枝が詰まるということもあり得ます。

この感覚が大事です。

ある程度血管が細くなっていき、そこからある程度太めの穿通枝が出る分には血流が保たれることもあるかもしれない、という感じです。

この「ある程度」というのは、母血管と穿通枝の径の比、穿通枝がMaxで処理できる血流量など考えればモデル化できそうですね。そういう文献もあるかもしれません。(ちゃんと探してない)

 

この感覚がどういう場面で大事かというと、例えば頭蓋内内頸動脈をtrapする時などです。

前脈絡叢動脈(AchA)のjust proximalで止めた場合、IC topからの逆行性の血流がAchAにちゃんとflow outし続けるかは、そのICAとAchAの径の比やAchAがどれだけ血流を消費できるかに依ります。

では、Pcomのjust proximalで止めた場合はどうなるでしょうか。

今度はIC topからの血流はPcom→PCAと流れていくため(bypassやcross flowの状況に寄ってはPCA→Pcom→ICAかもしれませんが)、AchAは側枝となり細くても閉塞しません。

Pcomのproximalで止められない場合は、実現可能かどうかは置いておいて、IC topからAchAに向けて徐々に細くなっていくような形でclipをかける(あえてAchAへの血流を絞る)、なども工夫としてはあり得るわけですね。

 

後は、心原性塞栓でM1が閉塞した時など、線条体内包梗塞(striatocapsular infarction: SCI)と呼ばれる、基底核だけに大きめの梗塞が生じる現象に遭遇したことはないでしょうか?

これ、割とよく見ますよね。

LSAが複数(もしくは全て)閉塞する+皮質の方は側副血行で梗塞を免れることで結果的に起きる梗塞ですが、これはM1全長を閉塞するような長い血栓によって起こっているわけではない(そういうこともあるかもしれないけど)、ということはここまでの流れから分かってもらえると思います。

例えばM1 midのみの閉塞だとしても、前後の穿通枝も虚血となり得るので、SCIになる可能性があるということですね。M1 proximalでも、distalでも同様です。

 

VA解離などで母血管をtrapping(直達でもinternal trappingでも)をする場合にも同じことが問題となってきます。

解離部に穿通枝が巻き込まれている場合はもちろんその穿通枝は助からないことが多いですが、解離部の近くから出ている穿通枝であっても救えるとは限りません。

つまり、clipをかけるかcoilでinternal trappingを行って母血管を遮断する際に、なんとか形の上では穿通枝を温存できた!と思っても、stumpになっていると結局詰まってしまうかもしれないよという話でした。

 

血管内治療のX線防護衣について

 

番外編。余談です。

 

血管内治療や脳血管造影をする時に着るあの鉛の防護衣、暑いですよね。

重いし、通気性は一切ないので、長時間の治療の後だとスクラブが汗で変色しているなんてこともしばしばあろうかと思います。

 

実は、ご存じの方も多いかと思いますが、ファン付きのX線防護衣というのが存在します。

 

以前いた施設に置いてあり、最初に使った時は感動しました。長時間着ていても全然汗をかかない!

ファンやバッテリーの分、全体の重さとしては重くなっているのですが、そんなデメリットは全く気にならない快適さです。

 

ところが、次に異動した施設では、ファン付き防護衣がありませんでした。(というかない方が大多数ですよねきっと)

久しぶりに通常の防護衣で治療をすると案の定汗びっしょり。不快です。

 

ファン付きの快適さに慣れた結果、ファンなしでは血管内治療ができない身体になってしまっていました。

 

耐えきれず、個人でファン付き防護衣を買おうかと思いましたが、なんと18万円ぐらいします(空調システム付きX線防護衣でググってみてください)

 

高すぎるし、異動の度にそれを持っていくのも嵩張るし嫌だ、何か手はないものかと考えた結果、良いものを見つけました。

 

 

それが空調ベストです。

前からワークマンとかでそういうものを売っているのは知っていたので、Amazon楽天で探して買ってみました。安かったのでアイリスオーヤマ製のものにしましたが、そこら辺のホームセンターでも別メーカーのものを売っているのを見ました。相場は6000-8000円ぐらいでしょうか。空調システム付きの純正防護衣とは比べ物にならないぐらい安いし、持ち運びも楽です。(そりゃ鉛の分の値段がないので安いに決まっているのですが。)

 

 

届いたものを着てみると、確かに涼しい。

ですが、吸気口がflatになっているため、そのまま上から防護衣などを切ると吸気口が塞がれてしまって空気が循環しなくなってしまいます。重たい上に重ね着をしていることになり、より暑くなるという最悪な事態に。

ひと工夫が必要で、要は吸気口をメッシュ状のドームのようなもので覆ってスペースを作ればいい訳なので、自分は百均で見つけたマスクフレーム(こんなものがあるなんて知りませんでした)をいい感じに外側につけて吸気口が塞がれないようにしました。

 

 

これで今は無事快適に血管内治療が行えています。以前使っていたファン付き防護衣と、体感としては遜色ありません。

吸気口塞がれないようにするところがちょっと面倒かもしれませんが、興味のある方はぜひ試してみてください!ありとなしでは全然違いますよ!

 

 

内頸動脈閉塞症に対する血栓回収療法

 

血栓回収は、中大脳動脈(M1)閉塞の方がICA閉塞よりも考えるポイントが少なくて簡単だと思っています。(個人の見解)

 

自分の下で研修しているレジデントの先生の発言を受けて、内頸動脈(ICA)が詰まった場合の血栓回収にはいくつか考え方にコツ、というか注意した方がいいところがあるなと思ったのでまとめてみます。

 

 

注意点その1. MRAでICAが起始部から写っていなくても起始部閉塞とは限らない

 ここがICA閉塞の難しいところです。M1閉塞であれば、血栓の直前まで大体穿通枝などがあり血流が保たれるので(stumpになって流れないことも往々にしてありますが)、MRAで途絶している部位≒血栓があるところなのですが、ICAではそうとは限りません。

 例えば心原性の血栓がC3のちょうどサイフォン部分に引っ掛かって完全閉塞したとします。ICA閉塞としては多いパターンです。

 それで眼動脈の血流もなくなっている場合、ICA起始部から血栓がある部分までの血流も滞ります。(血液の抜ける先 out flowがないため)

 ということでICAの有効な血流が起始部からなくなるので、MRAで見るとICA起始部から閉塞しているように見えるというわけです。外頸系も太くない場合で体動のartifactも強いと総頸動脈から見えないこともあります。ただ、総頸動脈閉塞というのはかなり稀なので、MRAで総頸動脈閉塞です、と言われたら「本当か?」と疑うと同時に、仮に本当なら大動脈解離を考えないといけません。大抵血管撮影したら普通のICA閉塞ということが多いです。

 その昔、自分はC3-4辺りが閉塞してICA内の血流が滞った場合は、ICA起始部まで全て滞った血液が固まってすぐ血栓になるのだと思っていましたが、不思議と(?)時間がある程度経ってもそうはなりません。こういう場合、総頚動脈から血管撮影をすると、造影剤がICA起始部の辺りに二ボーを形成して留まる感じになります。その造影の感じで起始部狭窄の有無は判断できます。

 意外とこの閉塞部位とMRAのギャップをきちんと把握できていないレジデントが多いような気がしました。(分かってるならもちろん良いんですよ…) まあ普通に考えれば、よほどの巨大血栓でない限りは狭窄のないICA起始部に引っ掛かることはないですよね。大抵サイフォンのところで引っ掛かるか、M1-2まで行くかというところだと思います。

 

 ちなみに、血栓がC1-2で引っ掛かって眼動脈までの血流は保たれている場合はどうでしょうか。あるいは完全閉塞にはなっておらず、血栓の隙間から少し血流が保たれているという状況もあり得ます。血栓がC1のみでPcomまで血流があるという場合も考えられますね。

 これらも、通常に比べると血流が弱くなるので、MRAではICA起始部から写らなくなることがあります。3T MRIなどで体動なく時間をかけてとれば薄っすら写るのかもしれませんが、なかなか脳梗塞急性期の環境でそうはいきません。

 先ほどと違う部分ですが、これらの場合、総頸動脈からの脳血管撮影では造影剤がゆっくり上がっていくのが確認できます。(ゆっくり上がって眼動脈やPcomに抜けるか、血栓の隙間からA1-M1が写る)

 

 ということでまとめると、

・MRAでICAが起始部から写ってない!→ ICA起始部閉塞だ!という考えを捨てよう(そうでないことの方が多い)

・まずは脳血管撮影で総頸動脈から造影して起始部閉塞がないかどうか確認(高度狭窄からの急性閉塞もあり得る。事前に頸動脈エコーすればそれで分かることもある。この場合頭蓋内のタンデム病変などがあることもあり、PTAやCASなども関わってきてややこしい話になってくるので注意 下記)

・同時に造影剤が上がっていくか確認 → 上がっていって眼動脈が描出されれば血栓はC2以遠、全く造影剤が上がっていかなければ血栓はC3より手前から存在すると予想される

 

 

注意点その2. 側副血行を考える

 血栓がIC topまで及ばずにC1までで留まっている場合、術前の頭部MRAで、Acomを介したcross flowによりMCA系が見えていることがあります。それでも虚血症状が強く、でもDWIで広範なhighは出ていないというパターンを時々経験しますが、これは血栓回収が著効するタイプなので頑張りましょう。(つまり側副血行が発達しているために、発見が遅めでも予後がいい、少し時間に余裕があるタイプ)

 そのようなIC topまで血栓が及んでいないタイプの場合、lesion crossなどにより血栓をdistalにmigrationさせてしまうリスクがあるため、しっかりバルーンでICAの血流を止めたりlesion crossを愛護的にするなど、普段以上により配慮が必要です。そもそもlesion crossしないADAPT firstにするのも有効でしょう。

 ICAおよびMCA系も全て写っていない場合(かつICA起始部狭窄がない場合)は、①血栓がM1~ICAまである比較的long lesionのパターンと、②血栓はC1-3辺りだがどちらかのA1もしくはAcomが低形成(無形成)、③その両方というパターンが考えられますね。

 

 

注意点その3. tandem lesionの可能性を頭に入れておく

 もともとICA起始部に狭窄がある場合、そこが急性閉塞を起こすパターンと、そこからのA to A embolismで同側のM1-2閉塞を起こして発症というパターン、両者を同時に起こすパターンがあります。

 MRAでICA系が写っておらず、術前のエコーや術中の造影などでICA起始部に狭窄があることが判明した場合、頭蓋内にも閉塞している部分があるかもしれないと思って対応するのが大事です。

 tandem lesionであった場合、最近のエビデンス的には頭蓋内の再開通を優先した方が良さそうなので、吸引カテーテルが上がる程度の狭窄なら狭窄部はスルーして先に頭蓋内治療に行きましょう。この場合バルーン付きガイディングカテーテルが狭窄部を通過しないようであれば総頸に置いておいていいと思います。

 高度狭窄で吸引カテーテルも通らないということであれば、PTAを先行して吸引カテが通れる隙間だけ作るということになります。頭蓋内再開通後(この場合はおそらくCombinedでASAPがいいでしょうね、吸引カテを下げなくて済むので)、狭窄部がさほどでなければそのまま終了、狭窄が強かったりrecoilしてくるようであれば緊急CASということになります。

 それを見越して高度狭窄が判明した辺りでDAPTをローディングしておくのがいいと思っていますが、t-PA後だと原則24h抗血栓療法は禁忌となってしまうのでまあ難しいところです。(最近はそれでも色々手続きを踏んだうえで使っています)

 

 

 久々の更新は以上。最後のtandem lesionに関しては様々なstrategyがあるところだと思うので、参考程度にしてください。

 

Acom瘤に対するinterhemispheric approachのバリエーションについて

 

Acom瘤を開頭でclippingする場合、まず前から行くか横から行くかという選択肢がありますよね。(そもそも最近はcoilingで行くことが多くなりましたが…)

 

これに関しては色々な施設で色々な方針があるかと思いますが、おそらくもっとも一般的かつ中庸な方針としては、「瘤の突出方向が上向き、後ろ向き」「大きさが10mm以上」「前頭蓋底から10mm以上でhigh position」であれば前から(interhemispheric approach)を選択し、それ以外であれば横から(transsylvian approach、pterional approach、subfrontal approach)を選択するというものではないでしょうか。

 

今回は、その中でもinterhemispheric approachのみに焦点を当てて考えてみます。

 

interhemispheric approach(以下IHA)と言っても実はバリエーションがあります。

 

・anterior IHA(以下AIHA)かbasal IHA(以下BIHA)か

BIHAは、開頭をnasionの方に切り込んで前頭蓋底ぎりぎりまでにすることで、「bridging veinが少なく適応可能な症例が多い」「大脳鎌をbaseで切離し、両前頭葉底部のくも膜まで開くことで広く浅い術野が得られる(大型の動脈瘤にも対応可能)」といったメリットを享受する方法です。

デメリットとしては、前頭洞が開放されるためその処理が必要で多少時間がかかる、両側の嗅神経を操作するため一定の割合で嗅覚障害(一過性、永続性)が発生するというところです。早期に嗅神経の剥離、保護といった操作が可能ではあるのですが、完全には嗅覚障害を予防できないというのが広い術野を得ることのトレードオフとして存在します。

AIHAの定義は、BIHA以外のIHAということになるでしょう。前頭洞を開放せず、開頭位置がBIHAよりも高い位置になるのが特徴です。しかしながら、AIHAでも両前頭葉底部のくも膜まで開くことは可能ですし、開頭位置が低めで前頭洞があまり上まで発達していない人であれば途中で嗅神経の剥離を行うことも実際は可能です。

なので、BIHAというと大体同じ方法を指すのですが(それでもバリエーションはあります)、一言にAIHAといっても実は割とバリエーションがあるというところが今回のポイントです。

 

・両側前頭葉底部のくも膜を開くかどうか

ちょっと触れましたが、これも選択肢です。rectal gyrusの底、横からのapproachでもちょっと開放するあのくも膜ですね。切ったらいいやんと思うかもしれませんが、より左右の前頭葉間が開いてスペースが取れる代わりに、おそらく嗅神経障害が出やすくなります。前頭葉を左右に広く開く=嗅神経がさらに引っ張られるということです。

そこのトレードオフなので、必要がなければ(つまり動脈瘤の大きさや形状などから可能な限りの広い術野を確保しなくても良いということであれば)そこの膜は残しておくのが良いのかもしれません。

Acom周囲は剥離して、前方(術野手前)の方は剥離せず残しておくという方法もあるでしょう。

くも膜だけ残すでも良いですが、左右のrectal gyrus間は強く癒着していることが多いので、そもそも底部から1-2gyrusは剥離せず残しておくという手もあります。

 

脳梁膝部を見るかどうか(どこまで背側(術野手前、術者の腹側)の剥離をするか)

classicalな方法では、まず脳梁膝部(genu)の方向に進み、両側A3とgenuを確認し、そこから切り上げる形で両側前頭葉間の剥離を進め、Acom complexに至るという手順を取ります。

が、積極的にgenuを出さずに、pericallosal arteryが確認できたらどんどんAcom方向に剥離を進めていくという選択肢もあります。

特に、BIHAでは前頭葉底部のgyrus間(rectal gyrusなど)の剥離のみでAcom complexを観察することも可能です。(ただし術野は狭くなり、BIHAのメリットの1つである広いworking angle(特に上下方向)は達成できない)

genuをしっかり出すと、「剥離範囲が上下に広くなり最終的にworking spaceが大きくなりやすい」「下から切り上げる操作がしやすく、剥離難易度が下がり軟膜を損傷しにくい」「何かあった際にA3-A3バイパスが行える」といったメリットが生まれます。

ダイレクトにAcomに行くような形にすると、「狭く深いシリンダー型の術野になりやすい」「剥離の難易度が高い」と言ったデメリットはありますが、慣れた上級者なら「早くて低侵襲」かもしれません。瘤が大型でなく、高位や向きの問題でIHAを選択している場合、そこまで広い術野は必要なく、これで良いという見方があります。

 

・開頭をSSSを跨いで両側にするか、片側にするか

BIHAでは片側にするという選択肢はないと思いますが(前頭洞の処理が大変)、AIHAでは片側にすることも可能です。

AIHAで両側にした場合、対側も硬膜切開したり、可能であれば大脳鎌も離断することで別角度からの視軸が取れ、最後のworking angleの自由度が増すというメリットがあるでしょう。が、そこまでするなら最初からBIHAにすれば良いのではという話ですね。

それに、AIHAで両側の前頭葉を引くことは両側の嗅神経障害に繋がります。(BIHAでは初期に嗅神経の処置を出来るので、それよりは嗅神経障害のリスクは低いと思われる)

逆に言うと、片側の前頭葉を外側に引くのみであれば、対側の嗅神経は最後まで痛まない可能性が高いので、嗅覚障害が出にくいという側面があります。(片側だけでも残っていれば最悪の完全嗅覚脱失は避けられる)

これは割と重要なポイントで、IHAの弱点である嗅覚障害をなるべく避けたいのであればBIHAではなく片側のAIHAを選択するというのは理に適っています。(approach routeにbridging veinがないことを術前にしっかり確認する必要はあります)

しかしながら、IHAを選択する理由が大型動脈瘤や複雑な形状の動脈瘤に対応するためである場合、working space/angleを極力大きく取るのが目的となるので、そこは嗅覚障害のリスクを取ってでもBIHAということになるでしょうね。

 

 

以上。

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